7 小さい家はちょっとだけ普通ではありませんでした。
どーんんん・・・!
と重いものが落ちる音を想像したのに、数トンある筈の家は物音ひとつなくその場所に降りた。
床部分が光っていたから、重量軽減の魔法でも掛かっていたのだろうか。
なんにせよ騒音も粉塵も出ないのはありがたいことだ。
早速家に入ろうとして、鍵が無いことに気付く。
「んー?」
これは、無くても開くって事か?
収納の中に家の鍵は無かったし、入っていいって事にしよう。
普通玄関ドアは外開きだと思うのだが、目の前のそれにはノブが無い。
手のひらを当て押し開くため力を入れると、その瞬間その場所が光った。
【住人の魔力を登録しました】
ポーン♪という軽い音に続いて、そんなメッセージが目の前に出た。
魔力を登録・・・指紋認証みたいなもんか?
ってことは、魔力というのは個々で少しずつ違うものなのか。
DNAとか、そんな感じか。
一度ドアから手を離し、もう一度触れると木のドアが横にスライドした。
「・・・」
それは想像した動きと違って、ちょっとビックリした。
丸太小屋に自動ドアがあるとは思わないじゃん?
それとも、こっちの世界ではこれが普通なのか?
魔法がある世界なんだから、そうなのか?
比較対象が無いから何とも言えないが、とりあえずこの家は『そういう』もんだと思うことにした。
なんせくれたのはカミサマだし。
深く考えても答えなど出るわけないのだ。
アタマを切り替えて中に入ると、そこはすぐに生活領域。
日本なら家に入るとまず上がり框があってそこで靴を脱ぐのだが、この家にはそれが無い。
生活様式は欧米式か?
俺、家の中は裸足でいたいタイプなんだけど・・・。
中をぐるっと見てみると、入り口を入ってすぐ右側はキッチン。
台所には鍋やフライパンもあった。
作り付けのキャビネットには皿やコップなどの食器、カトラリーは何故か二組ずつ入っていた。予備か?
ダイニングテーブルはこの家に見合った小さめサイズ。
椅子は2脚。これもまたなんで2脚?と思わないでもなかったが、市販で売っているセットを思い浮かべ、そういうもんかと無理やり納得させた。
反対側はいわゆるリビングスペース。
テレビもパソコンもなかったが、入り口横の壁に沿って本棚があり、半分以上が埋まっていた。
その向かいに大きなソファ、俺が横になっても余裕の、幅も長さもある。ベッド代わりにもなりそうな。
二つあるドアの向こうは、一つは水回り。風呂とトイレと、洗面台。風呂とトイレは別になっていて、ユニットバスが嫌いな俺はカミサマにちょっと感謝した。
もう一つの部屋は寝室。
「・・・でか」
ベッドはダブル・・よりデカい。クイーン?キング?そんなベッドに寝たことが無いからサイズ感が分からん。
「・・・」
なにか、あるのか?
そう勘ぐっても仕方ないだろう。
一人だと分かっている人間の部屋に用意された必要以上に大きなベッドに二人分のあれこれ。
なんだ?どういう事?
こっちの世界で恋人ができたら一緒にここに住んでいいよって事?
っていうか、これ、この部屋の広さおかしくないか?
外から見た家のサイズに対して、若干中が広いような・・・?
これも魔法か?・・・収納の応用みたいなものなのか?
・・・神様特典って事でありがたく使わせていただこう。うん。色々貰い過ぎてるけど、対価とか考えるな俺。なんにも知らない振りしとけ。
いきなり放り込まれた俺に使命なんかあってたまるか。フラグなんて立ってないぞ。
ベッドの脇にはクローゼットがある。
何も入ってないそこに、空間魔法の収納から服の半分を入れる。
全部入れないのは一応の用心のためだ。
出掛けた先で何かあって、家に帰れなくなった時・・・と思ったが。
「・・・出掛ける時は家も収納しちゃえばいいんじゃね?」
五百万立方メートルの大容量倉庫が自身に備え付けなのだ。
家ごと持ち歩けば帰れない心配なんてしなくていいじゃん!
この考えが普通じゃない事を、異世界初心者の俺は全く知らなかった。
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