3 どうやら死ななくていいらしい
「じゃあ俺は、ここで死ぬわけ?」
元の世界じゃ俺はもう死ぬどころか最初から存在もしてないことになってんだろ?
こっちの世界は元々俺が来ることなんて想定してない。
つまりここにいる俺は異分子でしかない。
あーあ。
せっかく仕事頑張ったのになー。
享年26歳って早死にし過ぎだろ。
まだ何者にもなってねえよ。
そんな自己顕示欲とかは無いけどさ、せめて飛び込み営業から新製品発売まで持って行った俺の努力くらいは誰かに認めて欲しかったなー・・・。
おつかれさんビールも無しかよ、ったく。
ふー・・・とため息をつきながら短くもそこそこ楽しかった人生を思い出す。
あー、親になんも残さなかったな、とか一瞬思ったけど、そういや多分親も俺の事なんか覚えてないんだなと苦笑した。
色々ありすぎて涙なんて一滴も出てこないけど。
「・・・とりあえず、痛いとか苦しいとかはナシな」
覚悟を決めて目の前の爺さんにそう告げる。
世界から爪弾きにされて、その上死ぬ時まで苦しいのは絶対嫌だ。
睨みつけるように爺さんの目を見る。
目ん玉の真ん中は赤色で、縁は緑。そんな目の色見たことねえよ。
今更ながらに、ここが俺の知ってる世界じゃないと実感して内心笑った。
「やるならほら、一思いにさ。爺さんだっていらん荷物がなくなってさっぱりするだろ?」
目を閉じ、その時を待つ。
しかし。
「・・・・・・?」
いつまで経っても何も起こらず、物音すらしない。
不審に思って目を開ければ、爺さん神さんは目を閉じ、何かぶつぶつと唱えていた。
「おい、神さん?」
呼びかけると、爺さんはゆっくりと目を開け俺にニヤッと笑い掛けた。
何、ちょっと怖いんだけど。
「ハルカよ」
「な、なに」
「たった今、理の神から許可を得た。
そなたを私の世界に迎え入れる。・・・そなたさえ良ければだが」
俺を迎え入れる、てことは死ななくていいって事か。
だがしかしだ。
「サランラ・・プ?」
「サランラークだ」
「すまん。そのサランラークって世界は俺がいきなり行って生活できるようなとこなのか?」
身内も知り合いも一人もいない見知らぬ世界。
とりあえず基礎知識だけでも欲しいところだ。
あとは誰かに会ったら営業で培った愛想でどうにかしてやる。
「ああ、そういえば言葉は通じるのか?」
これは大事だ。
さすがに一から勉強するのは気が重い。
「ふむ・・・そなたには多大なる迷惑をかけた事だしのぅ。
不便の無いようにしてから送り出してやらねばの」
「まあ・・・そのほうが助かるけど」
「ならば・・・・。
とりあえず必要なのは金子か。あとは言語の自動翻訳。火も水もいるな。うっかり魔獣の巣に迷い込んでもいかんし、サーチもいるか。ええい面倒だ、全種上級魔法を付与してやれ。
ああ、癒しの力はハルカの体液だけに反応するようにしておくか。聖女のように奉仕するわけではないからの。うん、我ながら良い閃きだ」
「・・・・」
爺さん神さんは長い髭を撫でながらぶつぶつぶつなんか言ってるけど、それ、俺に聞こえないと意味なくない?
「うん、よし!」
「・・・」
なにが『よし!』なんだよ。
「とりあえず、色々サービスしておくから、末永く楽しく生きてくれ。
私は送り出した後の干渉は基本禁止されておるから、ここでお別れだ」
「いや、なんも分かんないけど」
「大丈夫だ。地上についたら自分のステータスを確認しなさい。
それで万事解決に繋がる筈だ。
ようこそ我がサランラークへ。ハルカ・ツヅキよ。
汝に幸多からんことを祈る」
爺さん神さんはそう言って、どこかからか出した杖を振る。
「ちょ・・・」
「さらばだ、ハルカ」
――――――そして、今に至ると。
「こんな何にもない森の中でどうしろって言うんだ、神さんよ」
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