2 巻き込まれた俺は帰れないらしい
階段から落ちた女を助けようと降りた踊り場が光って、気付いたらどっかの広い部屋にいた。
だだっ広い、床も壁も白い、ただ広いだけの部屋。
「いやはや、すまん」
そして、目の前ではまるでサンタクロースのような、腰まである白い髪に長い髭、白い、足首まであるワンピースのような服を着た爺さんが俺に謝っている。
訳が分からない。
じーっと見つめるとその爺さんはあれから何があったのかを話し始めた。
が、それは到底信じられない話だった。
「そなたが助けたあの娘は聖女じゃ。
こちらの手違いでそなたらの世界に生まれてしまったのでな、此度召還紋でこちらの世界に戻したのだが、そなたはそれに巻き込まれてこちらに来てしまったのだよ」
聞いた瞬間、ラノベかよ。そう思った。
聖女とか、召喚とか、最近流行っているらしいけど俺自身は読んだことは無い。
帰宅後たまたま点けたテレビでそんなアニメが放送されていて、もう一度リモコンを拾うのも怠くてそのまま見た。
そのたった1話分の知識しかない。
そんな俺が。
「・・・俺のこの状態も手違いだと」
「いや、すまん。それは私の不注意じゃ」
オイ。
「本来なら召還紋には聖女以外乗るはずが無かったのだ。
万が一他の人間が乗ったら排除するよう見張っていたのだが、・・・・召還の瞬間くしゃみが出てしまって・・・」
「・・・・」
「その、排除の術が間に合わなかったというか・・・」
爺さんが上目遣いしても可愛くもなんともないんだけど?
それより今最大の問題点は。
「で、俺は帰れるのか?」
これに尽きる。
ラノベの世界に興味は無い。
明日には副主任として頑張ったプロジェクトが一応の終わりを迎えるんだ。
ビールで乾杯してやるんだよ。
なのに帰ってきた答えは無情にも。
「ハルカ、すまない。
そなたは元の世界には帰れない。
あの召還紋は聖女を、間違った世界に生まれた者を呼び戻すために私が特別に理の神に許可を貰って描いたもので、異世界の者を召喚するためのものではないのだ。
そもそも異世界人召喚は禁忌であり、ただ一つの世界を管理するだけの私がどうこう出来る事ではない」
「・・・ことわりの神、って」
「ああすまない、名乗るのを忘れていた。
私はこの世界、サランラークを見守る神だ。
理の神というのは、そなたの世界でいうところの上司というところだの」
確かに見た目は童話とかで見るようなテンプレ的なカミサマだけどな。
つーか、サランラークって・・・サラ〇ラップのパクリみたいな名前だな。今どうでもいいけど。
それより。
「今の話だと、俺が元いた世界にも神がいるって事だよな?
そっちの神に俺が間違ってこっちに来てる事を知らせて、そのしょうかんもん?とかいうのを出してもらえば帰れるんじゃねえの?」
目の前の神さんが聖女を呼び戻したようにさ。
神さんにとっては簡単なことだろう?
そう思っていたのだが。
「それはもうした。
あちらの神にも詫びて、そなたを戻してもらえるように出来ないか伺いはしたが、あちらの神は否と。
既に召還紋の術によってハルカの記憶が周囲から消えており、それによる修正も済んでいる。
それ故ハルカがいなくなってもあちらの世界に影響は無く、かえって帰還させれば混乱が生じるからと、ハルカのための召還紋を発動させるのは断られている。理の神もそれを認めていると。
・・・あの召還紋を通った者は前の世界ではいないものとされ、誰の記憶にも残らない。そう、紋に術を掛けていたのだ。
本当にすまない・・・」
「・・・・・なんだよそれ」
つまり俺は、俺の世界のカミサマにいらないって言われたって事かよ?
こいつの上司とかいうカミサマも、それを放置ってか。
聖女サマは必要だけど、その他一般ピープルの俺は捨て置けって?
「ハ・・・」
やってらんねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます