聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話
月湖
1 どうしてこうなった
「あー・・・もう時間か」
プロジェクトも終盤、明日には新商品が出るという日の昼休み、横になっていたベンチから身体を起こし屋上から出るドアへと歩く。
ガチャ、とノブを回し建物に一歩入った瞬間。
ヤバい!と思ったかどうかさえ分からないほど咄嗟に走り出した。
「おい!」
目の前には階段から足を踏み外し下に落ちていく女子。
スローモーションのように長い髪が宙に浮き、駆けながら手を伸ばしたが間に合わず、それでも足を止めることはしない。
「くっそ!」
彼女の体が踊り場に叩きつけられるその瞬間。
「なっ・・・!」
その場に光が溢れた。
倒れた女子を中心に、すぐ脇に立った俺の足元にも。
強すぎる光に目を開けていられず、腕で目をかばい瞼を閉じる。
―――――――そして、気が付けば。
「・・・ここ、どこだよ」
目の前には緑の葉が生い茂る森。
鬱蒼とした、まではいかなくともそこそこ暗い森しか見えない。
よくよく辺りを見れば自分が座り込んでいるこの場所も、周りの木に比べて一際大きな木の根元だった。
上を見れば小さな生き物がピョンと枝を渡っていた。
・・・リスか?
生では動物園でしか見たことはない。
少しだけ興味が沸いて目を凝らす。
しかし。
「・・・・なんだあれ」
リスって、目ぇ緑だっけ?
目が合ったその生き物はピタッと動きを止め、俺を探るようにこちらを見ていた。
サイズは知っているリスより少し大きいだろうか。
尻尾は知った形だったが生えている本数が違う。
厳密には半ばから二つに分かれていた。
爪が鋭く、その口元には顔の大きさに合わない長い牙がある。
あの生き物には悪いが正直、可愛くは、ない。
少しの間じっと見ていると、そのリスに似て非なる生き物は興味を失ったように枝の上をトトっと走りやがてどこかに隠れた。
「・・・」
頭の中にさっきの動物を思い浮かべるも、見覚えのあるものではなかった。
というか、そもそもついさっきまで会社の階段の踊り場にいて・・・
そこまで考えたところで、何があったのかを思い出す。
「・・・・・・・ふざけんなよ?」
そして、口から出たのは呪詛のような低い声だった。
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