第236話 アンヌ
ラルフが死んだ。
この世から消えた。
沢山死んだ人を生き返して、自分だけ死んだ。
仲間に力を与えて、自分は空っぽのまま死んだ。
らしい。
私は祈り続けていたので顛末を聞いたのは少し後だ。
その時私は、ただ祈りが神様が誰かに届いて平和が戻ってくる兆しが見えたのかと思っていた。
そんな訳はなかった。
男の子が助けてくれた。
それだけの話だった。
おじいちゃんやサシュマジュク様や教皇、沢山の偉い人が話し合った結果、神の奇跡とした方がいい、と言うことになったらしい。
これから世界中で復興が始まるから、希望として心に残るだろうから、だって。
頑張ったのはラルフなのに。
私も聖女として慰問に周り大忙しだったけれど、どこか空虚な気持ちだった。
それをティナに話すと
「あら、アンヌ。
愛した人を喪ったのだからそれはそうよ。
私もそう。
それでも、腐ってたらせっかくラルフが救ってくれた世界が色褪せてしまうわ。
生きている人達で、生きて行くしかないわね。」
そう言われた。
そんな話をして自室に帰って1人になった時、涙が止まらなくなった。
そうか、ラルフの事が大好きだったのか。
おじいちゃんの策略にお互い嵌められた婚約者。
不満はないし、いい人だとは思っていたけれど、少しだけ恋をして、お付き合いして、そうやって結婚するものだと思っていたから、よくわからなくなっていた。
何日か涙が止まらなくなって、慰問に行けなくなったある日、ピリルルが訪ねて来た。
彼の親友で、今は龍王らしい。
どうやら彼も泣き腫らす日が多いらしくクリッとしていた目が少しだけボテっとしていた。
「これ、リオンって言うんだけど、ラルフに頼まれていたんだ。
多分死なないから探してくれって。
龍神の余波とラルフの突撃の衝撃でめちゃくちゃだったからかなり時間が掛かったよ。」
ただの棒を渡して来て、名前まで付けるなんて、悲しみで頭がおかしくなったのかと思ったら違った。
ラルフが使っていた剣の持ち手らしい。
生きている剣らしく元々は犬のような生き物で、死ぬ事はないけれど、今回バラバラになったから元に戻るのにかなりの時間が掛かるらしい。
ラルフにしかなつかないが、長く一緒にいてラルフと他の人の関係を理解しているらしく、私の元へ送られるのが適切と考えたようだ。
ピリルル君が持って居た方がいいんじゃない?
と聞いたが、またいつか龍が暴れた時の為に、人が管理して居た方がいいとの事だった。
「基本的には僕らがその役目を担って居るけれど、いつか狂ってないのに人に害がある龍が現れるかも知れない。
狂ってなければ僕らは出張れない可能性があるからさ。
なるべくどうにかするけどね、中々大変だよ、王なんて生き物は。」
形見を兵器として扱う事に少し不満はあるが、これを受け継いでいくのが私の役目だと思った。
ティナやサシュマジュクさんに相談して扱いを決めよう。
今回のことで、ラルフは祀られるらしいからそこに奉納しても良いだろう。
その内、死なない犬になるのならそこを守って貰うのもいいかも知れない。
ラルフの血筋が残っていたなら、その人達に任せてもいいのかも知れないけれど、結局私ともそう言う事は無かったから、選ばれた一族など存在しないのだろう。
いつまでも泣いては居られない。
ラルフの教会が出来るのならば、私がそこ付きの聖女になろう。
わがままを通せる様に実績を積まなくては。
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