第235話 光の奔流

前回の高速移動は横に移動した結果、光速を超えた身体が重力の呪縛から飛び出して宇宙のチリとなった。


敗因は横へ行ったからだね。


下に行けばいい。

下はこの世を破壊し尽くす化け物がいるだけだ。


神様は質量があると衝撃波で大変なことになるから、質量を消したと言っていた。


もし地面に激突しても惑星を破壊するなんて事は起きないだろう。

しかし、直接の死因は空中に漂う砂粒の様な石だった。

それが頭を貫いた訳。


自由落下を続ける僕の周りの空気が変わる。

理由は二つ。


一つは龍神が僕に向けてブレスを吐くつもりで魔力を凝縮させているから。


あんなの空気も変わるし当たったら死んじゃうよ、普通の人間なんだから。

でもそれは放たれる事は無いだろう。


何故って?


下まであと2000mほどしかない。

それを光速で落下したらコンマ秒の世界だ。

そんな一瞬であんな馬鹿みたいな魔力の塊が放てるもんか。


もう一つの空気が変わった要因。


このまま光速に達すると前回と同じく、空中を漂う何かで僕は死ぬ。

空気だって質量があるから、僕に質量が無くたってゼロに近いだけでゼロじゃないかも知れないから、身体が摩擦で燃え尽きて死んじゃうかも。

そんなギャンブルはしてられないから、調整役が必要で、そんな技術を持つものが親友だから、最後の能力としてこれを選んだと言ってもいい。


リスクを許容出来ればこんなにリターンの大きい能力はないからね。

なんたって目にも映らないんだから、比喩じゃなく。


ピリルルの微風が空気中に舞う全てを避けて行く。


下で起こっている戦闘で巻き上げられた砂や石や埃も、どこからか流れてきた何かわからないチリも、空気の抵抗も何もかも。


やっぱり君に頼んで良かったよ、ピリルル。


信頼しているよ。


お陰で僕は何も考えず没頭できるって訳だ。

文字通り、龍神の頭に沈んでやる!


ピリルルが作る風の筒のなかでリオンを頭の上に掲げて、能力を発動させる。

地面に向かう方が頭方向だから下に向けている訳だけど、僕から見たら上に掲げている。


なんだかなぁ。

最後の感想が上下逆さまだってさ。



龍神の頭から光が漏れて弾けた。


あの光は、身体のほとんどが魔力で出来ている龍の、龍神の魔力の奔流だろうか、のたうち回るように四方八方に飛び散る魔力は世界の終わりの光景の様だ。


でも僕には分かっている。


世界の終わりの光景などではない。


世界が救われた光だ。


僕はここに居ても平気だけれど、レッドの身体にはよろしくないね。

皆んなの元へ下がろうか。


「ピリルルさん。

親父…やったんすかね。」


そうだと思う。

ラルフが光った瞬間、すぐに龍神が弾けたからわからないが、あんなことラルフしか出来ないと思うから。


何をやったかは分からない。

どうやったのかも分からないけれど、言われた通りにしたよ、ラルフ。

上手く行って良かった。


…君の魔力は、感じない。



「なんだなんだ?

あの光は!

魔力…か…。


…やったのか…?」


ペリンよ、どうやらその様だな。

辺りを跋扈している魔物もその姿を消して行く。


川の支流の様な存在だ。

本流が止まれば全て維持できずに消えて行くだろう。


「魔法馬鹿、あの光は魔力だろう?

あんな中にいて婿殿は平気なのか?」


普通ならダメだろう。

過剰な魔力は肉体を腐らせる。


聖魔法の治療程度ですら蓄積すると内臓が腐り落ちるのに、あんな物のなかにいたら…。


そうなると分かって居たのだろう。

リオンと呼ばれるあの剣は、恐ろしい威力を内側に溜めていた。


聞けば一億近い本数の武器を一本に集約したらしい。


それでは神といえど当たればたまらないだろう。


私達がラルフの指示で一度死んだ際に、真っ白な空間にラルフが現れて全員に力を与えた。


私はその時に、ラルフは神の子から神になったのだな、と分かった。


神聖さや、神々しさが、いつか見た神、ラルフィードによく似ていたからだ。


そして、戦い始めて少ししてから現れたラルフには神々しさなどなかった。


教会の記録では、神が降臨するとき、強大な存在に世界が壊れかけるという。

そのくらいの力を持っているのだとか。

今回の龍神のだってかなり弱っているらしいが、それくらいのことを出来ることを見せつけられた。


そんな力など、降り立ったラルフには確実になかった。

初めて会った時の様な、弱々しい、そこらの人にすら勝てないだろう程度の魔力しか無かった。


きっとラルフは、神の力を私たちに分散した抜け殻で降臨してくれたのだ。


武器1億本分の剣の力を振るう為に。


そんなもの、振った者は耐えられずに死んでしまうに決まっている。


あの魔力に巻き込まれて居なかったとしても、人が耐えられる訳がない。


何故、私に言ってくれなかったのか。

お前の身代わりになることなど、いくらでもすると言うのに。


「先生。

終わったのね…。




なぜ泣いているの?」


あぁ、終わった。


…そうか。

エマも蘇らせてくれたのだな。

そうだな、私が、これから2人を守らなければ。

身代わりにはさせてくれそうにないな、ラルフ。

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