第229話 世界中から集めて

龍神は狂っている。

陽気な性格と赤い鱗は黒く染まり、吐く息は醜悪な魔力を帯びて輝いている。


狂った龍は弱くなる。


老いと思考能力の欠如で全盛期の力と比べると見るも無惨な、見る者が見れば同情すら覚えるほど弱体化する。


数多の狂った龍と戦った龍王が体感してきた強さは、全盛期の4分の1程度。


人にはそれでも荷が重いが、龍王ならば例え相手が龍神でも勝てる計算だった。


計算が狂った理由はいくつかあるが、一番大きいものは本来龍には不可能なはずの龍贄が龍神に限ってはその龍の力を奪う行為が可能だったこと。


龍賛と龍贄。


実はどちらも龍神が管理している現象であったので、狂った結果おかしくなってしまったのだろう。


弱い龍から力を奪い、逃げる動物や人間を無差別に喰らいながら練り上げた魔力は、もはや全盛期を超えていると言っても良い程に膨れ上がっている。


龍王が殺された時点で、世界は終わりに沈み始めていた。

誇張抜きで並ぶものの居ない世界最高戦力が負けたのだから、他の者が挑んだとしても勝てる道理はない。


そのまま狂乱に飲み込まれ、狂った龍が無軌道に暴れ回るだけの星になりかけていた。


しかし今は対峙する者が6人もいる。


世界中から集めた信仰の力と願いを込めたたった6人と、力を奪い尽くした龍の戦いはゆっくりと始まった。


ペリンが守りを担当する前衛。

シャルル、レッド、レイが攻撃を担う前衛。

パーシェロー、サシュマジュクが魔法で牽制やサポートをする後衛。


各々の役割は的確だったようで、致命傷を食らう事はなかったし、こちらの攻撃を当てることも出来た。

前回のラルフとピリルルの様に、全くダメージが通らないなんて事はない。


サポートも万全で、パーシェローの牽制とサシュマジュクの回復は戦線を維持するのに役立った。


しかし無尽蔵の魔力の塊は傷を与えれば、ゆっくりと元より頑強に癒し、吐き出されるブレスの余波で生まれる魑魅魍魎が邪魔をして攻撃が出来ない隙に元に戻られてしまう。


お互いの攻撃と守りが釣り合っている場合、不利なのは生きる方だ。

消耗し、力尽きた場合には龍神のエサとなる。


それが何を示しているかというと、膠着していては遠からず負けるということだ。


戦いは続いている。

もうすぐ丸2日経つというのに。



いやぁ、もうすっからかんだね。

からっけつ、鼻血もでないってやつ。


ここまで神気使い切った神なんているん?

居たならそいつは神失格だよ。


「有事の際には居たでしょう。

出し惜しみしている場合では無いですから。」


そうね〜。


しかし、こんだけやってもまだ膠着するって、やっばいな龍神さん。


神の力でゴリゴリにドーピングした戦士6人よ?

あ、ピリルルには何もしてないや。

でも龍王の力が入っているからね、大分強いはず。


はぁー、じゃあそろそろ行こうかな。


「本当に行くのですね。

もし次死んだなら、どうなるか分かりませんよ。

転生の能力で神になったんですから。

その貴方が死んだ時の予想はつきません。


元々意味わかんないんですから。


無に帰す可能性もありますよ。」


もちろん分かってる。


でも、まぁ、呼ばれているからね。


「そうですか。

出来れば帰って来て欲しいですね。


ほら、昔に教わった変化球、上手く投げられる様になったんですが、試す相手が居ないと寂しいじゃないですか。」


はは。

うん。

頑張るよ。



使徒7人を送り込む直前、ラルフはある事に気がついた。

呼ばれている。


何処から、誰からだ?


その方向に意識を向けると、子犬が遠吠えをしていた。


しばらくそうしていたのだろう、カスカスの声で、なお遠吠えを続けている。


そうか、ごめんよ。

失ったと思っていたけど、そこにいたんだね。


見つけたタイミングで力尽きたのか倒れてしまった子犬。


戦場にピリルルを遅らせるのを覚悟して、リオンを迎えに行ってもらう事にした。


そのまま抱えてラルフ教会へと運んだ辺りで目を覚ましたリオンは、目の前に大量の剣が積み上がってるのを見て目を丸くした。


「貴方、リオンね?

一応確認なんだけれど。」


白い龍の問いにこくこく頷く子犬。


「ラルフからのお願いなんだけど、君は武器を食べて自分の力に出来るって本当かい?」


深い青色をした龍の問いにこくこくと頷く子犬。


「世界中から武器を集めいるわ、どうせ人同士で争っている場合ではないもの。」


アンヌはリオンの頭を撫でる。

あ、主人の番のメスだ!

リオンは尻尾を振って応えると、立ち上がり目の前の剣に齧り付いた。


一口噛むと、剣としての何かが失われるらしく塵になって消えていく。


「リオン、どのくらい食べられるとか、お腹いっぱいになるとかある?」


フルフルと首を振るリオン。


これは偶然。

偶然なのだが、ラルフが想像した犬。

犬という生き物は満腹をかなり感じ辛い生き物だ。

ただでさえ神獣としての性質で無理が効くリオン。

それに加えて、犬を飼いたかったラルフの願いが合わさり、限りなく犬に近づいたリオン。


なんか上手い事変に噛み合い、無限に食べられる様になっていた。


世界中から集められる名品、珍品、なまくら、装飾の派手なものや、実用性のみに特化した地味なもの。

使われなくなって錆びたもの。

娘と同じ名前の大切な刀。


ありとあらゆる武器が世界中から集められ、端から平らげられていく。

元々この地に武器の類は集められていたが、そこから更に集めた。

その数は数えるのも馬鹿らしくなるほどで、龍の協力を経て遠くからも大量に集めていたので、これは殆どこの世界の全部なのではと思えるほどだった。

本当に山と言って良い程に積み上がったそれを食べ切るだけでも食べ続けてさえ1日半かかったくらいだ。


粗方食べ尽くした所で、ピリルルが声を掛ける。


「リオン、君のことは、僕でも扱えるかい?」


リオンはぴすぴすと鼻を鳴らす。


「そうか。

そうだよね。

だって、ラルフ。

やっぱり君が持つべきだ。」


「そっかー。

なら、おいでリオン。

僕に力を貸しておくれ。」


リオンはラルフの姿を見ると、飛びつき、べっちょべちょに顔を舐め尽くした後、いつもの腕輪の形になった。


「はてさて、世界中の武器を合わせたリオンと、龍神。

どっちが強いのかね。

計算してみてよ、ピリルル。」


「知らないよ。

ラルフこそ神になったんだろう?

神のみぞ知るってやつさ。

僕に教えてくれよ。」


「え?

今はもう神じゃないし。」


「え?」

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