第223話 ハローグッバイ アゲイン


龍贄というのはこういう感じなんだね。


それでも龍神の時に見た様な不快な感じはしない。

リリーディアが受け入れていたのが関係あるのだろうか。


…これで勝てると思う?


「…。

分からない。

これでもまだ厳しいとは思う。」


やっぱりそうか。

やるしかないけどね。


戦闘状態になる前にピリルルに魔法、いや呪いを発動する。

実は一つだけ呪いを使える様になっていたのだ。


よく見ていたからなんかスルッと使える様になった。


「…そんな気分じゃないんだけど、これは必要な事なの?」


もちろん。

王にはおヒゲが似合いますなぁ!


「君が必要だっていうなら今は受け入れるけど、ふざけてるなら許さないからね。」


うん。

本当に必要な事なんだよ。

保険だけどね。

じゃないと家族を失った親友にヒゲなんて生えさせないよ。


さ、やろうか。


ガブガブ言っても仕方ないよ龍神さん。

待っててくれたのか、気まぐれなのかは知らないけれど、僕とピリルルで倒すよ。



1時間ほど戦い続けているが、戦況はよろしくない。

守りに適しているピリルルのおかげで死んではいないが、決め手は見つけられない。

リリーディアの力のおかげで火力も増しているはずだが、龍神も4つの龍贄を行っている強化バージョンだ。


ピリルルの守り方は基本的に受け流す様に風を操り、偶に空気を押し固めたりで相手の隙を作る。

それに合わせて切り込んでいるが、ほぼフルパワーを出しても薄っすらした傷しかつかない。


火力不足も甚だしい。


普通さぁ、覚醒イベントとヒロインの死があったらこのままいけるじゃん。


2人と扱い切れてないのも良くないんだろうね。


「どうしようかな。

まだ続けられるけれど、気がついてる?

僕らは無事でも世界は無事じゃない。


どこが壊れたかは分からないけれど、僕らが戦えば戦うほどに余波で沢山死んでいくよ。」


もちろん気が付いているよ。


…出来ればもっと沢山の人に死んで欲しかったんだけど、いつ不意を突かれてピリルルを失うか分からない。


これで良しとしよう。


「怖い事言うね。

お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、パパも死んだのにずっとその調子だ。


…なんかおかしいよ、ラルフ。」


そうか、おかしくなっているのか。

ピリルル、僕に考えがあるから次大きな攻撃が来たら守りを一切捨てて僕に捕まって。


「…自棄になってないよね?」


なってるさ、なっているに決まっているだろう!


でも考えなしじゃ無い。

信じて。


「…いいよ。

どうせこのままならどうにもならないで滅びる世界だ。


戦える唯一の人のわがままなら聞いてあげるよ。

戦う生き物の王としてね。」


おあつらえ向きに龍神が口を開けて光を集めている。

あれ防がないで食らっちゃおうか。


「死んじゃうよ?」


もちろん死んじゃうよ。


「え?」


え?


不安そうな新王ピリルルを見れたから、リリーディアへの土産話も出来た。


光に包まれながら、必死にピリルルを掴む。

これだけは死守しないと、もしもピリルルが死んで龍王の力が龍神に渡ったら、いよいよどうにもならなくなる。




「やぁ、ラルフ。

龍神はとんでもないですね。


さ、何か考えがあるのでしょう?

次の能力は?」


ない。


「え?

死んだの?やっぱり僕たち!

ここどこさ!」


神様の元だよ。


「えぇ!

いや、それよりも考えがないってどう言うことさ!

ただ逃げて来ただけってこと?」


違うよ。

考えがないの「ない」じゃない。

次の能力は必要ないの「ない」だ。


「…意味はわかってますね?」


もちろん。

もしそうせずに倒せる可能性があるムーブなんて、ワープの使える相手と龍狩り競争をした後に、その力を上手く扱えるようになるまで隠れながら修行をする、これくらいしかない。


無理無理、ワープはずるいよ。

例え僕の方が龍を沢山殺せたとしても、扱う訓練が要る。

その間に生き物はどのくらい残ると思う?

2、3年はかかるよ?


「絶滅かもね、人も動物も。」


そうなんだよ。

その間もピリルルが逃げ切るって条件も付くしね。

龍王の力の継承は僕には無理そうだから。


「それで、ラルフが能力?を貰わないってどういうこと?

大事になるの?」


ならないっちゃならないし、なるっちゃなるね。


「どういうことさ、はっきり言ってよ。」


僕は神になる。

生前の性質を引き継ぐらしいことは分かっているからね、神になった後の力も想像がつく。


転生神ラルフになるだろうね、おそらく。


「なにそれ…ラルフは亜神だったの?

でも、雰囲気は普通の人だったよ?」


「んー、亜神とはまた違いますね。

神を人間に無理矢理変えていたってのが近いです。」


そうだね。

運命神ラルフィード。

その特徴は神気のコントロール、つまりは呪いだ。


皮肉なもんさ、運命神なんて呼ばれたら神々しいけど、実質呪いの神様なんだから。

悪神感半端ない。


僕の神気を使って能力という人間の営みの才能に形を変えることで、ギリギリ人として生きていけてた訳だ。


でもそのおかげでピリルルをここに匿うことが出来た。


「…?

あ、ヒゲ?」


そうだよ。

神気がないと神域には来られないらしいからね。

保険として呪いで髭を生やしておいたのさ。

サンドラさん、今はカサンドラさんか、あれが印象に残りすぎていたのも、僕が呪いが下手くそな原因の一つだったと見てるね。


さ、返すよって言い方で合っているのかな?


能力を返すよ。


「はい。

ラルフ、お疲れ様でした。」


痛くしないでね。

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