第222話 継承


一筋の光が見える。


間に合わなかったが、間に合った。


そのまま龍王の力を回収してくれと思う僕の思考を読んだかの様に龍神は速度を上げて加速していく。


距離的にはかなり微妙なタイミングだが、こちらからでは正確にわからないので、祈る気持ちだ。

どうにか先に!


しかし何を思ったのかリリーディアは進路を変えて龍神に突撃して行く。

そうか、龍王の力だなんて知らないのだから重要性が分からないだろう。

目で見て居た僕しか分からないのだ。


ボロボロの僕と、地面に広がる焦げ跡を見て敵を排除する方にシフトしたのかも知れない。


リリーディアの突撃は知っている限り最上の技だが、龍神に通用するとは思えない。

劣化版とはいえ模した僕の技がキャッチされてしまったのだから、見られている状態だと無駄だろう。


龍王が一矢報いた攻撃で、羽が千切れている分方向転換に狂いが出て上手く当たって欲しいが、飾りの様なものなのか滑らかに飛んでいる。


ともかくサポートだ。


侘しい魔力を搾り出してリリーディアに愛魔法を繋げる。


速度が少しでも上がればとの願いを込めた魔法だったが、僕とリリーディアは婚約者とはいえ、大した絆はない。


気持ち速くなればいいと思ったのだが、意外にもかなりのバフが乗っている様な気がする。


愛されてるのか?

そんな不安も過ったがそれどころではないね。


一当て、二当てと龍神に突撃して行くが、龍神が傷ついている様子はない。

しかし邪魔には感じている様で、足が止まった。

もしかして、自分は足止めのために動いて僕に回収をと思っているのか?

ガツガツと当たるリリーディアの光が鈍くなって行くのが分かる。

よく見ると龍神の周りに風が渦巻いており、突っ込むだけでもダメージを食らっている様だ。

十度程の突撃の後、光は薄くなりフラフラと落ちてくるのが見える。


丁度僕の横に落ちてきたリリーディアはボロボロだ。

龍の表情は読みにくいが、薄っすら笑っている気がする。


こうなったら僕が取りに行かなくてはと思い、文字通り死ぬ気で動こうとしたが、辞めた。

そりゃあリリーディアも張り切るわけだ。


「大丈夫よ。」


風が止んだ。


ははっ。

見えなかったよ。

夜空の色をしているからね、君は。


黄金色の光に影が写っている。

見慣れた龍。

そうだね、君が受け継ぐべきだ。


「遅くなってごめんね、ラルフ、お姉ちゃん。」


ピリルルが龍王の力に触れると渦を巻く様に変化して、ピリルルを巻き込んでいく。


これが継承か…。


間接視野でリリーディアも血を流しながらしっかり見ているのが見える。


鼻からね、怪我からじゃないよ。


それにしても、ピリルルもリリーディアも知って居たのか、あれが龍王の力だって。


「知らなかったけど、分かるわ。

パパの感じがするもの。」


あぁ、そうか、そうだね。


光が消えると、中から龍が降りてきた。

濃い青紫色の鱗は大きく変わってはいないが、光の角度で色が変わる様になっている。


「かっこいい!

パパよりかっこいわよピリルル!」


え?

怖…そんな比較今する?


あ、龍は戦いで死んでも悲しくないんだっけ。


「やめなよ、お姉ちゃん。」


あ、ちゃんと不謹慎だった。


「逃げようか、先ずは。

パパがダメだったのなら龍王になりたての僕じゃ勝ち目はないし、ラルフもお姉ちゃんもボロボロだ。」


僕とリリーディアを掴むと一気に加速していくピリルル。

その速度は過去のピリルルを圧倒的に超えており、リリーディアよりも速いのではないかと感じる程だ。

ピリルルは自分の周りの風の制御に長けているので、僕らへの負担も少ない。

逃げ切れるかも知れない、そう思ったがダメだった。


龍神は空間を超える。


目の前に穴が空き、そこから光線が飛んできたのをピリルルはきちんと避けるが、マズいね。

ピリルルの言った通り、戦闘可能なのはピリルルのみで、そのピリルルも力を受け継いだ直後なので、上手く扱えないだろう。


急いで地上に退避して僕らを下ろしてくれたが、このまま戦ったら全滅するのが目に見えている。


はぁ、こうするしかないのか。


「そうよ。

伝えて居たでしょう?

私がなるって。」


あぁ…。

聞いてるよ。


ピリルルも既に聞いていたのか、驚く様子はない。

親友が姉に剣を突き刺そうというのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る