第221話 龍王
僕がゾンビ戦法で相手をするべきか迷ったけれど、やっぱ下手に突いて暴れるモードに入る可能性がある以上、静観するしかない。
僕やパーシェローなんかは知っているから責任を感じるけれど、こんなもの大地震みたいなもので、人にはどうしようもない災害だと認識した方が正しいかもしれない。
画面に映る龍神から、変な気持ち悪さが無くなると、何も映っていない様な目で辺りを見回しながら浮かび上がった。
龍贄が完了したのだろう。
元がどれくらいか分からないほど強かったので測れはしないが、神様が言うにはこれでも全盛期の半分程度しかないらしい。
「ラルフ、龍王の所へ飛ばすので報告してきて下さい。
…酷だとは思いますが、貴方しか居ないのです。」
分かってるよ。
神様は庇ってくれているけれど、僕のせいで無駄に死んだと思っている。
もっとやりようがあったんじゃないか。
◆
「貴方。」
「…あぁ。
馬鹿者が。」
二頭の龍はそれだけを言うともう会話を交わすことはなかった。
息子の死は悼んでいるとしても。
龍の王と王妃、彼らは通常の龍とは違い、生物の特徴を持っている。
具体的に言えば、生殖能力と寿命だ。
寿命は600年程と人の身からすると途轍もなく長いが、ほぼ永遠を生きる龍からすると瞬きの様に短い。
それは龍族としてはメリットでもあり、決して狂わぬ一族とも取れる。
正気のまま老いて、もう一つの特徴である生殖能力で後世を育くみ、子孫にに力を受け渡す。
しかしながら歴史が浅く、彼が初代の為にそれは未だなされたことはない。
龍神が、龍を討伐した勇者を讃えるべく参上した際に請われた素っ頓狂な願いを叶えて生まれた一族なのだ。
元が生物なのでその特徴を色濃く残した事が分かると、龍神から狂った龍の討伐を命じられた。
400年で10体程狩ったであろうか。
普段は災害の様にあらゆるものに襲い掛かり、その内別の龍や神に到達しうる獣などによって倒されるのが常だったが、龍王の出現である種の秩序が生まれた。
1人で生まれ、闘争に焦がれる龍種の願いの末とも言える強者。
それが龍王である。
彼と戦って死ぬのなら、まぁ、悪くない人生だったな。
そんな風潮が出来上がっていた。
本人も妻と子供を愛し、龍を歓待し、かまってちゃんな龍神の相手が出来る数少ない人物で好人物として認識されていた。
もし龍神が狂っても、龍王がなんとかしてくれる。
神々からも、龍からもそんな信頼を受けていた龍王が、死んだ。
◆
僕が龍王の所へ到着した時点で、すでに龍王は出てしまっていた。
見た事ないくらい龍が集まっており、戦場の深刻さが伝わる。
王妃の計らいで用意されている無魔法を利用した中継システムで戦場を覗くと、今まさに戦闘中といったところだった。
スピラヴェラと見たことのない龍を2体引き連れ人間形態で戦う龍王が映っており、現状実力は拮抗している様だが、コレはマズイ。
「なんですって?」
龍神は龍贄を行える。
今は拮抗しているからいいけれど、一体でもやられたら勝ち目が無くなる。
パーシェローが犠牲となった結果、それが分かったと伝えた。
「…伝令を送りなさい。
王との一対一なら勝ち目はある。
供を下げさせなさい。」
「私が行くわ、一番早いもの。」
「ダメです!
リリーディアを止めなさい!」
周りの龍は光るリリーディアを捉えられず、すり抜ける様に飛び立ってしまった。
僕も追うと伝えると、深刻な顔をしたまま王妃は浅く頷いた。
無魔法は王妃が出していた様で、動揺を表すかの様に乱れていたが、戦況が良くない事だけは分かった。
召される直前にスピラヴェラが龍王を庇ってやられたのがちらっと見えた。
◆
神様に戦域でスポーンさせて貰うと、龍神の上に赤い玉が3つ浮いていた。
辺りを伺っても見えないので、リリーディアはまだ到着していない様だ。
龍王を除くお供の3体の命だろう。
「おぉ婿殿。
ババアが狂ったのはまぁ、いいが、反則だよなぁ、龍贄までされんのはよ。
腹が立つぜ。
弟分が3体もやられて、息子もやられてよぉ。
くそ、つえーぞババア。
手伝ってくれ。
やり方はとわねぇから一瞬だけでも隙を作ってくれたら俺がやる。」
なんだなんだ、口が悪いね。
「今は王じゃねぇ、戦士だ、気にすんなよ。」
了解。
じゃあやるだけやるから、後詰は頼むよ、お義父さん。
「…ババアの後はお前と喧嘩すると決めた。
誰がお義父さんだ。
おい…死ぬなよ。」
うん。
王も。
リオンにパーシェローの腕を食わせる。
死魔法をかけて、愛魔法をかけて、身体をプラズマ化して、土魔法で自分を発車して勢いよく突っ込む。
コレが今の僕の最大火力だ。
こちらを見た龍神が尻尾で叩き落とそうとしてくるが、残念。
それは無魔法の幻影です。
前に好きだって言ってたね。
狂っても気にしてくれるといいけれど。
ザザギアという龍神がたべたがっていた魚の幻影をばら撒く。
知能はそこまでではない様で、きちんと誘導に引っかかってくれたようだ。
パーシェローの時は捕捉されていたが、今回はどうかな。
手や鱗なんかの硬い部分はダメでも目ならどうだ?
思惑通りに切先は眼球に当たっているが、どうだろうか。
動きを止めるには足りないが驚かせることはできた様だ。
直ぐに叩き落とされてしまって、俺は立ち上がれないが、役目は果たせた。
完全に龍神の思考の外になった龍王が、風景が歪むほどの魔力を纏った剣で龍神の片翼を落とすのが見えた。
「ちっ。
上手いこと避けるじゃねぇか。」
攻撃は通った。
隙もついた。
だけど、それでも龍神はギリギリ身体を捻って致命傷は免れたようで、そのまま反転して繰り出された尻尾で龍王は弾き飛ばされた。
岩壁に激突し動けない龍王に向き直り、龍は薄く口を開ける。
口の前に煌々と光が集まって、先程龍王が放った一撃を上回る様な魔力の塊になっていった。
「おーおー。
やるなババア。
ま、俺の負けだな。
命はやるよ。
でもな、龍王の力は継承させて貰うぜ。
お前にゃやらねぇ。」
世界が真っ白に染まるほどの光が龍王を襲っている。
龍王がチラッとこちらを見て笑うのが見えた。
その瞬間龍王から金色の光が飛び出て上空に浮かんでいるのが見える。
あれが龍王の力か…!
消し飛ぶ龍王が見えるが、悲しんでいる暇はない。
バフも切れて身体も起こせないが無理にでもあの光に到達しないと、この世が終わる。
土魔法で身体を持ち上げようにも魔力が足りなく、ボロボロと崩れていく。
リオンを杖に立ち上がったが、飛べない。
跳ねる元気もない。
龍神も気がついた様で力に向かって浮き上がる。
こちらの事はもう忘れたかの様に警戒されて居ないが、僕には何も出来ない。
僕には、ね。
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