第220話 ヘイ


神様のキルカメラを利用して龍王と龍神の戦いを観戦しておきたい。

世界最高戦力の龍王と未知数な化け物狂龍神の戦いは、もしも龍王が負けた場合のお鉢は僕に巡ってくる。


その為に召された。

今は龍神と龍王を分割画面で見ている。


いやしかし初めて見たな。

本気で戦う時はこうなの?


「ええ、戦闘を極めた際は人間でしたからね。

龍の力を得てもこちらの方が強いそうです。」


そういうものか。

赤く長い傷んだ髪を結び鎧を纏っている姿は、最強と言われればそうかもと思わせる程だが、思ったより細身だね。

もっと筋骨隆々かと思ってた。


「対龍のスペシャリストですからね。

相手よりデカくなりようがなければ、可動域と機動力を重視したのでしょう。」


ん?

ふわふわ浮いているだけの龍神の体勢が変わった。


カパッと開けた龍神の口から薄黄色の光の玉が放たれた。

それはふわふわと漂った後にゆっくりと地上に落ちていき、大陸の北東部を消滅させた。

それを感情のない目で見た後、またふよふよと浮いている状態になった。


おそらく沢山人が死んだ。

自分の足で歩いていないから、どんな国があって、どんな人たちが生活していたかはわからない。


いい人も悪い人も、強い人も弱い人も、まとめて平等にこの世から消えた。


人に防げるものではなかった。

それが例え、僕がこの世界で戦った強者全員集めたとしても、寝起きのあくびの様なソフトボールくらいの玉ひとつで全員やられる。


そのくらいの魔力だった。


なるべく感傷的にならないようにしたいけれど、コレは…。


「勝てますか?」


無理だね。

ゾンビ戦法で無限にチマチマ削っていくしか浮かばないや。


「そうですか。」


そんな戦法取ったら余波で世界は滅びるね。


なるべく気まぐれに攻撃をする回数が少ないうちに龍王さんに到着してもらいところだ。


あ?


なんだ?


「あぁ…。

マズい。」


龍神に向かう一筋の影。


「ラルフ、止めて来てください。

犬死にならまだしも、コレが原因で目覚められたら大変です。」


分かった。

話は通じる相手だから、冷静な事を願おう。



「やっぱり来てくれると思ったぞ。

良かった、このまま無策で龍神に突っ込むところだった。

龍神に向かっていけばどこかでラルフが来ると思っていたんだ。」


パーシェロー…。


「さあ、俺を食え。

見たろ?

あんなの耐えられる生物はいない。

俺ら龍でもだ。


親父が勝つと思い込まない方がいい。

俺が滅されない内にお前の糧にしてくれ。」


それは分かるよ。

だけど…。


「いいんだ。

寂しいし悲しい。

だけど、俺は兄貴だから、長男だから家族を守る為ならなんでもする。


可能性の話だよ、ラルフ。

強くなって親父を助けてやってくれ。」


…やりたくないなぁ。


感情とは裏腹に僕はリオンを剣の形にする。


「一応俺の鱗と牙もやる。

生きてる時に剥がした方が魔力がこもって強いからな。

その剣にやってくれ。」


うん。


「リリーとピリルルには…いいか。

修行をしてフラフラしてると思われてた方が。


ほら、時間はないぞ。

ノロノロしてたら沢山死ぬ。」


うん。


リオンを構えて鋒をパーシェローに向ける。


苦しまない様に首を狙って剣を振るが、直前でリオンの刃が消失した。


暗闇を煮詰めた様な色の穴から、龍の首が見える。

僕とパーシェローの間に出現したが、もちろん庇った訳じゃないだろう。

近くに魔力の塊が来たから、取られる前に食べに来ただけだ。


感情のない真っ黒な目でこちらを見ながら咀嚼をする生物からは、前の穏やかでわがままだけどどこか憎めない、あの姿はない。


ぐちゃぐちゃと鳴る口の端から、腕が一本落ちて来た。


龍とは思えないほどに傷がついた、鍛錬の跡が彼の人生を物語る。


身体をプラズマ化させる。

この後確実に死ぬが、関係ない。

せめて一撃…!


そんな僕の覚悟を嘲笑うかの様にふんわりと包み込む様に受け止めると、僕を握ったままじっと見ている。


オニキスの様な目には何が映っているのか。


僕が最後に見た映像は口の中でバラバラになっているパーシェローだった。



「間に合いませんでしたか…。」


…ごめん。

話なんかしないですぐに殺してあげられれば、せめて…。


「やめて下さい。

そんな人でなしに救える魂などありません。」


…そうだね。


「しかしマズいことになりました。

見えますか?」


画面に映る龍神は動かない。

その頭上には赤い玉が浮かび、何かが龍神に入り込んでいく。


「龍贄です。」


コレが…なんかグロデスクに見える。

なんでだろう。


「はっきり目に映るわけではないですが、魔力が脈動していますからね、本能的なものでしょうか。」


ところでさ、龍って龍賛と龍贄って出来ないんじゃなかった?


「ええ。

それはそうですよ。

龍が龍に勝ったって龍賛は起きません。

快挙じゃないですもん。」


あぁ、そっか。

あれは龍からのご祝儀みたいなものだったもんね。


龍贄は?


「普通は出来ませんね。」


出来てるよ?

すっごい強くなるんでしょ?


「参っちゃいますね。

可能性として二つ。

狂った龍は出来る、龍神は出来るのどちらかですね。

狂った龍に負ける龍なんていませんでしたし、龍神が狂ったのも歴史上初めてなので、どちらかだと思います。」


龍って狂ったら弱くなるんだっけ。

…アレで?


「ええ、魔力の大きさも生前の3分の1程ですよ?

まぁ龍贄で生前の半分程まで戻しちゃいましたけども。」


そっか…あんな感じだったけど、だいぶ理性的だったんだね。


「ええ。

好物の金林檎も1日2つまでって決めてたみたいですしね。」


…なにそれ肝油?

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