第212話 ウェルカムドランク


そろそろガナーに到着だ。

周りを人に囲まれて見えなくたって分かるよ。


なんかパレードやってるもん。


え?

僕のせいで開かれたパレードじゃないよね?

違うよね?


粛々と宗教的儀式を行って到着しただけなんだけど。


「粛々と、と言う部分には反論はいくらでも出ますね。

どうでしょうね。

自分で確かめてみてはいかがか。」


えぇ?

良いの?


無魔法で向こう側を写すと、バッチリと目があった。

教皇だ。

教皇がくす玉の紐を握っている。


アーチ状に張られたのぼりには、歓迎!神の子ラルフ!と書かれている。


これはまずい。


反射で無魔法を発動して姿を消して離脱しようとしたが、何処からか光る紐みたいなもので絡め取られてしまった。


「おや、役立ってしまいましたね。

往生際が悪いですよ?」


くそっ!

フルパワーなら抜け出せるだろうけど、周りの兵士に怪我人が出かねない。


「このまま天高く掲げて到着しても良いんですよ?

サービスで光らせてあげましょうか?」


やめて!

経験上光るのが一番良くないから!

…八つ当たりでしょ?

自分の黒歴史をおもいだしたんじゃないの?


「なるほど。

確かに嫌な思い出がよぎる景色ではありますね。


ところで、貴方を拘束しているこの紐は自在に動かせるんですね。

友人の少ない私には良い手慰みで、かなりの腕前だと自負していますよ。


ところで、ラルフィード像には羽が生えて描かれることが多いのはご存知ですか?


本人はどうかは分かりませんが、誇張していくうちにそうなったのだと思いますが…。


喜ぶと思いませんか?」


人でなし!


僕の周りを蠢く光の線がシュルシュルと音を立てて形を作っていく。

服装は旅装から光のローブになり、背中には羽が生えて、目に見えないくらい細い糸が身体の周りを漂い、あたかも神聖なオーラが出ているかの様に光っている。


「暴れるとこのまま人前に突き出しますよ。

大人しく歓待されて下さい。


あぁ!

もう少しだ!

もう少しで眠れるぞ!みんな!」


…働きすぎたんだ…!


大人しくしてれば、直前で解除してくれる?


「ふぁー…。

え?

あぁ、勿論ですとも。」


あくび!

目もとろんとしているし、緊張の糸が切れたのか、おねむのようだ。


「えへへ。

立ったまま寝るとこでした。」


寝たら消えるよね?

これ。


「勿論じゃないですか。

ん?

どうだろう。」


自分の魔法でしょ?


「貴方は魔法を使っている最中に寝た事はありますか?」


ないよ。


「ね?

誰にも分かりません。

まぁ、大丈夫ですよ。


到着までは流石に…。






寝ませんって。」


今寝てたよ!

少しだけ寝てたよ!


あぁ!

これ!ワイン飲んで!


気付になるよ!


「えぇ、ありがたく頂きましょうかね。


ほう、良いワインじゃないですか。」


「あっ。」


ね!

あげるから起きてて!


…え?

誰かあって言った?

誰?


リンキー?


「俺っすけど…。

マジィってラルフ様。」


なにがよ。


「あっはっはっは!

楽しくなってきました!

ね?

あっはっは!


なに派手な格好してんだ?

目立て目立て!

そんなに光って!


あっはっは!

今日からスター誕生だ!」


ゔっ!

チビっとのワインでこんな事に?


「めちゃくちゃ酒弱いんだよ、本部長。」


なんだって?

酒は好きみたいな感じだったじゃない!


「好きと得意が同じだったら、望まない職業に就く人なんていないっすよね。」


たしかに!


「あはは!

なに話してるんです?


呑み足りないんじゃないの?


ほぅら、飛んでけー!」


…きっと抑圧されているものがデカいのだ。

そうに違いない。

僕が渡したお酒だから無礼講と言いたいところだけど、これはちょっと…。


光ローブと羽がついてる状態で空を飛ばせられるのはちょっと…。


あぁ!

祈らないで!

よく見て欲しい。

よく見たら分かるよ、バカな事になってるってこと。

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