第211話 悪魔のささやき
どうやらこの本部長さん、教皇の孫ラブファントムに取り憑かれた経験があるらしい。
その時にはまだ教皇さんは教皇ではなかったけれど、枢機卿という上から2番目の立場にはなっていたので、有名だったし人気もあったので肩身も狭かったらしい。
「親父には言われますね。
グレなかっただけ偉いって。」
有名聖職者の孫として他人の目があり続ける思春期には一度ストレス大爆発を起こして旅に出た事もあるらしい。
なんて近い境遇なんだ。
グレなかっただけ偉いって親父に言われる様な奴は、大体善良な人柄だろう。
聖職者としての才能つまりは人を癒す聖属性魔法にも恵まれ、旅の資金には困らなかった。
わかる。
この前流浪の医者も気楽でいいなぁなんて思っていたある時、ガナーからかなり離れた町で自分の記事を目にした。
あるある。
そこには自分の行動が書かれていて、よりによって色々二郎系ラーメンくらいマシマシな賞賛、陽口を見て、現状監視も護衛も付いていて、報告も行っていることを察したらしく、放浪の旅が急に虚無に感じ帰ってきた。
めっちゃ分かる。
辟易しながらガナーへと帰ってくると、謎のポストを設けられていて、何にもしていないのに出世していたらしく、逃げ場なんてないと悟り、働いていたらいつのまにか実務機関の偉い人、つまりは本部長になっちゃってたとの事。
あるよね!
勝手に重めの役職つくこと!
「そんなに共感して頂いたのは初めてですね。
ともすれば贅沢やわがままに取られがちなんですが。
ねぇ?
一度体験して欲しいですよね。
自己の確立の前に他者からの人物像が出来上がっている立場を。」
今25歳から30歳ぐらいであろう土色の顔色をしたお兄さんの笑顔は弱々しかった。
…逃げてみる?
小旅行とか行ってみる?
撒く自信はあるよ。
ガナーの北西に湖あったよね。
そこで何日か休んだらリフレッシュ出来るかもよ?
「ぐっ…。
なんて魅力的な。
確かに楽しそうだし、これ以上ない提案ですね。」
でしょ?
魚を釣って、ほら、僕は旅装だから何日間かの食料もあるし、2人とも魔法使いだからなんととでもなるしね。
「あぁ、いいですねぇ。
一日中横になって空を眺めたりしたいですねぇ。」
でしょ?
船作って湖に浮かべたりしてさ。
「最高じゃないですか…。
でも私だけ抜け駆けする訳にもいかないんですよね。
おいクソガキ、言ったろ?
死にそうに忙しくしてる奴らが待ってんの。」
そうでしたそうでした。
聖地でガメてきたワインもあるから、行きたい気持ちが先走ってしまった。
「…ワインもあるんですか…。
はぁ、もう裏切ってしまいたくなるわ。
神の子から悪魔のささやきが飛び出すとは思いませんでした。
でもダメですよ。
貴方を届けたら、大騒ぎになるでしょう?
その隙に実務を担う奴らと一緒に酒盛りして、泥の様に眠る予定なんだから。」
わお、仲間思い。
いやぁ、口に出したら行きたくなってきたなぁ。
正直言ってガナーに到着したらば目的の大部分は達成される事になるから、あとは何処かで教皇さんに手紙でも出せばオッケーなんだよね。
…くらますか?行方を。
「…何考えてるか分かりますよ。
なぜ私が派遣されたと思います?
私の得意な魔法は感知なんです。
困りごとがあれば言って下さいね。
猫探しから、失せ物までなんでも探しましょう。
例えば、逃げ出した神の子を地の果てまで追ったりも出来ますよ?」
なーんちゃって!
そんな事する訳ないじゃない。
そんな死んだ目をして疲れ果ててる人の仕事を増やすなんて事はしないよ!
「それはよかった!
しかし、なら無駄になりそうですねぇ。」
何が?
「貴方に掛けた追跡系の魔法7種ほどが、ですよ。」
…それは無駄にせざるを得ないね!
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