第210話 本部長


もしかしてワンチャン人造人間作れるんじゃ無いか?

なんて素材を使い治療に励んでいる毎日で、お父さんとの息も合ってきた。

いやぁ充実感があるね。


一日3オペという、働き方がブラックRX外科医だけれど、他に回すわけにはいかないので仕方ない。


切って貼って寝るという生活を3ヶ月は続けただろうか、良い加減にしてくれという苦情が来た。


どこからか。


ガナー大教会からである。


当然、僕が目と鼻の先まで来ていることは知られているし、そこで治療を始めた事も知られていた。


それは素晴らしいですね、なんて最初は言ってくれていたらしいけれど、全然やって来ないVIPに出迎えの準備の消費期限が何度も過ぎた結果、多分とても偉い人が迎えに来てしまった。


「いや、とても素晴らしい事だとは思いますがね。」


このセリフを2日の滞在中に15回は聞いた。


がね、の後に少しずつ文章が足されていき、最終的には


「いや、とても素晴らしい事だとは思いますがね、いい加減来て貰わないと困るんですよ。

最初は強く祝って後は流れでって、そうするのは可能でしょうが、最初が無ければ流れも何もないのですよ。

貴方が自由奔放に人を救い散らかすのは構いませんが、折衝を担う役人の方がエリフサーのお世話になりそうです。


あと、ウキウキして待っているおじいちゃんも居るんですから、そろそろ来てもらわないと。

え?

誰って…偉いジジ…教皇ですよ。


あとね、貴方がガナーに来ていて、無差別治療をしていると聞いた信者があっちこっちからやって来ていて、もう宿とかパンパン。


ずーっとお祭り騒ぎ。


早くひと段落させて下さい。

激務になってる人たちの顔色見せましょうか?


はい、下見て。

土がありますね。


これです。

この色です。


あはは。

凄いでしょう?


聖属性の使い手が多くいるので、これでもまだ働けるんですよ!


あはは。」


全然目は笑ってなかったし、訪ねて来たお偉いさんの顔色も地面とおんなじ色だった。

ちなみにお偉いさんは若いってのに本部長らしい。

多分すっごいとてもとても偉い人なんじゃ無い?

土色だとしても。


丁寧に丁寧にブチギレていたし、流石に無視する訳にもなぁ、という事でようやく兵舎から出発してガナーへ向かい始めた。


僕が居るというのがバレバレなので、警護だの世話役だのがついて来ている。

よく見ると髪の伸びたリンキーもいるし、アンもいる。

40人くらいで移動しているので全然進まないし、周りも見えない。


1人でチャチャっと移動しようかなと提案すると、本部長は鼻で笑った。


「任せきりにした結果の3ヶ月ですからね。

連行しますよ、私が、キッチリと。」


…本当の意味での連行じゃないか。


「それにね、周りから貴方を見えない様にしているから静々と進めてはいるものの、周りに謎の人がいっぱい居ますからね。


正直言ってたどり着けないと思いますよ。」


なにそれ。

ふわっと無魔法の反射で周りのパノラマ映像を目の前に出すと、周りを人が囲みながら移動しているのが見えた。


人だかりじゃないか。

駅伝のゴール付近くらい人がいる。


「ね?笑えて来ますね。

まぁ、教皇様が練り歩いてもこの街ではこうなりますが。


…それを闘技大会まで呼び出したのも貴方でしたっけ。

大変だったなぁ。


神の子ならひ孫みたいなものか!

とにかく可愛がる予定だから!


ってあのクソジジイが書置き一つで飛び出して行った時は頭を抱えましたよ。」


「本部長どの、いくらお孫さんだからと言って人前でクソジジイはお辞めください。」


あ、実孫さんなのね。


「そうですよ。

私が三十代で本部長なんて堅苦しくも重苦しい肩書きに何故なっているかと言いますとね。

私の言う事なら比較的聞いてくれるからに他なりません。


…まぁ私は貴方の様に各地で暴れ回ったりもして居ませんが、それを責めるつもりはありません。

本来何の関係も無いのに、我が事の様に触れ回るジジイが悪いのですから。


私の目が見ると、貴方は権威やなんかは欲して無さそうですからね。


大はしゃぎする権力者のせいで勝手にやった人助けの功績が、世界中に広まるとかやってらんないですよね。

恥ずかしいし。


…超気持ちわかるよマジで。


おっと。」


あぁ…。

僕も超気持ちわかるよ。

マジで。


そうか、教皇の孫か…。

大変だったんだろうなぁ。

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