第206話 汎用素材
お父さんに呪いを試す前に、やはり自分で試しておきたい。
お父さんには明日からお願いすると伝えて兵舎に与えられた部屋に戻り、四肢のどれを実験台にするか考えた。
左右の手は治療に影響しそうだから論外なので、右足が左足にしようかな。
最悪失敗しても手が残っていれば切り落とせるしね。
夜中に1人で自分を実験台にしようとした時に、ふと前世の記憶が蘇った。
これまで思い出すことのなかった記憶だ。
◆
まだ研修医だった頃、人型の模型や専用の布を使って縫合の練習をしていた。
もちろん物言わぬ彼らから不満の声はないが、実際どうだろうかと思った。
これから自分は人の身体を切って貼ってしていく事もあるだろう。
過去の施術から、こうしたら傷みが少なく術後の経過がよろしいと教わってはいるので、完成はお手本に近づけられる。
それでも、針の挿入角度や、糸の運び方などでも少しは違いがあるんじゃないかと思っていた。
そしてある日、簡単な事に気がついた。
なんだ、自分にやれば良いじゃないか、と。
その日から夜な夜な自分の太ももや腹に切れ目を入れては縫っていくようになった。
医者に見せたら頭の病院に送られるであろう光景だが、当時の俺は目的がなかった。
医者になって知識を詰め込み続けるのも良かったが、これから確実に来ることを練習しない事は、性格上ありえなかった。
とは言え、身体にも限りがあるので、何度も何度も繰り返す訳にもいかなかったが、一番多い時で太ももに各3、腹に4つの開いて縫い合わせ、完全に治癒していない状態であった事もある。
あの時は解熱剤や抗炎症剤、抗生物質などの薬も服用していたが、熱が出て大変だった。
痛みはもちろんあったが、集中していれば耐えられた。
それよりも体感していないのに、他人に施術する方がストレスだったのを覚えている。
大変グロい見た目で残る事を避けるのと、意図せず大量出血したら終わりなので浅く切っていたが、太ももで一度血管を傷つけた時は焦った焦った。
その時は結紮の練習も出来てお得だと思ったが、当たり前に死んでいた可能性もある。
というか、今は思い出せては居ないが、なんかこんな感じで死んだのではないかと疑っている。
◆
という訳で、大人、子供、大人、子供と変身を繰り返しながら、光っている部分を掴みにかかる。
体の代用になる部分らしいが、あまりピンとこない。
モヤが肉体になるってどういう事?
そんな生き物前世に…いた。
いたわ!
知ってます?
虫って言うんですけど。
一度不定形になるって部分は共通だ。
…いや、ダメだ。
正直に言う。
全然分からない。
似てるからってなんだ。
わかる訳ないでしょ!
都合17往復大人と子供を繰り返してみたけどなーんにもわからない。
もしかして能力は貰ったけど、人間性とか性格とかそっちで才能ない可能性もある?
何一つわからない。
結局先生を探すしかないのか。
…いや、昨日の口ぶりならお父さんは知っているのかな。
明日聞いてみよう。
◆
「知らん。
というより歴史上呪いを個人で上手く扱えた人は1人しかいない。」
えー…。
誰かわかったよ。
神さまか…言ってたもんなぁ難しいって。
「大体は自然発生なものだからな。
人の技術に落とし込む目処がついていたかと思ったが、そうか、これからか。
ラルフィード様はそれこそ男を女にしたり、こねこのルーチェを人に戻したりもしたらしい。
細かくいうと指を生やしたりなんだりもしているそうな。
それは奇跡と呼ばれているが、お前から説明を聞いた今、可能なのは呪いの力だと思う。
だから運命の神と呼ばれているのだろう。
本来自分ではどうしようもない事を上手く改善するのは、それ程の事だろうからな。
やはり無理かもしれんと聞いて、少し安心した部分もある。
神の子はやはり人なのだとな。
神になるのは、なんだ、寂しそうじゃないか。
お前はお前の方法で治療する術を探しても良いと思うぞ。
神の子という人が人の為の技術として成立させるのも尊い事だと思う。」
そうだね。
もう一つ案はあるんだよ、実は。
でもそっちの方が面倒になる気がして避けていただけで…。
「なんだ?
他の人を不幸にするものか?」
いや、この世界のように上下の身分がハッキリしていると非人道的な輩が現れてしまう可能性が高い。
要は移植だ。
本人に設計図がないならよそから持ってくるしかない。
聖属性魔法の治療は腫れなどが起きない、という事は免疫が大暴れしていないという事だ。
前世の環境よりはだいぶ成功確率が高いと思う。
「つまり他から持ってくるという事だな?
ふむ、それも試された事があるが、なんというか…馴染まないらしい。
親だとしてもそうらしいのだ。
改善案はあるのか?」
あるというか…正常に生まれていない、誰の子供でもない汎用ボディのやつがいるのよ。
レゴの人形みたいなさ。
あ、僕なんですけどね。
神様がノリで作った汎用人類ラルフ君です。
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