第204話 フォビア
まだ聖地にいるであろうお父さんに手紙は出したし、ここでは魔法だけでは治りきらない怪我や病気を治療していこうかな。
今まで立ち寄った街でもちょくちょくやっては来ているけれど、こんなに大々的にやるのは久しぶりかもしれない。
どうしても無償はね、その街にも医者はいるからさ。
こういう兵士の詰め所なんかの公務員なら勝手に治したところで金銭的には税金が減るだけだから問題ないだろう。
しかしやっぱりそうすると、治療をしなくては不味い状態にある親族の話になっていく。
もしかしたら治せるかもしれないが、それはまた医者の領分だ。
継続が必要だったりするしね。
ふらふら放浪している僕をかかりつけにできるのは、それこそ龍王家くらいなものだろう。
兵士の治療で助かるのは、説明をするとその辺の事情も理解しようとしてくれる所だ。
相談された中には、今世ではまだ広まっていない、軽視される美容外科的なアプローチが必要な物もある。
その中でも、婚前の女の人と子供が患者の場合は、土魔法で作った砂の花を渡してあるので、お忍びで治療に行く予定だ。
かなり少ない魔力だが、自分で作ったものは分かるので目印になる。
なぜ婚前の女性と子供か。
運命がたったそれだけで変わる可能性があるからだ。
もしかしたら、そんな彼女に思いを寄せる王子様が、治療をした事で心変わりをして去ってしまうかもしれないが、そんな薄情者より現在の心のケアを優先する。
冗談はさておき、世界を半周して分かったが、現在は平和なようだ。
僕は近々に龍神がほにゃららって聞いちゃっているから置いておいて、戦争もしてないので大体の地域は平和なのだ。
平和はいいものだが、暇とも言える。
暇になると人が気になる。
他人と違う自分を気に病むかもしれないし、自分と違う他人から傷つけられるかもしれない。
そうするとそういう、見た目に現れるが死の病でない病気で自ら命を断つ事もあるのだ。
人体は死に至らないが、心を殺す死の病になる可能性はそう低くない。
その傾向が高いのが婚前の女性なのでそこをケアしたい。
子供も同じだ。
一度折れた心を自らまた立ち上がらせることは、尊い。
しかし折れたところにはやはり傷は残ってしまうもので、そんなのは可哀想だ。
病気でつけられた心の傷なんて、無くてもいいし、将来それが原因で立つことさえ困難になる事がある。
よって子供も優先してケアしたい。
婚前の男の人だって本当は直ぐにでも治したいが、僕は1人だ。
3番目の優先順位になってしまう。
前世の知識でしかないが、死に至る程悩む男性ももちろん沢山いるが、数が女性の半分なので、どうしても後にせざるを得ない。
経済的な事情もある。
今世の女性は婚姻以外で通常の生活を成り立たせ続けるのはなかなか難しいようだ。
僕が出会って来た上流階級の人達や、リリーディアとティナは特別だが、平民の普通の生活では夫婦で成り立っている。
男は1人で生きていく方法が沢山あるが、女はそれこそ娼婦くらいしかないのに、それも選べない。
…という訳ですので、次の能力は呪いでお願いしますね。
「はぁ…貴方がやらなくてもいい事なんですよ?
呪い、分かってます?
どういうものだか。」
うん。
多分。
それにこれを修めないと龍に勝てる気がしない。
「お、なるほど?
なんだ、気がついていたんですね。」
うん。
きっかけは沢山あったけど、なかなか常識が邪魔をして気が付かなかった。
人も龍と同じで半分魔力体みたいなもののようだ。
人も、というより、この世界のものが大体そうっぽい。
じゃないと説明つかないもんね。
急に木が伸びたり、火がついたり、傷が治ったり。
でも大きく物理法則を変化させたりするものでもないみたいだ。
魔法は物体にある性質を大袈裟にする事だ。
多分魔力は情報を蓄えてもいるのだろう、それを外部の力で誘導するもの。
呪いはその中ではかなり異質で、例えばカエルはカエルもカエルの魔力も遺伝子も肉体も、無意識にカエルだと分かっている。
その魔力と遺伝子に嘘をつかせるのが呪いだと思う。
アンタはカエルじゃなくてウサギですよ、と。
「まぁ、そんな感じですね。
よく気がつきましたね、医者であった貴方の方が普通の人より気がつきにくいでしょうに。」
そうかもね、勝手に細胞が治る仕組みを頭に浮かべたりしていたけど、一番は初代の方のリナリーンだね。
あまりにおかしいんだよ。
身体の大きさも変われば、爬虫類になるしメチャクチャじゃない。
それに加えて龍神様にやらされた身体に魔力を通して強化するアレの時に、もしかしてって思ったんだ。
龍は95%魔力体で少しだけ肉体。
人は75%肉体で25%ほどが魔力体なんじゃないかって。
だから操作しやすく、性質を増したり傷を治しやすい龍は強いが、単純な練習で強くはならない。
産まれた瞬間頭打ちみたいなものだ。
そう考えるとパーシェローは茨の道だ。
しかし生まれ持った95%に恵まれていなくても、5%を鍛えることで覆そうとしている彼は大分かっこいい。
呪いは人ですらめちゃくちゃに変えてしまえる。
95%の部分に作用するなら、龍の方が通るのではないだろうか。
「龍は生まれつき操作力も高いですし、基礎魔力も高いので、骨でしょうが…有効な可能性もありますね。
しかし…難しいんですよ。
だからおすすめしていなかった所がありますね。
ガワだけ竜に変化している訳ではないですからね。
なんというか、センスがいりますね。
まずは魔力体を感じる訓練をしてくださいね。
じゃあ頑張って下さい。」
…。
兵舎に用意された個室で目を覚ました。
この感覚にももう大分慣れたなぁ。
でも慣れない面ももちろんある。
毎回毎回さ、どうやってやるのかくらい教えてよ!
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