第200話 聖剣


「シャシャシャシャ!

流石婿殿!

剣筋、身のかわし、力も格段に成長している。


隙を突いてくる魔法も素晴らしい!」


すぐに枷の魔法を消して応戦した「俺」は全力で妖怪退治を始めた。

マジで全力。

対龍戦績3勝1敗で、なんなら勇者にも勝ったっつーのに、全然押し込めない。


早くしないと父親が食われちまうってのによ。


「ジェマ様ぁ、ラルフちゃんにもぉ、やっぱり母親って必要だと、私思う訳ぇ。」


呪詛が聞こえて集中出来ない!


来い!リオン!


「…おぉ!

素晴らしい剣ですね。


見るからに力に溢れている。

シャシャシャシャ!

私も使いますよ、聖剣シャルロット!


楽しいですね。

まさか聖剣も使えるなんて!」


なんじゃそら!

どっから出したんだその剣!


いや、まぁ、有数の剣士なんだから特別な剣の一本や二本持ってるか。


…!


なんだ?

しっかり避けたはずなのに、胸が少し切れたぞ…。


「シャシャシャシャ。

お気をつけて、シャルロットは気まぐれですから。」


なんだって?


何が何だか分からないが、うまく避けられないなら受けるしかない。


…!


危な!

ガードの隙間を縫って来た!

頬に少し突き刺さってちぎれてしまった。


細剣なのか?

いや、さっき避けた時は違った。

なんだそれ、どんな剣なんだよ!


魔法で距離を取ろうと土の棘を出すが、シャルルの攻撃で破られてしまった。


その手に持つ剣、今度は巨大な大剣になっている。


「おぉ、ラッキー。

今日はご機嫌ですね、シャルロット。」


高速で近づくシャルルの剣を大袈裟に避けると、今度は普通の片手剣に見える。


…毎回振るたび違う剣になってる…?


「お、気がつきましたね。

気まぐれな女の様な剣でしてね。

勝手に長さと幅が変わるんですよ。」


変な剣!


あぁ、一個勝ち筋が消えたわ。

あんな変な特性がリオンに宿ったら困っちゃう。

なんとかして手放させて剣を食わせることは出来なくなった。


…結構ヤバいかも。

ペリンが基本に忠実で確実に攻めてくるタイプなら、シャルルはとにかく剣速が速い。


普通の人が1回振る間に、7、8回は振ってくる。


その分パワーはそこまででは無いが、この武器の特性が合わさると不味い。

正しい受けが出来ない。


単純な腕力差で受け切ることが出来るのが有利面だったが、急にデカくなったり細くなったりする剣は、適切な面を外れるどころか受けられるとは限らない。


知らなかった。

こんな微差とも言えるズレがあるだけでこんなに受けられないもんかね。


逆になんでシャルルさんは綺麗に当てられるのか。

観察すると、剣の大きさが変わるのは振り途中だ。

相手が出そうとするじゃんけんの手をある程度予測しているのに、結果的に3択のどれでも無い手でくるから困惑するのか。


…触覚で変化を感じた方が確かにわかりやすそうだ。

それでも神業だとは思うけどさ。


何故こんなにキチンと分析出来ているか。

今回の能力で目をよくしてもらっているからだ。


本当は山で復活するなら鳥でも観察しようかしらとほのぼのした理由で選んだのだが、結局クミンガの火球を掴んだり、妖怪の剣を防ぐのに使っている。


ほのぼのしたいのに、割と戦ってばっかりだ。


…タイミングのズレが問題なら、相手にもそれを強いてみようかな。


ピリルルの技だけどね。


自分の周りの空気をギュッと固める。

うっ、なるほど!

呼吸が出来ないのか。

龍の技はどれも人間がやるもんじゃ無いね。


でもまぁ、他にいい案が浮かぶわけじゃ無いから、これでいきましょ。


「何でしょう。

何かしてますね。

剣筋が狂う。


シャシャシャシャ!

いいぞ!

流石婿殿だ!」


狂った剣先に先程の重さは無い。

かと言ってポワポワの空気の中ではこちらの攻撃の鋭さもない。

でも良いのさ、ペチペチ当てられれば。


…ペリンには効かなかったけど、シャルルさんにはどうだろうか。


ペリンはエアリス討伐の報酬で若返った上に、良い年まで龍と戦い続けた凄い奴だ。

多少の老いは無視して動けてしまっていた。


シャルルお爺ちゃんはどうかな。

今もお爺ちゃんで、更に死魔法で老け込んだらどうかな。

そろそろ体の節々が傷み始めたんじゃなーいの。


「…剣はズレる、体は重い。

…ラルフが大きくなるのと同じ仕組みですね?


舐めるなよ!

ワシはなぁ!

玄孫と剣で戦うんじゃい!」


シャルルさんならやれっかもね。


でも、俺は多分その玄孫より強いよ。


流石にヘロヘロな爺さんの剣を叩き、殺さない様に剣から魔力を抜いた瞬間だった。


「馬鹿め!

掛かったな!

前もそうだったな。


ワシがどこの所属か忘れたのか?

ん?

ボケとるのはお前の方じゃ無いのか?」


シャルルさんに強力な魔力が漲ったかと思うと、次の瞬間若返っていた。


聖魔法で死魔法を打ち消して、そのまま上回り若返ったのだろう!


「だっはっは!

身体が軽いなぁ!

なんだ?

今度はお前が50歳くらいに見えるぞ?

若いっていいなぁ!

シャシャシャシャ!」


…若い頃なかなかかっこいいじゃない。


でもな、それは20歳くらいか?

なら、俺の勝ちだ。


軽く剣を振ると、聖剣で受けようとするシャルル。

しかし剣は急に短くなり受けられないまま斬られてしまった。

決着だ。


そうなのだ。

嫌な話だ。


聖剣シャルロットが女の剣なら、口説いてやろうとこっそり愛魔法で口説いてみたのだが、けんもほろろだった。

始めはシャルルに忠誠を誓った「忠剣」かと思ったが、どうやらそうでは無いようで、なんというか、こんなこと言うのは馬鹿馬鹿しいのだが、好みじゃないらしい。


見た目?

剣の技術?

体格?


そんなものではなく、もっと単純な部分らしい。

老け専なのだ。

気まぐれなシャルロットは、20歳の持ち主と、60歳の他人なら他人を選ぶ。


なにが聖剣だ。

性剣と呼んでやれ。

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