第199話 なんで日だ


「ラルフ、さあ、やりましょう。」


ギリギリ丁寧モードだけど、目はそんなことない。

野獣に例えるのも獣に失礼なくらい獰猛だ。

どっから走って来たのかは知らないけれど、息も切らさずよくそんなこと言えるよ。

かなりの距離でしょ?


狼煙を見る限りは。


「ダメだって親父。

昨日、ラルフは3時間以上立ち合いを続けてんだから。


今日は軽い乱取りだけだ。

怪我させる気かよ。」


モデリニさんの正論だ。

どうする?


「あぁ、そうですか、わかりました。

ラルフ、その腕に巻いてある魔法はトレーニング用の枷ですか?

素晴らしい!

確かに日頃の鍛錬は大切ですね。


さ、外してください。

どうしますか?

何本先取にしましょうか。


それとも気を失った方の負けにしましょうか?


大丈夫ですよ。

この魔法バカが勝手について来てしまったのを利用しましょう。

首と胴が離れなければ死にはしません。


そうだ!

お互いの限界までやったっていいんですよ。


さ、5歩離れて!

剣もね、折れたら困ると思って20本持って来ちゃいました。

ね、私たちクラスの使い手でも本気でやれば何本かは折れてしまうでしょう。


それでおしまいは味気ないですから。


楽しみです。

婿殿がどれほど成長しているのか。


闘技大会では失敗しました。

ルールになんて則るんじゃなかった!


路地裏でもどこでも、貴方がいればパラダイス!

そう!そこが天国ですよ!」


おふぅ。

どうするもなにも一つも話を聞いてない。


「あんたらの師匠やっぱりおかしいじゃない。

ねぇ、ジェマ様〜。」


「あ、ああ、ウィメイラ様もそう言ってらっしゃるんだ、落ち着けシャルル。」


「黙れ!

魔法バカにエロ聖女が!

お前らは手でも繋いで端っこで見ていろ!


剣が!剣が呼んでおるんだ!

なぁ、ラルフ、ほら、お爺ちゃんと殺し合おうなぁ。」


「仕方ないわねぇ、ジェマ様、ほら、手を繋ぎましょ。

…椅子はどうしましょう。

クミンガ、ちょっと椅子になって頂戴。」


「…うす。」


えぇ!

お父さん!

ダメだよ、流されないで!


イキリたった妖怪と人間椅子に座るエロ聖女に袖を掴まれる父親?


なにここ地獄?


「いや、ウィメイラ様、それは流石に…。」


頑張って!

出来ればこっちも処理して!

あぁ、真面目が故に女性に強く言えない父の良いところがこんな所で仇となるとは…。


「大丈夫。

ほら、クミンガはジェマ様を尊敬しているから椅子になんていつでもなるわ、ねぇ?」


「…うす。」


うす、じゃないよ!

初対面でしょ!


絶対だめだよ!

座った瞬間神職者失格だからね!


助けてあげてシェイさん、同僚が、同僚が!


「謎の剣士ことラルフ様と剣聖シャルル様の対戦が観られるなんて最高だなぁ。

聖騎士団に入ってよかったっす!」


あぁ!

闘技大会オタクだった!


モデリニさん!

もうあんたしか居ないんだ!

止めて!

せめてどっちかを!


いや、エロ聖女を止めて!

その後お父さんに剣狂いを止めてもらうから!


「ウィー姉さん、ちょっと、それは良くねぇって。

ほら、子供の教育的にもさ…。」


「邪魔したらパパに言ってここにお酒来なくするから。」


「ラルフ、ワリ。」


ワリ、じゃねぇんだよ!


うわぁああ!


剣が鼻先を通り過ぎた!


「流石っす!

不意打ちなのにミリ単位で避けるなんて流石チャンピオンっす!」


やってやるよ馬鹿野郎!

とっとと妖怪退治して、エロ聖女から父を救い出すんだ!


なんて嫌な英雄譚だ!

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