第196話 やっぱ兄弟子


「龍を倒すと強くなるって御伽話は、正直うたがってたんだよなぁ。

そもそも、とんでもなく強くねぇと勝てないだろ?


んでも、ラルフとやったら分かったわ。

単純な魔力量、身体能力が人間じゃねぇ。


お前は運良くメタれたっていってけどよ、もし技で龍を押し切れるような奴がそんな事になったら、だーれも勝てなくなるもんなぁ。


しっかしまぁ、命の取り合いならともかく、一本を取り合う訓練ならまだ負けねーわな。

ガキの割には十分すげーけどよ。


よし、お前ら3人打ち合え。


シェイ、技ならお前の方が上手いわ。

ただ受け損なったら終わりだから上手く避けろ。

クミンガ、お前は技術が同じくらいでお前より力ある奴あんまいねーだろ。

貴重だからやっとけ。

ラルフは数が足りねーな。

可哀想な話だが、イレギュラー的に強くなっちまったせいで、場数をこなす組み打ちなんかの訓練はもう出来ねぇ。


剣の想像力を鍛える時間がなかっただろ。

少人数の強者とだけ戦い続けたような歪さがある。

それでも有象無象には勝てるだろうが、いつかハメ手で頭飛ばされる可能性もあるぞ。


だからな、シェイ。

裏技とか汚ぇ技どんどん出していけ、コイツのためだ。

クミンガは技で戦え、粘ればチャンス来るぞ。


よし、はじめろ。」


ビタっと戦績を当てられたよ。

こういう能力はてんでないから憧れるよ。


今まで僕は本来の実力からみると、圧倒的強者か10回戦っても負けない相手としか戦ってない。

唯一パーシェローがもしかしたら実力が近いのかもしれないけど、他は死ねるというのを戦術に組み込んだ、反則を使って勝ちを拾って来ただけだ。


今だにきっちりした練習は3年間しかやっていない事に、コンプレックスではないけれど、それに近い感覚がある。

貰い物の腕力と魔力で勝てるとは言え、使いこなせているとは到底ないのに、パラメータ差で勝てているだけだ。


それこそ闘技大会だって目的がはっきりとなければ、こんなズルい奴が…と、出場自体しなかっただろう。


ピリルルは貰えた時点で頑張って来た証と言ってくれた。

理屈はわかるし、強くなるためには運だって絡むのは当たり前なのもわかるが、それでも自分で納得していない。


いつか、はっきり実力がついたと思えるかもしれないし、一生思えないかもしれない。


そういえば前世で、これを修めたなんて感覚を持った事なかったなぁ。


「あ?

ラルフ、ごちゃごちゃ考えんな。

勝つのが前提で上手いかどうかは本来二の次なんだから。

今は練習だから上手さを手に入れる為にやるが、手段と目的を見失うなよ。


原始的なんだ、本来。

殺されずに殺す技を昔の人が必死に考えたんだ。

とりあえず学んだ方が効率がいいだけさ。」


たしかにそうだ。



交互に対戦をし続けて、10周した辺りで2人とも立てなくなったので、そこで終了した。


正直まだ3時間程度なので、全然物足りない。


「おいおい、体力が一番化け物かよ。

なんでケロッとしてんだ?


シェイもクミンガもボロボロなのによ。」


ええ?

剣を習った3年間は4時から22時までずっとやってたし、今の自主練の素振りと型取りはどんなに忙しくても2時間くらいは何処かで時間を割いてやってるし、立ち会いが出来るなら一日中やるもんだと思ってたよ。


「…18時間練習?」


いや、ご飯とかお風呂とかあったから実質15時間くらいだと思うけどね。


「いや…。

それもあれか?

龍に勝って身体能力が高まったからやれるのか?」


え?

いやいや、そもそも剣の練習していた期間って龍を倒す前だし、7、8歳の頃だから。


「なんだってそんな馬鹿みたいに修行したんだよ。

イカれてんのか指導者は。

別に勝てなきゃいけない相手なんていなかったわけだろう?」


居たって。

シャルルさん。

逃げ切らないと養子にされるところだったんだから。


「あぁ、ジジイの趣味のアレだ。

ん?

そんなに剣が好きなら別に良かったろ。」


…僕の祖父はサシュマジュクだよ。

わかる?

その意味。

シャルルさんとこにいたなら分かるかな。


「あ?

お前先生の孫かよ!


だっはっは!

ならしゃーねぇな!


あの2人の喧嘩を避けたのか。

2人とも子供好きだからなぁ。


でもなんで剣の練習をしてたんだ?

逆効果だろ。

上手くなればなる程、ジジイは執着するぞ。」


そうなんだって気がついたのは大分後だったんだよ。

教えてくれたルーベンスさんもブランドさんも剣士だし、もちろんお父さんにも魔法は教わっていたけど、剣に時間を取られすぎて疎かだった。


だから今こうやって…あ!

あー!

手足に枷を付けたままだった!


せっかくの試合形式の練習だったのに!


「おお、なんだ?

兄貴とルーベンスが師匠なのか。

なら間違いなく俺とも兄弟にされてたな!


あ、俺はブランドとルーベンスの間の子供だぜ。

俺と兄貴は実子だけどな。」


あー!

なるほど!

言われてみれば確かにシャルルさんに似てるわ。


「ところでよ。

枷ってなんだ?

なんか縛ってんのか?

技とか。」


いや、これ。

手首と足首に負荷が掛かるように魔法で枷をはめてるのよ。

魔法は普段使いからってファッション誌みたいな教えをもらってね。

それでこれを付け始めたんだ。


見た目より大分重いし、よく見ないと分からないけど中で回転してるから、遠心力でさらに辛くなるようにしてある。

操作が中々複雑だから魔法の鍛錬にもなるし、手足もきついから一石二鳥なんだよ。


…最近ではパーシェローとやる時だけしか外さなかったなぁ。


「おもしれーなそれ。

ちょっと俺にもつけてくんない?


…ほうほう。

いや、かなり重いな。

こっから中を回すのか?


…がっ。

ぎぎぎぎぎぎ。


…ほう、これ、は。

最高じゃねーか!


発明だな、ラルフ!


あはは!

辛い!

辛いぞう!


ちょっと走ってくるわ!


あはは!

辛い!」


…わかる!

わかるよ!

モデリニさん!


「バッカみたい。

辛いのの何が楽しいのよ。

ねぇ?」


「うす。」


「うっす。」

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