第193話 謎の村
風魔法は不発に終わったので歩いて行きましょかね。
なんか移動に関しても魔法はうまくいった試しがないなぁ。
あ、あと芸術もか。
風流に過ごす才能と運命がないみたいだ。
憧れるのになぁ、縁側で猫を膝に乗せて犬を撫でながら何日も前に準備した自家製なんかを火鉢で焼いて食べるのとか。
自家製なんとかの中身は、才能がないから思いつかないけれども。
多分干物とかだ。
多分、なんかの…。
死ぬまで働いていたっぽいし、そんな人間じゃないから仕方ないね。
太陽の位置を信じて道を歩いていると、村が見えて来た。
結構山の麓で不便だろうに、やっぱりどこにでも村はあるもんだなぁ。
あそこで訪ねて本山のある街への道を聞こう。
◆
…村へ入るが、人の気配がしない。
とはいえ捨てられた村ではないのは、干された野菜や回っている水車でわかる。
メアリーセレスト号のように、人だけが居なくなってしまったみたいだ。
あれは、デマだったんだっけか。
論理的に考えると、単にこの時間は村の集会所に集まる決まりがあるとかか。
んー。
でも体感的に今は夕方でご飯前くらいなんだよなぁ。
主婦の忙しい時間帯にそんな決まり作るかな。
では次の可能性。
人攫いとか獣に、僕が来る直前襲われたとか。
…多分違う。
血の香りがしないもの。
医者であり、今世は割と血を見ている僕を信じて欲しい。
争いがあるとなんかベトっとした空気になるし、生臭い鉄の匂いがするから。
はい次。
…いや、もう浮かばないよ。
ピリルルじゃないんだから。
まぁ、あの一番大きな建物が村長宅だろうから訪ねれば分かることさ。
僕は足で稼ぐ派の人間だから。
決して脳筋ではないけど、現場は大事だから。
村長の家らしき建物に近づくと、薄っすら魔法の気配がする。
あそこに隠れているのかな?
しかも臨戦体制だ。
あのー、僕は子供ですよー!
迷子なだけですよー!
道を教えてくれたらそのまま通り過ぎますよー!
…だめか。
なんかより気配が濃くなったな。
信じられてない感じだ。
どうしようかなと空を見た瞬間建物から火玉が飛んできた。
魔力がスカスカ(当社比)なので掴んで投げ返すと、中から声がした。
「ひゃー!」
…おっさんの声だ。
おっさんだな。
なら容赦しなくていいか。
攻撃して来たおっさんだから。
はーい!
10数えたら魔法を撃ちまーす。
もし、お子さんがいるなら今の内に逃げて下さいねー。
じゅーーーーーう!
「待ってくれ!」
きゅーーーーーう!
「えぇ?待ってくれって!」
はちななろくごーよん
「子供が中に居るんだが、出せない!」
さ…。
なんでー?
「いや、それは…。」
さーーーーーーん!
「くそ!イカれてやがる!
なんだってんだ!」
に!
誰がイカれてるか!
ばーか!
「子供が病気なんだ!」
いーーー…え?
それを早く言えって。
診せてみろ。
僕なら治せるかもしれない。
「本当か!
こっちだ!
治してやってくれ!」
はいはい今行きますよー。
…はぁ、こんな事で前世の記憶が蘇るなんてなぁ。
漫画で読んだよ、こんな場面を。
ほぉ〜この僕が医者にみえるってわけか?おまえ
いや、医者なんだけど、どっからどう見ても子供でしょ。
王国の人ならまだしも、こんな辺境で僕が医者に見える訳ないでしょ。
誘い込む理由はいくつか思い浮かぶけど、まぁ無難に…。
ラルフが建物に近づくと、屋根から男が剣を持って飛び降り切りかかって来た。
リオンを棒にして受け、そのまま剣を巻き取りリオンに食べさせると、男はそれでも素手で立ち向かう様子だ。
やっぱり奇襲だよね。
なんなの?
そんなにこの建物に近寄らせたくないの?
本当に病気の子供がいるなら、マジの医者だから診せて欲しいし、何かを警戒してるなら、本当に迷子だから道を教えて欲しいんだけど。
「この…!
…ウィメイラ様?
…ウィメイラ様…に似ている!」
誰ですか?
ラルフィード様になら似てるって言われた事はあるよ。
「な…本当に通りすがり…なのか?
ウィメイラ様の隠し子とかじゃなくて?」
いや、知らない人だね。
似てるの?
「私に隠し子なんていません!
もう!
みんなみんな25歳超えたくらいから結婚しろしろうるさいんだから!
なに!
そんなに似てるの?
男の子でしょ?」
…なんか半ギレの女の人が出て来た。
確かに似ていなくもない…かな?
雰囲気が近い気がするけど、あんまり自分の顔を今世で見てないからわからないなぁ。
「出たらダメですって!
なんで偉くなったのにずっとそんな感じなんだよ、アンタ…。
あ、似てるわ。」
シュッとした聖騎士の制服を着た人も出て来た。
なにここ。
えぇ?
なに?
「たしかに、似てるかも!
モテるでしょ貴方。
私もねー若い頃はね!
…今も若い!
まだ28!
だれだ!
今笑ったの!
禿げる様に神に祈るぞ!」
…えぇ…?
「ごめんな坊主。
こんなんでも偉い神職者なんだよ。
ここはちょっと特殊な村でな、侵入者にピリついたんだよ。
あ?
似てる似てないより、こいつ知ってるわ。
お前ラルフだろ?
神の子ラルフ。
そうだろ。」
そうですよ。
初めまして。
あ、挨拶より先に火の玉飛ばすのが流儀ならやり直すけど。
「やめろやめろ。
悪かったって。
そりゃつえーわ、闘技大会の優勝者じゃねぇか。
勇者ペリンより強いんだろ?
おめーら!
無理だ!
悪い人じゃないから出てこい!
だーれも勝てねーしな!
シャシャシャ!」
あ、誰かは知らないけど、もしかしてシャルルさんのお弟子さん?
「あ?
なんで分かったんだよ。
俺はあの妖怪の息子だな。
階級はおんなじ聖騎士団長、モデリニだ。
よろしくな。
…もしかして、ラルフもあの爺さんに追っかけられたクチか?」
あの爺さんの計略にかかって孫娘と婚約してるよ。
いや、アンヌはいい娘だから今となっては不満はないけどさ。
「あ?
気に入られ過ぎだろ!
シャシャシャ。」
いや、モデリニさんも大概気に入られてたんだってわかるよ。
笑い方で。
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