第188話 パーシェロー


「じゃあ話す事も話したしな、やるか。」


やっぱり?

そうなると思ってたよ。

なんでもありでやるの?


「もちろん。

思うところがあって人型で戦うけど、俺は強いぞ。」


うん。

今回は勝ち負けは大事じゃないから。


まず龍に正面からどれだけやれる様になったか、確認しないとね。


「おーけーおーけー。

おい、見たいやつは離れてみてろ。


えーと、リンキーだっけ。

余波で死ぬなよ。

守れる奴の後ろにいた方がいいぞ。


小石も音速超えたらあぶねーからな。」


軽く距離をとって、剣を構える。

普通の木剣の方だ。

ごめんって獣剣リオン。


ちょっとだけ我慢しててよ。

見せ場はあるから。


数多のハゲマッチョが見守る中、手合わせは静かに始まった。

勇者や他の龍の「強者」たちとは、立ち回りが違った。


ステップで、間合いを取りまずは相手の空間を探る、ジャブで自分の攻撃範囲と相手の反応を確認し、時折リスクの少ないローキックや2撃だけの連撃を放つ。


この世界においては退屈な立ち上がりだ。


ペリンなら、何も考えず鍛え抜かれた身体と技術で突っ込んでくる。

リリーディアなら、身体をプラズマ化させて今頃こっちに穴が空いている。

リナリーンも大技があるし、ピリルルも切り札があるらしい。


僕とパーシェローには共通点がある。

火力不足だ。


確かに、パーシェローは上手い。

膂力も人間のそれを遥かに超えているだろう。


でもただそれだけだ。


そして僕も似たようなものだ。

相手を知って、嫌がらせで勝った事にしてきただけで、圧倒的に武器か身体能力に差がない相手には実力ではどうにもならない。


…戦いが好きじゃない僕ですら、考えることがあったのに、龍に生まれたパーシェローの絶望は僕が思う何倍も深いものだっただろう。


思えば威風堂々とした気配もなく、一度も龍になっていない。


自信がないのだろう。


こんな、人間の無難な戦い方を修めて、律儀に戦えくらいだ。


…なんて嫌がらせしやすいんだ!


「俺」は少し距離を取り土の柱をパーシェローに伸ばす。

身体を少し逸せて簡単に避けたが、悪手だ。


俺が操るものなのに、軌道を物理現象で想定しちゃダメだ。

柱から生えた数多の棒にパーシェローは巻き込まれそうになるが、殴り、蹴り、時には額でそれらを折っていく。


「はっはっは!

ヌルいぞラルフ!

龍を襲うには脆すぎだ!」


そう。

硬さを重視していないもの。


それだけ破片が散らばると見づらいでしょ。


パーシェローの足元が隆起し、天井に叩きつけられる。


そう、試練のハゲマッチョにした攻撃にちょっと見づらい工夫をしただけのものだ。

これを避けられないなんて、正直想定外だ。


高いところからポトリと落ちてきた姿は、龍になっていた。


「は、笑えよ。

小さいだろう。」


今まで見た龍の中で一番大きな龍は、龍王と王妃で、全長は5メートル程ある。

次にエアリスで3メートルくらい。


リリーディアは2メートルほどで、ピリルルは1.8メートルほどだが、初めて会った時より、背中に乗せてもらった時の方が、少しだけ大きかった。

まだ成長期なのだ。


パーシェローの龍としての体は1.2メートルほどしか無かった。

龍神は更に小さいが、おそらくアレは本体ではない。

存在が薄いので、何処かにフラッと現れるには不便なほどの体があるのだろう。

それでも濃密な魔力を感じるので、決して弱そうには見えないのだ。


しかし…。


「笑えって言ってんだろ!

この体で!

魔力もそこらの獣程度だ!


おい、お前は何体も龍を見てきただろ?

俺はどのくらいの強さに見える?


…下から何番目だ。」


…必死に頑張って来たのは、さっきの技のやり取りで伝わって来た。

笑う事はない。


それでも、龍としてはもちろん、ペリンやシャルル、ジェマなどの人の強者、ヤイシャやカカシャなどの獣の強者、剣闘士のキャオやなんならランド程の力さえ感じない。


つまり、力が強くて、技術があるだけだ。

確かにカウンター重視のピリルルだけは相性が悪くて勝てないかもしれない。

今のピリルルはそんなに甘くないけどね。


それでも、さっきの土魔法なんて今言った全員が避けるか対処できる。


…敬意はあるよ。

だから最後まで戦う。


正直、生まれ持ったものはそんなに違わない。


だけど、俺は色々巻き込まれて、叩き込まれて来た。

こんな所で普通の人間を集めて、チマチマ鍛えて悦に入っていない。


やってる感が必要だったんだろう?

自分がこの世で一番弱いっていう想像に蓋をする為に。


見せてやるよ。


命懸けを強要されてきた凡人の切り札を。


来い、リオン。


手に持つリオンの周りに氷と風が舞う。

リリーディアのパクリ技は、生身でやると腕から消し飛んだ。


でも、意思があると言っても剣で、コイツは戻ってくる。


戻ってくるの意味を履き違えていた。

欠けても破片が戻ってくるし、折れても戻ってきて治る。


神獣のサナギのようなリオンに死や破壊はないらしい。

一度この技を試した時にバラバラに壊れそうになったが、その後の方がリオンは強いくらいだ。


刀身が青白く光る。


コレを持ってどうやって突っ込むかって?

簡単だ。


剣に誘導して貰えばいいだけだ。


魔力タンクとして使ってくれ、リオン。

構えた剣は匂いを覚えた狼のように弾けると、俺を連れてパーシェローに襲いかかる。


景色が光る。


自分の意思で狙えてはいない。


それでもリオンはパーシェローを捉えた。


リードを持った飼い主だけど、猛犬に引きずられて居るだけだ。


すまんね躾が悪くて。


景色が元に戻るとパーシェローの首が落ちていた。


身体は速度に負けてあちこち痛いが、俺は立っている。


「はっ。

負けだ負けだ。


はぁ。

…同情すんなよ。

コレでも格段に強くなってんだから。」


しないよ。

凄いと思うよ。


「僕」はヤイシャに貰った力をリリーディアの技をパクって使っただけだ。


パーシェローは負けてもいいと思うよ。

強い奴に挑んで負けても、恥ずかしくないよ。


「あぁ、そうだな。

…でも分かったろ?

もし、龍贄が必要なら俺がなる。」


おいおい。

お前が、パーシェローが龍神を倒すんだろ?


「もちろんそうだ。

だけど、お前が必要になったら呼べ。

捧げてやる。」


簡単に言うなよ。


「簡単に言ってねぇよ。

長男だ。

俺は。


雑魚でもなんでも、あいつらの兄貴で、親父の息子だからよ。」


パーシェロー…。


彼に近づき、聖魔法で回復させて居ると、赤く光、何処かから声が聞こえた。


「願いを叶えてやろう。


あ、なんかシリアスだな。

もう何回も普通に接してるから、恥ずかしくなってきたぞ。


…やめろよ。

そんな顔で我を見るな。」


龍神さぁ…。

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