第186話 格闘技オタクなスレイブ
「パーシェロー様!
パーシェロー様ぁあ!」
辞めなって、打ち合わせと違う感じだったから、出るに出れなくなっちゃったんだよ。
「パーシェロー!様ぁあ!」
ほら、カーテンモッコリするくらい隠れちゃってるんだから、そんな大きな声で呼び出したらかわいそうだよ。
あ、目が合った…。
いや、僕は悪くないでしょ。
コイツがやられた時に、泣いたりなんかしないでさ
「くっ、やるではないか、しかし、我らが主人、パーシェロー様の比ではないわ!」
とか言えば、薄く拍手しながら登場するだけで、めちゃくちゃ強そうだったのに。
大泣きするんだもん。
なんか罪悪感で場が冷え冷えだよ。
パーシェローは頭をガリガリ掻いて、スタスタ早歩きで近寄ると、スキンヘッドを無言で叩いた。
「びちゃんといい音鳴ったからって許して貰えると思うなよ!
馬鹿お前、台無しじゃねぇか!
見ろコイツらの顔、俺に興味ある感じじゃねーだろ!
あ、やっと出て来た、可哀想だから早く慰めてあげてって顔されてんだよ!
辞めろ!
ごめんって、唇ワナワナすんなよ。
見どころは少しだけあったよ。
お前、スピードで完敗したんじゃ無くて、殴るための最後のステップの歩幅を少し伸ばした攻撃を見切れなくて負けたんだよ。
最後だけ速く感じたか、消えたように感じたかはお前しかわからねぇけど、カラクリはそんな所だ。
組み合えればなぁ。
なぁ?
あいつ、ラルフは組み合い強かねぇぞ?
多分剣と魔法で生きて来た脳筋だ。」
コイツ…。
登場に失敗したのを見逃してやったら、何だ?
格闘技オタクみたいな解説しやがって。
誰が脳筋だ!
工夫しないともっと前に死んでたわ!
最近は、確かに、素早く動いて強く殴るってなってきてたけど…。
「ほら、立て。
ラルフももっかいやってやってくれ。
いいか、喰らってもいいから、綺麗にもらうな。
あいつは龍讃2回の天才だ。
地道に努力してきたお前とは違う。
泥試合になっても、塩試合になってもいい。
そこまで運べたら、俺だけは誉めてやる。
よし!
行け!」
行け!じゃないって。
セコンドが付いて元気を取り戻したマッチョが殴りかかってくる。
手首を掴んでクルっと回したが、途中で無理矢理服を掴んで来て、体重差で崩れた。
そのまま腕の関節を極めて来ようとしたが、魔法で柱を出して、天井に縫い付ける事で第二戦は幕を閉じた。
「くそー!
やるなぁ!
でも魔法使わなくてもよくねぇ?
腕力差も結構あるから、そのまま叩きつけるだけでも、極まらなかったろ。」
土の柱をシュルシュルと下すと、今度は泣いていなかった。
少しは手応えがあったのだろう。
「…ありがとうございました。」
「な!
お前もそう思うだろ?
腕力差で切り返して、顔面ぶん殴られるだけでも負けてたよな?
なんで魔法だったんだよー。
スマートじゃねぇだろー。」
はぁ、スマートじゃないだって?
先を読めないなんて、それでも龍か?
狙いはいくつももって攻撃するもんだろ。
まず僕は初戦なんだから、魔法への抵抗の仕方を見なければならないし、あれはタダの柱じゃない。
抜けられたら、そのまま棘として襲えるように、分割して成形してあるし、それすらダメなら自壊して煙幕になれるようにしてある。
その裏で剣を作るのも、分かりづらいように魔法を生成するのも選択肢が出来るだろ?
腕力でちぎって顔面パンチはリスクがありすぎるだろ。
どうすんだよ、その手を掴まれたら。
また関節技の始点になるだろ。
龍はみんな雑に戦うから負けるんだよ。
「あ?
2体の龍を倒したからって調子に乗んなよ?
どうせ産まれたての大した事ない龍だろ?
それを自慢して、イキりやがって。
あそこで魔法の速度とか、発生密度とか見られた方がリスク高ぇーだろうが!
次の大っきいチャンスの為に残すのが定石ってもんだ。
え?
もしかしてあれがマックス?
え?
神子とか呼ばれてるけど、あの程度?」
ちげーよ馬鹿。
だから布石だって言ってんだろ!
剣士なんだから、剣が切り札に決まってるだろ?
剣を出しもしないでリーチを隠したんだよ。
それで煙幕の中の意識の外から斬ったっていいだろ?
あれ?
お前もしかして、剣士と戦った事ないの?
口だけ格闘王か?
実践少ないだろ。
「な!ん!だ!と!
お前じゃあ言ってみろよ!
どの龍に勝ったんだ?
いやー俺が知ってる龍な訳ないよな?
そんな強者に雑なお前が勝てると思えねぇもん。
ほら、弱小龍だろ?
どうせ。」
一体はエアリスだよ。
嫋々龍エアリス。
知ってるか?
知らないか。
お前、知識仕入れたりしなさそうだもんな!
おい!
「エアリス…?
あぁ!
知ってるぞ!
あれだろ?
何十年もおんなじ相手と戦ってるアイツ!
どうせお前漁夫ったんだろ?
おかしいだろ、同じ相手と延々とタイマン張ってたのに、急に勝者の名前にお前が上がるなんて。
それで?
もう一体は?
エアリスもそんな有名龍じゃねーからな、言っとくけど。
特殊な戦闘経歴だから、覚えてただけだし。」
…どうしようかな。
ラルフは迷っていた。
もう一体はリリーディア。
この馬鹿の妹だ。
もしコイツがシスコンなら面倒な事になる。
ラルフはこの世のブラコン、シスコンにトラウマを植え付けられかけていた。
もし、リリーディアにピリルルを害した事を言うと、確実に死が待っている。
もし、うちの姉に僕を害した事を言ったなら、確実に社会的に殺される。
そう言う気配を嫌と言う程見てきたのだ。
「どうした?
ほら、赤ちゃん龍でもやっちまったのか?
おらおらおらおら。」
…あぁ、面倒くさい。
コイツとなら、なんかあっても殴り合った方が簡単そうだ。
…リリーディアだよ。
リリーディア。
お前の妹のリリーディア。
因みに、その時に何故か婚約者にされた。
いや、正確に言うと、龍の願いを婚約破棄に使ったのに、リリーディアだけ受け入れてない気がする。
「リ、リリーディア…。
お前…リリーディアに勝ったのか…?
スゲェな…。」
凄い引くじゃん。
忘れていた。
弟は姉の奴隷である。
父は娘の奴隷である。
そうなれば当然、兄も妹の奴隷なのであーる。
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