第185話 流石に普通の人間には負けないって


「曲がりなりにも龍をも倒す為に鍛えている我らを、弱いと思わぬことだ。」


まさかそんなセリフを吐いたスキンヘッドマッチョが助走つけて殴っただけでダウンするなんて考えてなかったわ。


見せ場ゼロ、解説するべきところもなしの、戦いだった。


流石に申し訳なくなって来た。


もしかしたら技術戦になれば互角だったりしたのかもしれないけど、あの程度避けられないなら結局龍になんて勝てる訳ないしなぁ。


これからはかも知れない対戦をしよう。


人間相手に全開でやったら、相手のいいところを一つも見れないかも知れないんだから。


あー、龍が先ず相手の攻撃を受けてから立ち合うのが分かった。


こう言う気分だったのね。


「神子さま、やっぱとんでもなくつえーんすね。

アンのやつ、これに挑むとか頭どうかしてんな。


…その人、死んでないっすよね?」


いや、分からない。

心臓がドキッとしたわ…。


今まで格上ばっかりだったから、そんな心配したことなかったし。


そっと近寄ると、目を開けていた。

そしてそのまま泣いていた。


お店の撮影許可取れるか聞いてくるタレントぐらいおおげさに手で丸を作ると、リンキーも駆け寄って来た。


「うわ…一声も上げず泣いてる…。


怖いっすね。

マッチョが大声で泣くのも怖いっすけど、これはこれで、夢に出そうっすわ。」


うん、本当にね。


…どうしようか。

この戦いは確か試練で、倒したら龍贄のこととパーシェローのことを教えてくれるんだったらはずなんだけど、こんな泣いてる人に聞けないよ…。


リンキーが聞いてよ。


「いや、俺も泣いてる女に話しかけるの平気タイプだって自分で思ってたっすけど、泣いてるマッチョに話しかける話題がないっすもん。」


話題…。


あの、昨日何食べました?


「いやいやいや、それは違うっしょ。

空気読めないってよく言われませんか?」


初めて言われましたけど。


「…魚の煮たやつだ。」


ほら、答えてくれた!

合っていたんじゃん。

リンキーこそ、ビビって結局何にも出来ないタイプって言われるんじゃない?


「えぇ?」


「何でも答えるぞ。

敗者は、勝者の下なのだ。」


あー!

龍ってそういうところあるよね!

頭脳派ピリルルさえ、喧嘩の強さをかなり重視していたもの。


「そうだ。


我らもパーシェロー様にその精神を叩き込まれているし、その明快さを好んでいる。


そもそも龍讃を達したラルフ様に勝てるとは思っていなかったが、どうしても試したかったのだ。


…結果は指先すら届かなかったが、パーシェロー様に許可を頂いて立ち会った甲斐はあった。」


お兄ちゃんに許可取ってるのね。

はえーちゃんとしてるなぁ。


「勝負が終わり次第、強者感を出して登場するから、お前も頑張れよ、と言葉を頂いていたのに、情け無くて涙がでる。


…そういえば、パーシェロー様が来んな。


なぜだ?」


何故って?

少し前からチラチラ見えてる、あの髪の長いニイちゃんがパーシェローだって言うなら、理由は分かるよ。


アンタが大泣きしていたせいで、タイミングを逃しちゃったのさ。


見ちゃったもん。

僕が泣いてるって言った瞬間少し下がって陰に隠れたのを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る