第184話 イライラ


教会、と言ってもほぼ洞窟と言って良い作りだが、とにかく入ると、前世の少林寺の様なスキンヘッドマッチョが待ち構えていた。


信じらんないスタイルだ。

ここは雪山の中にある洞窟で、暖房などない。

流石に登山用のガチガチ防寒具でなくても大丈夫だが、息が白いくらいは寒い。


寒くないの?

修行をしたら、腰蓑一枚で大丈夫なの?


「無論。」


そう…。

凄いね…。


それで、あの、龍神さんから何か聞いてます?


「我と立ち合ってもらおうか。」


ならいいや。

じゃあ、行こうか。

一応龍神様のいう通り来たし、もう、いいじゃない。


「…そうっすね。

良い経験になりました。


それでは。」


「またれよ…。」


外に出ると、少し崩れた天気が持ち直していた。

太陽が降り注ぐ山は気分がいい。


「またれよ。」


リンキー知ってた?

雪山って登りより下りの方が危ないんだって。


「そうなんすね。

いやー、ピリルルさんの受け売りっしょ、それ。」


あはは、バレた?

そうなんだよ。

前にそんな話してさー。

でも冷静に考えたらそうだよね。

足滑らせたら落ちていっちゃうもんね。


「そうっすねぇ。」


「待ってくれ!

私と立ち会ってくれ。


二つ!

二つも理由があるのだ。」


なんですか?

…龍を祀っているなら、分かるだろう?

僕は今、余裕が無いんだ。


ずっとイライラしている。

リンキーにもちょっと冷たくしちゃったしね。


「あ、やっぱ冷たかったっすよね。」


そして、アンタの試す様な態度が鼻につく。


龍神の話に嫌な予感しかしない。

世界の命運が掛かっているはずなんだろ?


ピリルルを突き放す事になった事自体には納得しているけど、もちろん嬉しかった事じゃ無い。


僕が予備に選ばれるのは、いい。

受け入れる。

龍を、望む望まないに関わらず、2体倒しているし、龍王さんは友達の父親で、憎めない生活をしてるおじさんだ。


もちろん嫌いじゃ無い。


龍神さんが、のんきな感じなのは許す。

友達だと思っているし、龍の性質だと言うなら、龍神自体を責めたくはない。


神様もおそらく、ちょっと嫌な感じがしている。

あんなちょっとした軽口で、やばい能力になんてしない人だ。

あの感じでもピリピリしているんだろう。


龍を祀る。

今まで概念的な事かと思っていた。


この世界に来て一番理不尽で意味不明な龍と言う生き物だから、それを信仰の対象にする人達がいてもおかしく無いと。


でもここに来てわかった。


ここは龍が建てた教会だ。

奥から不思議と見知った気配がする。


なぁ、アンタ、ここに居る龍の名前は知らないけれど、どういうやつかはわかった。

見つけたんだな、龍神さんは。


「…おそらくあっている。

お名前は、パーシェロー。」


こんなところに建てるから、密教扱いしてるんじゃない。


隠れていたから、こんなところに棲み家を作ったのだ。


ここに居るのは、龍王家長男。

ピリルルとリリーディアの兄だろう?


「…左様。」


それで?

アンタを倒すのが謁見の条件ってわけだ。

会いたいけど、ルールが邪魔してる訳ね。


それがアンタと立ち会う理由の一つ目ってところか。


それで、二つ目は?


「ほぼ失われている、龍贄のやり方を伝える為だ。

それも、我を倒し、パーシェロー様に認められなくてはいけない。


ルールなのだ。」


…ったく。

世界がヤバそうなのに、よくもまぁそんな事を…。


まぁ、良いさ。


教会へ戻ろうか。

そこでアンタをブン殴って、少しスッキリさせてもらうよ。

全開でいいんだろう?


「無論。」


はぁ、よし。

やろうか、アンタ、名前は?


「ない。

捨てた。」


オッケー、ナイステタさんね。

やろうか。


「あ、いや…。

…うむ。」


「あ、今なんか諦めたっすね。」

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