第181話 痛教会
その竣工、ちょっと待った!
なーんて無理よね。
結婚式を止めるライバルが如くドラマチックに教会へ飛び込んだら、あら不思議。
式典の真っ最中でした。
「あちゃー。
単に間に合わなかったと言いたいところっすけど、なんか向こうからしたら奇跡のジャストタイミングっすね。
あはは。」
笑うな!
めちゃくちゃ注目を集めちゃっているじゃない…。
そりゃそうだ。
ご本人登場なんだから。
呼んじゃいないのに。
デッカい犬に乗って。
あぁ、見えた!
見ちゃったなぁ…。
自分の絵…。
どんなに偏愛が過ぎる人だってこれはなかなかなんとも言い難いと思うよ。
痛車はみるけれど、自分の絵の痛車に乗ってるヤツなんて見たことないもの。
そんな気分。
痛教会め。
天井にバッチリ描かれているって。
式典の客達は事態が飲み込めて来たらしく、ザワザワが徐々に大きくなり、今は歓声と言って良いまでに広がっている。
消えてなくなってしまいたいが、能力が発動してしまったのか、いつのまにか僕の右手は高々と挙げられていた。
油断してたぜ。
リンキーにはなんの反応もして居なかったし、たらしなんてふざけた能力、冗談だったのかと思って居たのに。
リンキーはおそらく僕になにかを期待したりして居なかったし、元々ある程度好意的だったのだ。
要は人の期待に沿ってしまう行動を出来る限りとるってヤツっぽいな。
…ついに身体の自由意志を失ったか。
ふふっと、皮肉的な笑いが出たが、神謹製のボディだ。
優雅な笑みと取られたようで、歓声がまた一段階大きくなってしまった。
「これ、俺でもわかるわ。
このまま参加するしかねーって。」
うん、僕でもわかるわ。
なるべく早く、サラッと参加して消えよう。
「我はどうしたら良いのだ。
して、間に合ったのか?
ラルフよ。」
…間に合ってないのよそれが。
ヤイシャは一つも悪くないけどさ。
とりあえず誰にも当たらずに一番前に行ける?
「容易い。」
ヤイシャは僕を乗せたままふわっと飛び上がり、壇上へ上がった。
「あの…。」
ごめんよ司会のお姉さん、あと壇上の偉いっぽいおじさま方。
少しだけ時間を貰うね。
一言も発することはしないと決めた。
何かを言うと、この場はそうなる。
一言一句取り繕えるほどではないからねぇ。
そして自分の意思ですらないのに、なにを言うか信用できない。
でも収めなきゃな。
人差し指を自分の口に当てて、しーっとお姉さんに向けると、こくこく頷いてくれた。
ヤイシャから降りて、正面を見る。
…こんなに人集めるものなのか。
式典って。
もう少しざわつきが抑えたら、頭を下げてそのまま去ろう。
「鎮まれ。
我は神獣ヤイシャ。
鎮まれ。」
わお…。
名乗っちゃったよ。
まいった…。
つい浮かれて飛び入りおちゃめな神子さんで終わらせたかったのに、神獣を伴ったら意味が重くなっちゃう。
でももう出ちゃったし引けないやね。
僕はすっと頭を下げて顔を上げて、にっこり笑ってヤイシャに飛び乗り、そのまま走り去って行った。
「…あんの人。
ヤケになったんすか?」
ラルフはヤケになってはいるが、そういう方向にヤケになってはいない。
能力の奴隷だっただけだ。
ラルフは教会を飛び出てヤイシャとカカシャにお礼を言い別れると、すぐに近くの別の教会へ飛び込んだ。
教会のハシゴだ。
そうしてすぐに祈り始めると、普段なら声を掛ける人好きな親父も、余りの敬虔さに感心して声を掛けるのをやめた。
それ程までに深い祈りだった。
内容は謝罪なのだけれど。
茶化してイカれた能力を与える、神様への。
すんませんした。
本当に!
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