第179話 遺跡とチャラ男
この辺は緑が豊かだなぁ。
逆に言えば田舎だとも言える。
教会のある街に集中して人が住んでいる上に、教会が近い故に戦火が少ない。
つまりは近代化を免れてきた土地だという。
真っさらになったり、今の産業がたち行かなくなるなんて事がなかったのだ。
平和って事だね。
ということはある、ということだ。
今度こそ遺跡を探検しようかなって訳だ。
中では魔法が使えないっぽいので、腕輪も剣の形にしておく事にする。
こういう道具への作用は分からないが、念の為にね。
入り口は普通にタイル貼の鉄製の四角い扉だ。
僕だから普通に感じるが、この世界の人間には違和感のある入り口だろう。
この世界はそんなに鉄が使われていない。
それこそ剣や楽器、鐘やドアベルくらいなものだ。
かなり丈夫な建築物が土魔法や木の魔法で作れるし、わざわざ何千度にまで熱して柔らかくする金属なんてお呼びでないのだ。
よく観察すると、城や闘技場なんかの耐久性が必要な所さえそうで、考えれば魔力を通すことさえ出来れば丈夫にできるので、わざわざ材料から固くする必要がないのだろう。
という訳でやはり、魔法どころか魔力がなかった時代があるらしい。
ドアを潜った瞬間から魔力を感じられなくなった。
厳密には体内にはあるので、力を多少強くする事なんかは出来るかもしれない。
しかし、身体の外に一切ないので、使ったらそのまま回復する様子がない。
なんとなく寝たり食べたりして体内から生成されるものだと思っていたが、無意識的にその辺に漂っている魔力を摂取しているみたいだ。
中は真っ直ぐの道が見える限り続いているだけだった。
とりあえずちょっと強めに腕に魔力を通して石を投げてみた。
メジャーリーガーなんて目じゃないほど飛んだはずだが、石の当たる音はなく、遅れて床に落ちた音がした。
…本当にただ真っ直ぐな道なんだな…。
「不思議でしょ?
魔力が使えないってので誰も探検とかしてないんですよ。」
わっ!
…誰?
「あー、アンを撒いたのはお見事ですが、俺なんかはもっと凄いんで。」
あぁ、護衛の人ね。
「慣れたもんすね。
そうそう。
あんたになんかあったら困る人がいるんだからこんな所探検してないでとっとと行きましょうよ。」
いやいや、知らないから。
この溢れる知的好奇心に逆らえないね。
「お化けとかでるんすよー。」
お化け?
大丈夫大丈夫。
お化けは姉になるほど仲良くなったから。
「神の子やべーな。
マジで?
いやーガキにはこれを言って近寄んない様にしてんのに、やっぱちげーんすね。」
マジマジ。
子供の頃から刷り込んでおくのね。
なるほどなぁ。
なんか出て来たりしたの?
危ないものとか。
「いやー?
そんな話は聞かないですけど、単純に身体も動かしづらいし、なんかあった時魔法が使えないのはやべーでしょ。
実際俺もしんどいって、マジで。」
マジで?
魔力ないだけでそんなんなる?
…なんで護衛なんてエリートなのにそんなチャラいの。
「チャラくねーっすよ。
ウチの兄貴の方がもっとチャラいし、ねーちゃんはもう別言語っすね。
ほら、俺って成績とか良い方じゃないっすか。
やんなくても出来るみたいな。
そんでさー、旅行とかアガるし、世界半周旅行を上の金でやれちゃうなら立候補しちゃうでしょ。」
お父さんは暴走族でお母さんはレディースかな?
まぁ、いいや。
未知とかアガらねぇーの?
ビビっちゃってる感じ?
「いや、ビビってねぇし。
もっと昔に探検されてんすよ。
でもなーんもみつからないし、まだ翻訳されてない言語の看板とかは壁にあるみたいだけど、ガッチガチにつけられてる上に魔法も使えないから効率よく毟り取れないし、みんな興味無くなってんすよ。」
あ、そうなのね。
じゃあこれは道だろうね。
ただの道。
昔はどっかに繋がってたか…。
何かの移動手段とかあったんじゃない?
「あーなる。
上は人とかいるし、木とか生えてっから空でも飛ばねーと真っ直ぐ行けねーけど、地下なら無限だもんなぁ。
じゃあこれ何処に行く道なんすか?」
さぁ?
少なくともこのまま歩いて行ってもマジ無限だろうから、帰ろうか。
乗り物が動いてないなら何キロ徒歩で移動しなきゃ行けないか分からないし。
時間の無駄な気がして来た。
「えー、ちょっと気になって来たのに。
まぁ、アンタを危ない目に遭わせないのが仕事だから丁度いいけど。
あ、これっすね、看板。
鉄で出来てんすよ。
マジ意味不明じゃね?」
魔法ない中では丈夫な素材なんだよ。
…読めないな。
もしかしたら日本語とか英語とか見慣れた言語かもしれないと思ったけど、この世界は前の世界の延長なんかじゃないみたいだ。
「んじゃ帰りますか。
出ても撒かないでよー?
マジ焦るし。」
りょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます