第176話 岐路
「魔法科はどうだった?」
んー。
あ、この人はサラっていってね、理事長の娘なんだけどさ、理事長の言い方だと…。
学生の未来の安定が確保できればそんなに反対はなさそうだったかな。
そうだよね?
「はい。
元々歪なところがありますからね。
尖った生徒を丸くするのが悪いとは言いませんが、それで失うものも多かったはずですから。」
じゃあそれをカルさんと詰めてね。
あと、ベジェリン達と話したけど、やっぱり兵法は俺らの味方になってくれそうだな。
脳筋の良さが爆発してたし、アイツらほど努力を愛する人種はいないから理解してもらえるよ。
あとは…
「ラルフはなにするの?」
俺は先に旅に戻る。
結構この街に長居しちゃったし。
「いや、なら僕も行くよ。」
そうしたら俺が旅立てない。
俺は、任せるって言いたいんだ。
ピリルルに。
剣闘士の時にも頼んだろ?
調査とか裏方をさ。
でも実は納得いってなくて。
ピリルルの方が凄いのに。
だんだん腹立ってきて、それでこないだ決闘でも負けたし、無理矢理にでも表に出そうと思って。
と言う訳で、コレ。
学問の理事長への手紙。
カルさんと俺の連名だ。
「いつから…。」
割と最初から?
学術都市に行くってなってから考えていたことだけどね。
ピリルルが馴染めなさそうなら一緒に旅を続けようとも思っていたけど、合いそうな街なら別行動もありかなってさ。
俺はこれから面白くもなんともない教会の政争に巻き込まれにいく。
付き合うことないよ。
手紙を読んでいた学問の理事長が口を開いた。
「お前が神子か。
もっと幼いと思っていたがな。
あ?
それも魔法なのか。
…これに書いてある意味はわかる。
少しだけこやつと話したからな。
正直楽しかったよ。
意味はわかるな?
このワシがだ。」
もちろん。
それで?
手紙の返事は。
「受け入れよう。
ワシ付きでいいか?
そのカルロスとやらの今後の行動によるが、ワシが引き続き理事長ならそのまま受け入れ続ける。
こやつはなんだ?
人か?」
おー。
なんの材料もないのによく疑問を持ったね。
龍だよ。
「ちょっと、ラルフ。」
「おうおう。
そうか…。
羨ましいな。
知識を蓄える時が人と比べりゃ悠久だ。
神子、お前の気持ちはわかった。
ワシにも気持ちはわかるが、お前もそんなに愚かではないだろう。」
まぁねぇ。
「勝手に決めないでよ。
ラルフとの旅は楽しいって…!」
楽しいけど、ピリルルの為にはあんまりなってない。
それはピリルルだってわかっているだろ。
俺の知性はピリルルに大きく劣る。
合わせていく経験も必要だと思うんだけど、すぐその面白い爺さんは死ぬぞ。
長くても10年や20年だ。
もう、出会えるか分からないんだよ。
わかっていたさ、ピリルル。
せっかく賢く、頭の悪い会話ができる相手が見つかったんだ。
俺でも、僕でもそれは叶わなかった。
友達だけどね。
叡智の龍の名は伊達じゃない、ピリルルはとんでもなく頭がいい。
IQなんかはよくわからないけど、振り切った数字が出るのだろうね。
俺もまぁ、医者になれるくらいだから悪くは無い。
でも大した事ないんだ。
普通よ普通。
お互い尊重して仲良くやって来たけど、ピリルルの脳が全開になる事なんてなかった。
さっきのバカみたいなやり取りは出来なかった。
ピリルルから見て俺は本当に馬鹿で、ピリルルから見た世界は本当に馬鹿だからね。
ピリルルはずっと一歩引いていた。
理解してもらえないんじゃないかって思って生きて来たんだろう。
実際理解して貰えなかったことが沢山あって馬鹿のふりをするようになったのだ。
馬鹿になってようやく、僕や姉や親や、この世の全てと話す事が出来るようになったのだ。
ピリルルは人を試す。
最初に俺に襲いかかったように、仲良くなるための儀式が必要だ。
意識しているかは分からないけれど、俺はピリルルの中にあるスカスカの篩に掛かるほどのやつじゃないから、理解してあげられなかった。
その爺さんは、友達なんだね。
さすがは学問の理事長だ。
ピリルル、学長選任せていいか?
なんならその爺さんを学長にしてもいいぞ?
「…僕やこの人に共感する人はいないから、学長は無理。
ラルフや、カルさんが丁度いいよ。」
そりゃそうだ。
「こやつを置いて行って何を望む?
次の学長の座か?」
いや?
ピリルルなら学長選を確実に勝たせられると思うだけだよ。
ちょうどいいから、爺さん。
対抗してみる?
アンタもそうそうないでしょ。
対等な相手って。
ピリルルも、悪いけどちょっとの間この爺さんと遊んであげてよ。
「対抗するのも楽しそうだがな、この歳で新しい友人を紹介してくれたお前に免じてカルロスを長にしてやるし、手紙に書いてある通りワシの秘書付きでピリルルを預かる。
確かにワシは後10年も生きられんだろうからな。
今のうちに孫でも出来たと思って楽しむ。」
おう。
可愛がってやってくれ。
「勝手だよ…。
ま、いいよ。
任された。
困ったことがあったら言ってよ。
鍛えておくから、頭も身体も。」
うん。
じゃあ俺はカルさんに会ってからそのまま次に行くよ。
サンドラさんが女の人に戻った姿も見てみたいしね。
「うん。
またね。
何処にいても駆けつけるから。」
…うん。
寂しいけど仕方ないかな。
叡智の龍を穢す訳にはいからさ。
現在世界一と認められている知能を持った爺さんを超えるだろう友達を持てるなんて誇らしいね。
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