第175話 カフェ
さて、魔法の訓練に関してはなかなか有意義だった。
ピリルルを迎えに行って、手応えを話し合おうじゃないか。
魔法を使用すると大きな音が出る為、連携が必要な兵法以外とは遠く離れている。
広い場所も必要だし、近くで爆発なんか起きてる中で勉強とか不可能だもの。
入り口付近に兵法と魔法、その奥に寮やリラクゼーションスペースや食堂、職員室があり、その更に奥に学問と教養の校舎があるらしい。
てっきりピリルルの方が整然としているし、僕は学生に混じってかなりの間訓練に参加していたので、ピリルルが迎えに来てくれると思っていたが、こちらの方が早く用事が終わったようだ。
またサラさんに案内をして貰うのは気が引けるが、奥はより貴族が多いので部外者がふらふら彷徨う訳にはいかない。
サラさんは魔法の理事長の娘だからか、目立つようでいくらか話しかけられた。
ただの挨拶が殆どだったが、多少僕を知っている人が居るようで驚かれもした。
「ごめんなさいね。
悪気はないと思うのだけど。」
いや、当然だよ。
気になっちゃうよね。
学校っていう閉じたコミュニティの中に野良犬が入って来たって大騒ぎなんだから、有名な野良が入って来たら気になるよ。
「どうします?
寮の近くのカフェスペースで待ちますか?
学問舎まで行きますか?」
あんまり詰めかけるのも悪いからね。
カフェスペースがあるならそっちで待っていようかな。
通路に面した席に座ればピリルルか僕かどっちか気がつくでしょう。
人気の先生には申し訳ないけど、もう少し僕と時間を潰してもらっていいかな。
あ、大人の姿になっておこう。
神子の姿だと政治的にどうのって話だったし、サラさんと一緒にカフェテラスでしっぽりなんて見られたらよくないよね。
この姿イコール神子になってる人はそんなに多くないらしいし。
剣闘士マニアくらいだ。
上機嫌なサラとカフェに入ると人だかりが出来ていた。
学生が集まるのだから騒ぎなんて日常茶飯事だろうし、今なら席も取りやすそうだ。
サラはコーヒーでいい?
俺は何にしようかなぁ!
おすすめなんてある?
「ブラックが良いって言ってんだろうが!」
いや、そんな強く言わなくても…。
「馬鹿じゃないの?
胃の粘膜に負担をかけるんだからミルクを入れるに決まってる居るじゃないか。」
いや、そんな事で争わなくても…。
どっちが正しいとか無いじゃん。
…っていうかオレ過激派はピリルルだよな。
何やってんのさ。
「馬鹿はお前だ。
シンプルを楽しむのも人生だ。
お子様には苦いか?
ははは。」
煽んな煽んな。
大人気ない爺さんだ。
「調理の否定は歴史の否定だ。
お爺さんに新しい物は受け入れられないかも知れないけどさ。
進歩について来られないなんて可哀想に。
そうやって子供や孫から煙たがられて行くんだね。」
うぉい!
ピリルルらしくない…。
棘しかないじゃ無いか。
「ワシは目覚ましに頼むからブラックが良いっていっとんじゃ!
子供はまだしも孫には煙たがられておらん!」
「親に嫌われてその子供に好かれる訳ないじゃない。
あれでしょ?
お小遣いあげて相手してもらっているんでしょ?
売春だよそれ。
実の孫相手にそうしないと相手してもらえないんでしょ?」
…なんか二人とも楽しそうだな。
あれはそういう遊びくさいな。
「あぁ…。
学問の理事長が何をやって居られるのか。」
あー。
あれが理事長か。
大丈夫だよ。
あれは戯れてるだけ。
俺らは離れた席でゆっくりコーヒーを飲もうよ。
「はい、そうですね。」
さ、注文をしようか。
…んー、サラさんは何にする?
俺は………。
すっごい視線を感じる。
あ、なるほどね。
アイツら仲間を探しているのか、有利条件を足したいのかこっちの注文を利用するつもりだ。
ブラックorその他かな?
サラも実に注文しにくそうだ。
でも俺は前世から決まった物しか頼まないんだよ。
確かに社畜にはブラックは辛い。
3杯目くらいから胸焼けがするし、後で胃も痛めやすい。
だが、ラテやオレはミルクが重い。
舌に残るしね。
という訳で、店員さん…えーと、そっか。
同じ商品名なわけないか。
店員さん、ブラックコーヒーにアイスを乗せてよ。
それを…二つで。
「これは…ブラックか?」
いーや?フロートだって。
「ミルクは入ってないね。」
そうだよ。
コーヒーにバニラアイスを乗せたものだ。
「…どっちだ?
いや、ブラック寄りだな。
なぁ!そこの君!」
「ベースそのままで飲まないならオレ寄りでしょ?
アイスもミルクを使っているしね!
そうだよね!ラルフ!」
これはな、男女の欲しいものをいいとこ取りしたデザートだ。
サラ、ゆっくり会話を楽しもうじゃないか。
アイスをゆっくり溶かしながらさ。
あんな男2人で幼稚な煽りあいなんてしないで、男女でさ。
「ハイ!」
じゃあねお二人さん、ごゆっくり。
俺らが飲み終わるまでさ。
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