第173話 学生たちと
「よろしければ一手指南いただけないでしょうか。
あの時は噂で逆上するという愚かなことをしました。
いや、アンヌ嬢を好んでいたのもありますが、間違った正義感も持っていました。
実に不甲斐ない。
なのでもう一度、今度は魔法ありの貴方の本気と戦ってみたいのです。
お願い出来ますか。」
いいよ。
ベジェリン。
それにあれは妖怪が操ってた面もあるから、仕方ないよ。
俺も君も、アンヌもみーんな踊らされたんだから。
このままでいいか?
前の時と同じく子供の姿の方がいいか?
「強い方でお願いします。」
おぉ。
敬意を持って、舐めない。
全力でやるからな。
…あれから2年は経ってないくらいか。
姿はそんなに変わらない。
だけど、見たら分かるほど鋭い魔力。
ベジェリンの変化だけで、彼の心意気とこの学校の優秀さが分かる。
いいよ。
先手はあげるよ。
ベジェリンは火の玉を飛ばしてくるが、分かる。
これはフェイクだ。
全然魔力がこもってないもの。
俺は左手で玉を握りつぶして、それを追って詰めて来たベジェリンの剣を見ると、どうやらそれもフェイクのようだ。
ははは。
引っかかる訳ねーだろ。
込めてる魔力がポワポワしてるじゃねぇか。
避けるまでもないというか、多分別の本命のために何でも受けられる形にしておかないと。
少しでもベジェリンの本命の攻撃を弱める為に剣の腹でペチンと叩くと、ベジェリンの剣はすっ飛んでいき、ベジェリンは地面に手をついていた。
…あら?
「やはりお強い…。」
…最近勇者とか龍とか、剣闘士の頂点の人達としか戦ってなかったから知らなかった。
同年代とは隔絶していたのか。
いつのまにか。
いつのまにか周りに人も集まっていて、彼らも無言で見ていた。
なんだ?
全員興味深々かい?
ベジェリン、紹介してくれよ。
みんな同年代なんだろ?
俺は同年代とあんまり戦った事がないんだ。
意外と皆ノリが良く、次から次へと千切っては投げていると、なんだか自分の学生時代を思い出す。
こんなに明るいノリではなかったし、わちゃわちゃしたお祭り騒ぎを避けている方だったが、そんなのを遠目で見ているのが好きだった。
別に混ざりたくないとか、そう言う訳ではなかったが、それが丁度良かった。
15人を3周くらいすると、元気もなくなって来たので、ちょうど良いかと思って剣を消した。
俺が辞めないと皆辞められないだろうしね。
「あ、ちょっと待って。
私とも一戦お願いします。」
お、サラもやるか?
いいよー。
聞けばサラは案内の人や、理事長の秘書なんかじゃなくて、教師の一人らしい。
もちろん15、6歳の学生よりは格段に強いだろう。
対峙すると木剣を持って先をゆらゆらさせている。
あ、俺モデルのやつだ。
柄に花の意匠がついたやつ。
そうだよね。
本社はこの街にあるんだから。
実際送られて来た時はもう少し王国に近い街からだったけども。
サラは一定の距離を取りながら俺に向けて何かの魔法を発動させている。
小さな魔法でなにかははっきりわからないが、せっかくだ。
貰うつもりで突っ込んでみようかな。
しかし、こっちが距離を詰めるとステップで下がり縮まない。
なるほどなるほど。
剣闘士のようなタイプの戦い方じゃないのね。
でもなんかタイマン慣れしてる感じもあるんだよなぁ。
あぁ、スポーツ感があるのかな?
もう一度詰めようと大きく踏み込むと足元が滑った。
なんだ?
ぬかるんでいるとか、凍っているとかでもないのに、踏ん張りが効かない。
風か?
エアホッケーのパックのように足を無理矢理浮かせているのか。
面白い使い方だが、感心している場合じゃないね。
ギャンギャンに研ぎ澄まされた剣の魔力が分かる。
これか、木剣のロマンって。
使いこなす前に龍の素材になっちゃったからなぁ。
踏ん張りが効かない中でアレを剣で受け止めたら流石に体勢を保てない。
転んだらツルンツルンのまま壁に激突だね。
明確な勝敗は決めてないけど、負けと言っていい無様な姿を晒すだろう。
ファンで居てくれるんだから良いとこ見せないとな。
せっかく浮かせてくれているならそれを利用しよう。
前にも作った土魔法によるネオジム磁石。
消したり移動したりも自由自在なんだから、真似られる。
リニアモーターって奴だね。
猛烈なスピードで、既に攻撃体勢を整えているサラの後ろに回り込み、発生した電力を剣に纏わせた。
これを飛ばして無事かどうかはわからないからやらないが、カッコいいな。
静止状態からの急加速だったので、サラも見失っているようだし、わざわざ放つ事もない。
後ろから脚を掛け、抱き留めて俺の勝ちだ。
しかし、あの浮かせる魔法は考察の余地がある良い魔法だね。
今度教えてよ。
「…!」
あ、しまった。
失神系ファンだった。
忘れてた。
また運ぶの?
…置いたら子供の姿に戻っておこう。
あっちの方がサラには刺さらないようだし。
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