第172話 君の名は…

選挙の話はまた後日と言う事で、魔法学科の見学をお願いした。


理事長は先程連れて行ってくれようとしたらしいのだけど、口からどうしても言葉が出てこずに一人で出て行って、戻りため息をついてしまったとの事だった。


一度出て行った時だ。

あの時演習場に着いて振り返った時に、誰も着いて来ていない事で泣き出しそうになったらしい。

ドア前にいたサラさんもなぜ一人で何処かへ行くのか不思議だったらしいけど、意味不明過ぎて何も言えなかったらしい。


すぐ戻って来たし、それもよくわからなかったと。


ちょくちょく出ていたあの悲しきため息は、あまりに言葉に出来ない自分の不甲斐なさに対してで、こちらに思うところがあった訳ではないらしい。


そんな難儀なおじいちゃんは、案内出来ないと言う事なのでサラさんが案内してくれるらしい。

理事長と僕、と言うより学長選に関わる人物とこの時期に連れ立つのは公平性に欠けると考えているらしかった。


さっき連れて行ったくれようとした時は、まだ単なる見学者だったからね。


意思の疎通が難しくなっていた人その2なサラさんは僕が子供の姿に戻ると、ゆっくりと正気を取り戻したので案内が出来るようになった。


いや正気ではなかった。


理事長が、大人の姿のラルフが子供を作るとそんな感じの姿になるのかな。

と素朴な疑問を口にしたところ、何がどうなったか、母性が炸裂したらしい。

なんで無口のままでいてくれなかったのか、あのじいさんは。


「ママって呼んでいいのよ。」


おぉ…?

何らかの脳内設定を感じるな。


なるほど、リリーディアタイプの変態か。


振り返るとシャルル爺さんはアンヌの教育を完璧にやり遂げたんだな。

今更だが、大感謝だ。


ノーマル婚約者最高。

爺さんも苦労したんだろうなぁ。


「ラルフ様、先ほどの大人の姿とこちらの姿、どちらが本当の貴方なんですか?」


…素朴な疑問なんだろうが、中々確信を突いた質問だ。


本来はあっちが素の姿で、こっちが年齢に引っ張られるのが正しい。


でも基本の姿はこっちなんだから、どう答えたものか難しいな。


自分でもわからん。


俺は大人の姿になると、耳元で


贅沢な女だ。


と言った。


あ、ここヤバ女対策の問題集に出た所だ!

ってくらいもうリナリーンやリリーディアや我が姉で慣れてしまっている。


この世界に来て一番成長したと実感できるのが、メンヘラ対策なのが悲しい所だ。


いや、危害を加えられないだけで対策出来ているとは微塵も思っていないのだが、この世界で見た教材になりそうな物が現リナリーンの城にあったキラキラ女性用小説しか無かったのだ。


この世界の普通の男女関係が分からない。


知り合う女の人が好感度150%スタートな事が多すぎる。

作為を感じるくらいだ。


神様なんかやった?


…今度聞こう。


サラには上手く行ったかって?

まだ分からない。


今は電源が切れて足元に座り込んでるから、これがオンにならないと。

経験上一度大人しくさせた時点で勝ちだが、こればかりは分からない。


前世にもっと宝塚とか見ておけばよかった。

いや、見なくてよかったのかもしれない。


「貴様!サラ女史になにをした!」


あぁ、これも懐かしい流れだ。

アンヌの時にもあったな…。

ん?

まだ君か。

あの、えっと、ちょっと名前はすぐに出て来ないけど…アンヌの時に決闘した人!


あーっと、その人!


こっちに居たんだね。

確かに優秀な人物だと言う話だったから、留学でもしていたのかな?

剣は大した事なかったけど、本業は魔法使いなのか?


こんにちは。


「こんにちはではない!

サラ女史に何をしたと…!

は!

ラルフ様!

ラルフ様ではありませんか!


ならば仕方ありませんな。

サラ女史は貴方の大ファンなのです。


…あぁ、そんな顔ですな。

失敬。

また勘違いをする所でした。

このベジェリン、ラルフ様に成長した所を見せると誓い留学したのに、お恥ずかしい。」


あ、あー!

ベジェリンだ!

そうそう!

元気だった?


いや、纏う魔力は洗練されて来てるよ、頑張ったんだね。


「おぉ!

褒めていただけるなんて感激です。


どうしてラルフ様はこちらに?」


魔法学科の見学をさせてもらいにね。

あとはカルロスさんの学長選の話を理事長としに来たんだ。


「おお!

そうだ。

門番のカルさんがロブ家のカルロス様だったとは驚きましたな。」


戦った時は面倒な奴と思ってたけど、真面目で視野が狭いだけなんだなこの人。


「ならば演習場までは私が案内しましょう。

サラ女史をお願いしてもよろしいですかな?

客人に言う事ではないのですが、ここで私が抱き上げてしまったら、後で殺されかねませんからな。

がはは。」


がはは、じゃないよ。


ま、いいさ。

せっかく大人の姿なんだ。


エスコートするさ。


俺はサラをお姫様のように抱えて、ベジェリンの後を歩き始めた。


腕の中から、死ぬ。

と聞こえたが、これは大丈夫なタイプの死ぬ宣言だ。

無視しよう。

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