第163話 朝の気配じゃない
無茶な戦い方をすると、終わったあとに痛みが来るね。
きちんと治したけどすっごい疲れた。
いつかやりたかった闘いだったし、かなり有意義だし、友情の確認も出来た気がする。
お互い容赦無かったけど、信頼してるからだ。
アンも2人ともを褒めてくれたし、感想戦も外からの目線を話してくれて、確かに力で勝る相手に真正面から行きすぎたし、相手を知りすぎているのが良かった面も悪かった面もあったと思う。
切り札と決めつけていたリリーディアの模倣は、それを決め手にしようとしすぎて、決まらなかった場合絶対勝ち目がなくなってしまっていたし、それは僕の悪いところでもある。
今まで全ての戦いがそうだった。
切り札から逆算して、それが決まれば勝ち、外れれば負け、そういうものばかりだった。
ペリン戦とシャルル戦だけが例外かな。
ペリンは想像より大分強く、手がなかったから粘ってなんとかならないかと動いたし、シャルル戦は人生2戦目で急に始まったものなので、戦略も何もなかった。
そういう僕のいい所、悪い所をピリルルとアンと戦闘後に検討していたのだ。
僕とピリルルは頭も身体も、まぁボロボロで宿に帰ってすぐ寝ちゃって、起きたのは夕方だった。
激戦だったから仕方ないと思う。
夕方に戦って、夜まで検討していたんだから、ボロボロなのに寝たのは多分夜の1時頃になっていたと思う。
何が言いたいかって?
いや、僕の口からはとてもとても…。
「…講演、寝過ごした?」
いけないよ、ピリルル。
口に出したら…現実を見つめなきゃいけなくなるじゃない。
「大丈夫なの?
まぁ、別に恩もなければ縁もないし、バックれたって良いんだろうけど、不誠実じゃない?」
はい…。
とりあえずご飯を食べよう。
そっと誰にも気づかれないように買ってくるよ。
部屋から出るとアンが待っていた。
そう言えば後をつけて来ている護衛なんだっけ。
「ラルフくん、講演バックれたでしょ。
私が言い訳しておいたから、安心して。」
マジで?
うわ…昨日は拳闘バカだと思ってごめんね、
流石に護衛なんてエリート職に選ばれるだけのことはあるよ!
それで…なんて言い訳したの?
「…この国の貴族の子息が失踪している件について情報を得たから事件を追うって…。」
えぇ…。
知らないよそんな事…。
そもそもいつの事件さそれ。
「10年くらい前かな…?
当時まだ15歳ほどだったカルロス少年が行方不明になった事件があってね。
それの調査を…って。
今更何も見つからないだろうから、嘘に丁度いいと思って…。」
…マジで?
今25歳くらいのカルロスって名前の貴族で、出自を隠している人…?
知ってるわその人。
って言うかこの国のどっかの街の領主の息子だったのか、カルさん。
まだ地理とか全然知らない頃に鑑定で知ってただけだから王国の領主の息子だと思ってたよ。
…そういえば一番初めの僕がまだ悪魔憑きだと思われた時にカルロスって名乗ってくれた以外で、カルさんがカルロスって呼ばれているのを聞いたことがないや。
もしかしたら咄嗟に出ただけで、普段は本当の名前を隠していたのかもしれない。
出自については、カルさん本人からは一言も聞いていなかったし、神様に鑑定を貰った時に勝手に覗いて知っていた情報だ。
「本当に知っているなんて…。
彼は今何をしているんですか?」
んー?
別の国で騎士になってるよ。
結局スロウディって言う貴族の娘さんと結婚させられそうって話どうなったんだろう。
最後に会った時はサンドラさんの髭をむしって身代わりにしようとした所までだったからな。
「スロウディ!?
スロウディ家ってこの国の貴族よ。」
あぁ、だからあんなに嫌がってたのね。
最近スロウディ家の娘さんに結婚した人が居ないかな。
いたらその人かもしれないし、その人じゃないかもしれない。
いや、説明が難しいんだけど、どっちかギリギリ分からないんだよ。
「なんで?
婚姻の話が出てたんでしょ?」
そう、それで逃げ回ってて、身代わりを立てようかって所までしかしらないんだよ。
だからもし成功してたらサンドラさんって言う人が居ると思う。
あ、女の人の名前だけど男だよ。
んで、失敗してたらカルさんが居ると思う。
もしかしたら両方逃げ切っていないかもしれないけどね。
「はぁ…、なら訪ねてみましょうか。
ほら、行きますよ、ラルフくん。」
僕も?
なんで?
あぁあ!
身体がまだ痛いな!
休息を必要としている!
「行かないと、ただバックれただけになりますよ。
はいはい、わがまま言わないで。」
ぁあ、仕方ない…。
でもカルさんいるかも知れないしね、行こうか。
ピリルルは?
あれ?
あ、窓の鍵が開いてる。
「小さい声で図書館に行くって言ってましたよ。
隠密の修行してなかったら聞き取れませんでしたね。」
…良かったね。
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