第162話 ピリルル

リーチの優位が出来た。

単純に身長が伸びたからね。


外目に立ち位置を決めてチマチマ当てていこう。


「僕はキミの戦いをたくさん見ているから、学んだよ。

そういう身体じゃなくて精神に効かせようとする攻撃には付き合わない。


もっと単純に、腕力で対抗することにする。

チマチマやっていたらいいよ。

一発もらったら終わりってプレッシャーの中、いつまで完璧に避けられるのかな?」


チマチマ当ててるのは事実で、イラついて大振りをするのを誘っているのはバレバレ。

ピリルルは大振りはせず、速くなくても重い攻撃を振ってくる。


体勢も崩れず、基本に忠実に振ってくるだけ。


ペリンの時にも感じたが、俺はそれがかなり苦手みたいだ。


しっかり受けられ、返される。


ただそれだけなのに、練度の差がじわじわと追い詰めてくる。


立ち位置を、ステップを、攻撃の角度を。

様々なものを工夫してやっと素人目には互角だが、実際はかなりヒヤヒヤしている。


一度こっちの振りが大きくなった時に、肘で拳を受けたが、簡単に折られた。

すぐに治したから継続出来ているものの、ガードごとしっかりダメージが来るので、いつか限界が訪れる。

体力か、工夫か、そのどちらかが尽きた時が俺の負けだ。


ピリルルは怪我一つない。


当然だ。

聖魔法を叩き込み続けてるからな。


おやおや、ピーちゃん。

ずいぶん幼く見えるぜ?


「その死魔法と聖魔法の年齢上げ下げするやつ反則だよ。

でも忘れてるね。

龍は生まれつき強いんだ。」


知ってるよ。


今は9歳くらいの見た目か?

念の為もう少し下げたい。


ピリルルはピリルルでなにか企んでるな。

そう思っていると足元の石畳を踏み砕いた。


「直接触ると良くないのは分かったから、もうしない。

キミが泥臭く戦う時は何かの準備をしている時だ。

僕は徹底して付き合わない。」


叡智の龍とは思えない原始的な戦法だ。


投石。


しかし、普通の投石なわけがない。

ボールで木を貫通する龍の投石だ。


つま先で跳ね上げた石をポンポン投げてくる。


石が形によって変に曲がってくるので、避けにくい。

身体部分に当たらないように必死で避けるが、予知したように回避先に投げてくる。

それを避けながら近づくのはかなり難しいので、弾切れを待つしかない。


離れることも近づくことも出来ないままチャンスを待つ。

右腕に石が刺さっているがノーダメージという事にしておこう。


ふ、と石を目で追った瞬間ピリルルを見失った。

一瞬だったんだけどな、タイミングを測っていたんだろう。


勘で守れ!

俺がピリルルならどうする?

傷んでる右側を狙う。

一撃で決めようとはしない。


頭は捨てて広く守れ。


がっ…。

大正解、だが全然ダメージはあるし、吹っ飛ぶ。

やっと距離も取れた。

痛くても一度でいい。

石をぶん投げろ。


知らないだろ?ピリルル。

スライダーなんて球種。

見るよな、見てくれよ。

初めて見る球種なんだから。


こっちを見た時驚いてくれ、硬直してくれよ。

俺は右手を捨てるんだから。


右手をプラズマ化する。

リリーディアが使っていた技を模倣したものだ。

当然人の身体でやるとチリになるけど、腕だけなら死なない。

一発だけ使える。


ピリルルにとってトラウマになっているだろう、リリーディアの技だ。

ピリルルを幼くしたのにはそれもある。


身体に精神は引っ張られる。

それは俺が自分で体感してる。


小さい頃はもっと怖かったろう、理不尽な姉の暴力を模したものだ。

固まれ、避けるな、当たれば勝ちだ!


こっちを振り向いたピリルルは少しも驚いた様子はなく、すっと避けて俺はカウンターを思いっきり喰らった。


なんでだ?

ビビるだろ、姉の技だぞ?


「…龍の手合わせは12歳から始まるんだ。

幼い頃はやらない。

キミが僕をこんなに幼くしなければ、多分固まっていたと思う。


でも、僕の勝ちだね。」


うん。

もう立てない。

魔法も解けて子供に戻ってしまったし、右腕がないし、どっか折れてる。


はぁ…そうか。

ピリルルの修行は12歳からだったのか。

ちゃんとそれまで我慢したんだね、リリーディア。


「そうなんだよ。

12歳の誕生日に首だけにされたけどね。」


そっか…じゃあ僕の敗因は…。


「うん。

ねーちゃんの良識だね。」


紙一重じゃないか。

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