第161話 戯れあい

「おかえり、なんか暗い顔してるね。

なんかあったの?」


僕は今日あった村でのことを、あまり感情を交えずに話した。


「うーん。

僕は龍だからね。

あんまり…なんていうか、淘汰に抗うっていう発想がないんだ。


仕方ないと思っちゃう。

強い種族だからかもしれないけど、ほら、龍は死ぬ前に暴れるでしょ?

みんな結局戦って死ぬんだよ。


だから、負けて生きながらえてる龍はとても少ないんだ。

エアリスさんなんてレアケースもレアケース。

そんなことした龍は過去に1人もいないと思う。


だから、僕はラルフがした事は十分優しいと思う。


人としてどうかはわからないけどね。

人じゃないから。」


たしかに。

ピリルルとずっといるから、ピリルルが龍だって忘れることが多いよ。


「ピリルル君って本当に龍なの!?」


…忘れてた。

アン、まだいたんだ。


「まだ居ますよ!

お礼を貰っていませんからね!


なんでも叶えてくれるって言ってたから!」


言ってないし、無理だよ。

そんな力無いもの。


なんかして欲しいことあったの?


「手合わせを…!

し足りないのよ!

お願いお願い!」


構わないんだけど、明日にしようね。

ほら明日はピリルルが講演をするから、休ませてあげないと。


「講演はキミでしょ。

この子そんなに強いの?

僕がやろうか?


武術のみなら多分ラルフより強いし。」



は?

いくらなんでもピリルルには負けないよ。


本ばっかり読んでるインドアドラゴンには流石に負けないって。


「は?

キミの強さは機転と魔法の多彩さと剣だろう?

それはもちろん認めるけど、武術なんてへっぽこじゃないか。

龍は武器を使わないで戦うんだから、ラルフより全然強いよ。」


人型で爪もない龍の攻撃なんて全然怖くないけど?

姉に凹まされまくってる哀れな弟なのに、武器もなく強いわけないじゃない。


「…外へ行こう。

そもそも外の方が本当は好きなんだよ。

外に出たらいらない騒動起こしてくるヤツがいるからあんまり出てないだけで。」


表でやがれってんだ!

巻き込まれたくて巻き込まれてる訳じゃないんだからな!


「あ、学校の演習場借りてますよー!

室内の方!

そこでやりましょ!


見たい!」


…準備がいいね。


2人とも無言で演習場まで歩く。

別に怒っているわけではない。

いや、少しだけイラッとしたけど、本当だ。


僕とピリルルは戦ったことがない。


軽い組み手すらない。

一度野球をやった事はある。

やり方を教えてボールを投げてもらったのだ。

木のバッドにボールが貫通したのでそれからやっていないが、要は身体能力が凄い。


あんなポワポワパーマでメガネをかけているのに、凄いのだ。


ちょっと楽しみだな。

それとは別に勝ちたい。

友達だから余計にそう思う。

なので戦略を練っているのだ。


ステゴロとはいえなんか工夫は出来るはずだ。


「ナシナシで行きます?」


それでいいよ。


「何?ナシナシって。

あぁ、魔法なし、武器なしね。

体内に作用する系の魔法は?

アリね。


おっけー。」


ピリルルがプラプラ構えている。

龍はみんなゆるく立つなぁ。


「はじめー!」


さてさて、僕は戦い方がばれているから行くしかない。

待っても読まれてりゃカウンターなんて決まらないんだから。


あんまり人の身体に慣れてないことを祈って組み技を狙ってみようかな?

ほいじゃ殴りに行くふりをして腰にタックルを…


危な!

下がった顔に蹴りが飛んできた!

このタイミングは読んでたな?


かろうじて腕で受けたけど、かなりやばいタイミングだった。


「キミと戦う想像はたくさんしていたよ。

もちろん恨みとかは全く無いけど、楽しそうだからね。」


それは「俺」も同じだ。

いやぁ、友達に嫌がらせするのは心が痛むよ。

でもまぁ楽しんで行ってくれよ。

レストランだと思ってくれていいよ。

兄弟揃ってご馳走するよ。


敗北の味を。

なんつって。

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