第160話 嫌な話

村の子供達は風邪の大流行りの様なものだった。

環境が劣悪で免疫が落ちていたのだろう。


「助かった。

ありがとうございます。」


いや、全然構わないんだけど…なんでこんなに環境が悪いんだ?

大きな街が隣にあるならそこそこ働き口があるだろうに。


「俺らが被差別民だからさ。

元々あの街に住んでたやつらの殆どは、知力で足切りされて追い出された。


最高学府を作る方針に切り替わった瞬間にな。

綺麗な街だったろう?

俺らみたいなのが安価で働いているんだ。

街の清掃なんかをしてな。」


国が棲み分けさせたのか。

学力で。


「強い奴は闘技場へ、賢い奴は学校へ。

普通の奴らはここらで死ぬしかないのさ。」


この子らにはどっちを学ばせているの?

体格とか素質によって教育を変えているの?


「あ、いや。

どちらも教える人材がいねぇ。

金がねぇから呼べないんだ。」


被差別民って言うけれど、学力で足切りされただけで、明確な指標があったんだよね。

あの学校は出来てから200年以上経っているらしいけど、その間1人も村のために戻ってこようとはしなかったの?


「居る。

そいつらは教育を村に浸透させようとしたが上手くいった試しがない。

何人もいたが、ここだけじゃねぇがこの辺の村は受け入れはしなかった。


俺は…俺は中立だと思うが、学校にいい印象を持っていないやつが多い。

上の世代からの教えで受け入れない奴らが多い。」


なるほど。

ここらの村の人たちは被差別民じゃないんだ。

そう思っているだけで。


「なんだと?

俺らは現にろくな仕事はないし、食うにも困っている。」


それはそうだろうね。

アンタらは被差別民じゃなくて敗戦民なんだから。

分かりにくいのかも知れないけど、学校を設立した奴らとの戦争に負けたままなのさ。


「戦ってねぇぞ、俺らは。」


勝負にならなかったんだよ。

経済戦争の相手としてね。

切り捨てられただけだ。

気づかないから、こんな有様。

正直可哀想だとは思わないね。


学校の概要は見てきたけど、幼いうちはそんなに厳しい条件はない。

読み書きが出来なかったって受け入れる準備は出来ている。


そこから先は努力が必要だけど、必死にとか、命懸けでやらなきゃいけないほどじゃない。


普通にやれば普通に到達できる程度に合わせてある。


アンタらが否定しているだけだ。


どう言う話を聞いて僕を頼ったのか知らないけど、確かに子供は助けているかも知れない。

でも、助けた後にするのは教育だよ。


アンタらが嫌ってる学校と同じ、強くなるか賢くなるか、そのどちらかの支援だ。

子供達の未来について手を差し伸べているだけだ。


「病気を治してくれた事は感謝する。

だがその説教はここでは受け入れられる事はねぇ。」


そうだと思うよ。

でも学ばないと言うことがどういうことか、分かりやすく説明しておくから、それをどう受け止めるかは、貴方に任せるから。


まず、薬の失敗。

殺してはならない相手を薬のミスで殺したね。


次、相手を知らなすぎた。

もし本当にピリルルが死んだ場合、僕は報復すると思う。

多分本気を出せば、ピリルルの関係者だけで2分でこの辺の村は更地になっていると思うよ。



「そんなこと、やってみないと…。」


やらなくてもわかる様にするのも知識なんだ。

残念だけど、分かるんだよ。


予測がつかない、立てられない、立てられる人が居ないし、その人が育つのも妨げる。

この様子だともう滅びてる村もあるね。


貴方達が、そうした。


僕の知識と、あの街や他の街で知った事実は、あなた方は被差別民ではない。


子供達だけでも教育の場に送るんだね。

遅かれ早かれここは終わるんだから。


「な…。くそ!」


怒りが頂点に達した男が拳を振り上げる。

今更素人のテレフォンパンチなんで当たらない。

僕はその腕を切り落とした。


叫び声が村へ轟く。


しかし、誰も助けには来ない。

いや、1人来たな。


「父ちゃん!」


あぁ…。

嫌な役回りだ。


こんなこと言いたくないし、したくなかった。

でもこの村は、終わっている。


建築も、農業も、何もかもめちゃくちゃなのだ。


誰かを立たせないと、本当に終わる。


「父ちゃんを、許して。

腕がないと死んじゃう。」


はぁ…。


僕は隊長とやらの腕を繋げた。


こんなの、誰でもできる様になるよ。


「無理だよ。

偉い人しか無理なんだ。」


偉い人も最初から偉いわけじゃないし、強い人も最初から強いわけじゃないよ。


「そうなの?」


うん。


隊長ってことは旧兵の子孫かなんかか?


「…そうだ。」


子供たちを連れて学校へ行って頭を下げろ。

終わるぞ、本当に。


「…。」


庇ってくれた、その子もだ。


「…あぁ。」


コレをやる、竜の鱗だ。

僕は大体の金額を知っている。

だけど言わない。

アンタ方が知恵を絞って高く売れ。


その金で子供達を教育機関にいれろ。

それ以外道はないと思う。


木は枯れている。

新しく種を植えるしかないんだ。


「…これを飯やなんかに替えれば生き延びられる。」


そう選んだならそれでいい。

でも、いつか腕を切られるのじゃ済まない日もくる。

この子らもその内また病気で苦しむ。

その時偶然僕や助けてくれる人が近くにいるなんて事は、殆どない。


アンタを庇うこの子に賭けろ。


「俺がやる。

それで、偉くなって、あんたに文句が言えるようになる。」


うん。

待っているよ。

名前は?


「ザジ。」


そうか。

頑張れ、ザジ。

僕はもう行くから。


嫌な気分だ。

村々を助けて回った方が余程気分はいい。


でもそれはあまり意味がない。

怒らせてでも次代に繋げないと、終わった村は終わったままだ。


正解はわからない。

今はいつかザジに裁かれることを願おう。

もっと期待を込めて、この行動がザジに理解されるといいな。


その夜、学校、教会に向けて、ザジと言う少年が来たら学ばせてあげて欲しいと手紙を書いた。

もし友人を連れてきたら全員。

金銭の請求は、僕に。


意味はないかも知れない。

それでも、見に覚えのない請求書を楽しみにする他ない。

未来はだれにもわからない。

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