第159話 根っこが生えるよ

強かった。

強かったが、今更普通に強い程度の女の人には負けないよ。

体捌きとなんちゃって合気投げだけで完封出来るんだもの。


そして、この人はキチンと習って修めた武術だから読みやすい。

リリーディアなんかの本能剥き出し超高速タックルとかの方がしんどいんだもの。


やっぱり僕は死ぬ思いを何度もして戦ってるから、強くなっているんだなぁと思った。

実際死んじゃってるんだけども。


「ピリルルさん、とんでもなく強いんですね!

私何が悪かったと思います?」


何度も投げられた筈だが、全然めげないで質問をしてくるのは凄く好きなんだね、武術が。


何が悪いって訳じゃ無いけど、隙を見せて誘ったらそこに攻撃が飛んでくるし、おそらく決まった手の繋げ方があって、それが癖になってるから読みやすい。


自分で鍛錬した結果だと思うから恥じる事はないけど、相手がいる事を想定していない動きに感じたよ。


「あー…。

そうかも知れませんね。

お父さんが道場やってて…それで私も小さな頃から教わっていたんですけど、やっぱり大人の男性は小さい女の子と本気ではやってくれないし、相手をやっつけてやろうと思っていないので…。」


それは仕方ないよ。

武術ならうような奴らが、問題無用で女の子をボコボコに殴ってしまったら、逆に何教えてなのってなるよ。


「なので私は同じくらいの力の相手との鍛錬不足ですね。

弱い相手にはこれで決まっちゃうし、道場の格上には甘々の手加減をされて来たので…。」


そうだね。

アンは可愛らしいから、余計に男は本気でやってくれないと思うしね。


「かわっ…?

…もう一回お願いします!

もう一回やりましょうよ!」


幾らでも相手してあげたいところなんだけど、時間切れだね。

盗賊の方が起きたよ。


「ちっ、少し前から起きてるよ。

なんだ、そっちの女が護衛なんてのは察してたが、メガネの兄ちゃんの方が強いとは思わなかったぜ。」


そ?

ありがと。

なんで僕を狙ったの?


「あ?

あぁ…。

村でガキがいっぺんに倒れてな。


神子様に診て貰いたかったんだが、俺らは被差別民だからよ。

街に近づけねぇ。


あんたを拐って人質に子供を治してもらおうと思ってな。

その後は、まぁ、俺らは殺されるだろうがそれはそれだ。

ガキ共が助かるならいいかと思ってよ。」


いやいや、弓矢の毒が説明と合わない。

死ぬほど強い毒を射る必要なんてないよ。


「は?

使ったのは強い痺れ薬だ。

動けなくなるし、意識も失うが死にはしない奴だ。

間違いねぇ。

俺が作って直前にアイツに渡したんだから。

矢傷も俺らの中には治せる奴も居るし連れて来ている、殺すつもりは少しも無かったぜ。」


…実際死んだしな。

どの薬?

これ?


診察の魔法を当ててみると、確かにすぐに死ぬ様な感じはしないが、大人ならの話だ。


子供の許容量で大人の分量を打たれると、おそらく死ぬ。

薬はどれも合う合わないがあるので確実とは言えないがそうなる。


僕は体質的に合わない薬を多量に打ち込まれたから死んだんだね。


…この世界に来てから、命を奪おうとする奴には容赦しなくていいのかもなって思ってたけど、これは難しいところだなぁ。


「そんな強い薬なのか?

教わってずっと使って来たんだが…。


…いや、アンタがそう言うなら信じる。

狩の時には使ってたが人相手に多用されてはいなかったからな。

そして、相手の命を奪おうとする奴は同じ目にあっても当然だと思う。

それは俺も同じだ。


仕方ないとは言わないが受け入れる。


けど、子供達を助けて欲しいのは本当だ。

村まで案内したら自分で兵の詰め所にいってもいい。


神子様に話を通しちゃくれないか。」


あ、そっちは心配しなくていいよ。


僕は無魔法を解除してアンを見た。

ごめんね騙してて。

そんな顔しないでよ。

目玉落ちるよ?


剣のメーカーにピリルルが僕の姿で居るから話しておいてくれない?

ちょっと村へ行ってくるって。


「…うっす。」


あ、図書館への誤解も一緒に行って解いておいて欲しいな。


「うっす。」


なんでちょっと不満そうなのさ。


「いや、あっさり神子様と会えちゃってなんか逆に感動とかないなぁって。

もう一杯話たとだったし。

もう少しドラマチックに会いたかったし、神子様だと知ってたら殴り合いなんてしなかった!」


あはは、ごめんね。


「でも護衛が必要なので、私は抜けられませんよ。」


僕より弱いのに?

さ、行った行った。

ちゃんと完遂したらお礼をするからさ。


「う、弱い…。

分かりました!

行ってきますね!

ちゃんとやれるんだから!」


大きな声で言い残し、アンは走り去って行った。


「こう言っちゃなんだが、神子様は女慣れしてねぇな?」


え?

そんな事ないし。

姉とか友達の姉とかいるし。

婚約者だっているし。


「あの手の女にお礼するなんて言ったら、思い込みで勝手にエスカレートされて何させられるかわからねぇぞ?」


…未来の僕に任せよう。

ほら、君らもいつまでも土に埋まってないで行くよ。

ぐうたらして!

根っこ生えるよ!


「カーチャンみたいな事言うなよ。

出られるなら出てるし、埋めたのはあんただろ…。」

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