第158話 捕獲

さ、おいでおいで。

美味しい餌が転がっているよ。


盗賊は5人組だけど、統制取れすぎてるな。


1人が遠くにいて寄ってこない。

なんだよ神様、釣りの才能は貰った筈なのにさ。


「こいつが神子なのか?

あっさり仕留めたな。」


ほう、ピリルルのことをそう思っている相手は相当限られるぞ?

まだ口に出すには早いんじゃない?


「隊長を呼んで来いよ。

絶対首に刺さったって!

俺の弓の腕もいいけど、目の方がいいんだから。」


4人は相当近いな。

もういいかな、コイツらをやっつけてから1人と鬼ごっこしよう。


土魔法でトラバサミを出して4人を捕まえる。

ぱんぱんと服についた土を叩きながら顔を見回すが、見覚えがない。


知らない人だな…。


トラバサミを起点にズボッと土の中に首だけ出して埋め込んでおこう。

上手く魔法が使えれば抜けられるかもしれないけど、この場で完全に無効化は殺しでもしないと無理だから、無魔法で怖い映像でも見せておこうかな。


エンタメで。


遠くの方から白い服を着た女の人がじわじわやってくる様にしておこうかな。


隊長と呼ばれた人は…。

やべ。

女の人の方に行っちゃってるかも。


凝った映像を作ったばっかりに。


…?


風魔法の探知は効いているけど…片方の反応が止まった?


マズい!

女の人を襲いそうだ!


急いで探知した所へ向かうと、丁度ハイキックが首にめり込んでいる所だった。


女の人のキックだったんだけどね。


はぁ…強いってことは、そう言うことね?

君、ラルフの護衛でしょ。

非公式な。


「あらら、バレちゃいましたね。

ラルフ様には内緒にしていただけます?」


…いやぁ…無理よ。


まぁ、でも、知らないふりしておこうかな。


釣りの続きでもしようか。

この人たちが起きるまで土に埋めておいてさ。

話を聞かないといけないけど、街に連れていくのは面倒じゃない。


「そうしましょう!

それにしても、ピリルルさんって強いんですね。

魔法も巧みで、発動の瞬間なんて滑らかすぎて全然分かりませんでした。」


ピリルルはもっと魔法が上手いしもっと強いんだけど、この人に説明する訳にはいかないしなぁ。


お姉さんも強かったですよ。

ただの回し蹴りじゃなくて、膝のフェイントで縦目に蹴っていたし、初見だと当たっちゃうだろうね。


「分かります?

最初は見てなかったんですね!

肘から入ったんですよ!

それは上手く受けられてしまったんですけど、上手く目隠しに使えました!


こう、シュッて。

シュッて。」


あ、変な人だ。

図書館に居てピリルルがなんの違和感も抱かなかっただろう大人しそうな見た目なのに、肘からのブラジリアンキックの出来に、盗賊の目的より興味があるんだから。


拳術も一度能力を貰ってから、地道に練習していたから少し気になるな…。


こうか?

あ、これだとヒザがフェイントにならないな。

もう少しだけ横から…こう?


「いいですよ!

なんだ、体術もやるんですね!


手合わせしましょうよ、手合わせ!

ピリルルさんは聖魔法使えるなら怪我してもいいでしょ?」


えぇ…。

釣りがしたいんですけど。

新品の釣竿なんですけど。


「え?

見てないんですか?

ピリルルさんがもう1人を埋めてる時に見たら、釣竿折れてましたよ?


もう手合わせくらいしかする事ないですね!

ね、ね、ね!」


…目を離した隙に折りやがったな…。

こんなぱっきり折れる訳ないんだから。


許せない…!

貴様!

名前を教えてください。


「あれ?

昨日自己紹介しましたよね?


あはは。

いいですよ。

アンです。

アンですよ!

覚えやすいですね!


もう教えてあげませんからね!

あ!もし私に負けて気絶とかして覚えてなかった時だけ教えてあげますよ。」


はいはい。

やるよ。


「じゃあナシナシで行きましょう!」


なにそれ。


「えー!

知らないの!

魔法なし、武器なしです!」


くっそーこっちが素だなコイツ。


やるよ!

先手はあげるからそっちのタイミングでいいよ。


「はーい!

行きますよ!」


アンはすっと距離を詰めてくると、金的を放ってきた。

ゾッとしたけどステップで避けると目の前でピースしていた。

平和なポーズだけど、目的は凶悪な目潰しだ。


おいおい、初手金的からの目潰しだって?

刺激的なお嬢さんじゃないか。

ただ優しくしてくれるお姉さんが現れたら好きになっちゃうかも、僕。

この世界に来てから1人も出会って…。

いや、いたな。

…サンドラさんが。

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