第157話 釣り
針に虫の腹を通し、くねらせて首を通す。
2箇所を留めればそうそう落ちることはない。
それを湖に投げてから、水辺に石で生け簀をつくる。
単純に湖の端を石で丸く囲い、逃げられないようにするだけだ。
過去に同じ事をした人がいたらしく、遺跡のように跡が残っていたのでそれを直して使う事にした。
竿を少し引っ張り、あたりが来ていないか確認をしたが、まだのようなので、焼き場を作って居ると、じわりと気配が広がってきた。
盗賊が来そうだな。
あの、すいませんが、こっち側には脂を含んだ気が生えていない様みたいだから、向こうの森の入り口を見て来てもらっていい?
「はーい。
木の実がなる木も見えるから、果物も少しいただいて来ますね。」
さ、僕は1人だよ。
誘っているんだから来なよ。
丸腰に見えるでしょ?
風切音が聞こえる。
弓矢かな?
…避けたら逃げちゃう可能性あるよなぁ。
当たってから寝たふりしよう。
その矢は僕の首に刺さった。
なんてクリティカルヒット。
腕前がすごいのか、運がいいのか…。
どうすっかな。
抜いて治して倒れるのは不自然すぎるよなぁ。
あぁ、迷ってるうちに意識が朦朧として来たな。
毒も塗ってあったか。
「ね。
毒も塗ってありましたね。」
あー確かに、死ぬ事に抵抗無くなっている。
生物として間違っているね。
本能に抗っているどころか、本能が仕事をしていなかった。
死を避けるより囮として使う方を優先するなんて、自分にゾッとする。
「まぁ、神としては思うところあるんですが…。
今まで何回も何回も起きている事にいちいち真面目に向き合っていたら、とっくに心が壊れていると思うので、私はもうラルフはそういうものだと受け入れました。」
前世のフィクションで不死のキャラは沢山見たけど、ほぼ敵だったな。
世界征服を企んだりしていたね。
強いという事とセットだったから、彼らはあまり死ななく、たくさんある厄介な能力の一つみたいな扱われ方をしていたから深く考えずに、正義の味方がどうやって倒すかを楽しみに見ていたけど、これは反則だ。
僕なら僕をどうやって倒すだろうか。
閉じ込めるくらいしか浮かばない。
かろうじてそんなに強い訳じゃないから、そこまで持っていくのは難しくないけど、問題は神様がくれる能力だな。
対応をしてもメタった能力を得て蘇るのが厄介だ。
リスポーン位置も死んだところ固定ではない。
死体を残して他のところで生き返ったこともよくあるからね。
宇宙にすっ飛んだ時とか。
「私ならどうしますかねぇ。
思考を奪うくらいしか思い浮かびませんが、思考なんて電気信号なのでね。
いつかそのうちどうにかなりそうですし、正直貴方の身体がどの程度損壊したら死として判断されているのか分からないんですよ。」
どういうこと?
脳波と心音が止まった時じゃないの?
「あまりに早く死んだと判定される時がありますからね。
さっぱり。
今回だって毒が回って意識を失ってから、身体的に死ぬまでもう少し時間が必要な筈なんですが、気を失ってすぐ来ましたし。」
なんで神様がわからないのさ。
「だって、貴方のその死んで生き返るって部分は私の手を離れた現象なんだもの。
私はそれに、役割を与えて人間というものに固定しているだけで。」
あぁ、なんとなく聞いていたね。
それをしないとまずいって。
「そうなんですよね。
ほっといても生き返りますし、もしかしたら問題はないかもしれないし、あるかもしれない。
あったら取り返しが付かないから輪廻の途中で捕まえて、能力を渡してる訳ですね。」
今更ながら意味のわからない体質になったもんだ。
じゃあ、そろそろ戻るよ。
神様、僕の倒し方考えておいてよ。
いつか必要になるかもしれないから。
「そんなこと言うなよ…。」
必要ないかもしれないし、あるかもしれない。
あった時になにも案がないと取り返しがつかないでしょ。
アンタしか頼めないからな。
「わかりました。
考えておきますね。
はぁ、で、能力は何にしますか。」
当然釣りだ。
「今まで全然趣味系の能力を活かした事なんてないのに、懲りませんね。
じゃあ、いってらっしゃい。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます