第156話 入れ替わってる!?

やっちゃったね!ピリルル、いやラルフさん!


まぁまぁまぁまぁ座ってよ!

そんな顔しないでさ。


もう、考えるしかないよ。

だって結構な人数に勘違いされたんだからね、君がラルフだって。


あはは!

今の言い回しピリルルっぽくない?

あはは!


「もう全部燃やし尽くしてしまおうかな…。」


だめだめ!

神の子がそんなことしたらダメだよ!


「はぁ…。

っていうか、ラルフ見てたよね?」


え?

知らないよ?


その頃僕は、紋章をなくして証明できないからメーカーに行けないなーって困ってたんだから!

いや、うっかり!

2人とも渡したの忘れてたのはうっかりさんだったね!


…いや、ごめん、見てました。

そんな顔しないでよ。


でもどうやって止められたっていうのさ。


僕が現れて、ジャーン本当の神の子ラルフ君はぼっくでーす!

ぼっくでーしたー!

ってやらなきゃ行けない訳?


預けてた紋章を勝手に見せてさ。

それはどうかと思うなぁ。


「いや、それを言われると…。

やっぱり従者用の紋章作らなきゃダメだって。

ラルフが嫌がったって必要な場面があるんだから。」


要らないよ。

ピリルルは友達で従者じゃないよ。

嫌だよそんなの。


それに無かったからこんな面白いことになったんじゃない。


「面白いとか口に出さなきゃ許したかも知れないのに。

はぁ…。

それで?

神の子ラルフ君のこの国でのスケジュールは?」


はいはいはいはい。

まとめてありますよ!

まず明日、メーカーと9時からの会議に出席、11時から会食、13時から武器の打ち合わせ。

それからカードに商品を出してもらうためのキャンペーンを打ち合わせて、それについて周るカードデザインの打ち合わせ。

終わるのは21時くらいになると思うよ!


「うわっ…!

最悪だよ。

でもいいの?僕が出て、デザインおかしな事にならない?」


最終日にはネタバレして謝るから大丈夫…だという事にしよう。


「ダメじゃない?

僕のカードもあるんでしょ?

バレバレだって。」


何とかなるよ。

頑張って欲しい。

なら明日だけ姿を変えようか?

2人ものを入れ替えようか?


「なら初めから君が行きなよ。」


確かに。

いやだ!

おじさんに囲まれての会議は飽き飽きして居るんだ!

見てよこれ、帰りに買って来たんだよ。

ここから少し南に行ったところに淡水と海水が混ざる湖があるらしくてね、そこに行こうと思って釣竿を買ってきたんだ!


「もうそれしか考えられなくて論調がめちゃくちゃじゃないか。

そして、まず明日って言ってたよね。

明日以降は?」


…やるじゃないか。

僕の失言だったぜ、叡智の龍よ。


…学校での講演があるのだ。

何を言えっていうんだ。

まだ13とかそこらのガキンチョに、この世界のスーパーエリート様に物申す事なんてひとつもないよ。


「明日の夜には入れ替わりは辞めるし、夕方には図書館に誤解を解きに行く。

それなら明日だけは代わってあげるよ。

カードのデザインも好き勝手していいんでしょ?」


え、あ、あんまり恥ずかしい事にしなければね?


「大丈夫だよ。

僕もカードになっているんだから、そんなに無茶はしないよ。

カードは。」


そっか!

そうだね。


なら明日は街での休みを満喫するのだ!

早めに寝よう。

誰にも見られないように湖に行かないと。


ピリルルと僕の姿を入れ替えても、図書館の人たちはピリルルを僕だと思っているんだから。


そうして、翌朝5時頃に僕は宿を出た。

朝マズメに魚を釣って、ゆっくり焼いて昼食にするのだ。


労働者用の早朝から始まる屋台で肉とパンを買って出発しようと思っていると、後ろから声を掛けられた。


「神子様、湖に釣りに行かれるのですか?」


そうなんですよ。

最近あまりゆっくりできていなかっ…たので。


あぁ、ナチュラルに返してしまった。

今はピリルルの姿で誤解を深める事が出来ないのに…。


「私も途中までついて行って宜しいですか?

湖の途中の炭焼き窯までお使いがあって。」


えぇ、どうぞ。


昨日挨拶しちゃったなら断れないしね!


名前も知らない子と2人で森の道を歩く。

道々この辺の植生を訪ねたり、炭の値段を訪ねたりして過ごした。


このままやり過ごせそうだと思ったが、炭窯への分かれ道まで後少しのところで、女の子は大変なことを言い出した。


「あの…とても聞きにくいのですが…。

ピリルル様はなぜ、ラルフ様のフリをしているのですか?」


いや、知っていたんかい!


「あの、私、元々北の王国に住んでいたので、お二人が一緒に遊んでいるところを度々拝見していたんです。


そしてここの学校へ通うようになった理由も、お二人が病気の子供を救って回っている姿に感動して…。

なので理由があると思い、昨日は口に出さなかったのですが…。」


あぁ、同郷なのね。

ならバレるのは当然だわ。 


僕はラルフのフリをしてた訳じゃないんだよ。

ただ、図書館に入れる紋章の格の問題でラルフから預かっていた彼のを見せただけなんだ。


許可も貰ってね。

そうしたら、門番が大騒ぎしちゃって弁解も読書も出来ないままになったのさ。


明日の朝には2人で話に行くよ。


今日ラルフは別の用事が決まっていてさ。

だから僕はこんな離れたところに憩いに来たんだ。


「そうだったのですね。

あのおじさんあんまり話聞いてくれませんもんね。」


そうなんですよ。

それで、その事を聞く為にここまでついて来たの?

炭焼き窯なんてこんな人気のない早朝に森を通って行くのは危ないよ。


「あはは。

そうなんですよ。

偶然お見かけして居ても立っても居られなくって。」


疑問は解けたかな?

…帰れるの?

もう結構森の上奥だよ。


「あ…。

はは。

多分大丈夫ですよ。

最近盗賊とか見ないですし。」


…めちゃくちゃ心配だ。

ところで今日は学校休みなの?


「え?

ええ。

授業のない自習日です。」


ならここら辺の魚、美味しく食べられる方法とか教えてくれないかな。

帰りは送ってあげるから。


「えー!

いいんですか!


ならついて行かせて下さい。

お願いします。」


ごめんよピリルル。

知らない間に知り合いを増やして。


でも仕方ないんだよなぁ…。

盗賊の気配がするんだもの。

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