第155話 学術都市

最近何処かで偉い人たちの大移動があったため、安全な動中だった。

南西の海沿いは安全に歩けるような道はなく、

やや真南寄りの丘を歩くことになる。


本来は剣闘士崩れの盗賊が跋扈していたらしいが、逃げたのか、討伐されたのかは分からないが一度も出会っていない。


ここまで潮風が来るのか、歩き始めた北西寄りの風景とは植生が大分違うようだった。


小さな村や、宿場町を通りながら10日ほど歩くと、南西の街へと辿り着いた。


今度は門番に見せる紋章は無難なものにしないと、行けない。

銀色の花のついた意匠の紋章だけを出してすんなり通してもらった。


大柄な門番の人に、子供2人での修行の旅だと話すと、大変心配されてしまったが大きな騒ぎにはならなかった。


「こんなことなら、前回もすんなり入れたね。

でも、そうしていたらあの子達はまだ居ないことにされたままだったから、逆に良かったのかもね。」


そうだねぇ。

普通に入った場合も、結局高級宿には泊まってなかったし、入国の騒動が無かっただけで結果は一緒だったかも知れないけど。


「そうか、そうだね。

目にしては居ただろうしね。


この街は大きな図書館と、研究所、それと最大の学校があるんだっけ。


僕は図書館に行くけど、ラルフはどうする?」


僕は木剣のシグネチャーモデルを発売してくれたブランドの本社がこの街にあるらしいから、そこに顔を出すようにティナに厳命されているから、そこへ向かうよ。


「じゃあバラバラになるね。

宿だけ決めてしまおうか。」


そうしようか。


街の中央にある広場が見える宿を取り、僕らは別行動することになった。


…実は手紙でアポを取っており、会社の人と会うのは明日なのだ。


何故こんなことをしたか。

当然ピリルルをつけていく為である。


別に何かある訳じゃないけど、ピリルルも常識というものを大して持っていない。

なんせ龍の王子様なんだからね。


これまで僕が無知ゆえに起こして来たアクシデントをイジられるので、どうせ1人の時はなんかやっちゃってると思うのだ。


見たい!

目撃したい!

僕もイジりたい…!


という訳で、無魔法で姿を消し、風魔法で匂いや音を誤魔化し尾行することにしたのだ。


まず歩き始めて、ピリルルは途中の屋台で飲み物を買い、座って飲んでいる。


あ、いいなぁ。

ふざけて尾行を始めたから喉も渇いたし、お腹も空いて来ている。


しかし育ちがいい。

わざわざ飲み終わるまで座っているなんて。


あ、移動を始めたね。


今度は別の屋台で、パンにエビの揚げ物を挟んでいる物を買っている。


あ、いいなぁ。

お腹が空いたのは我慢できると思ったけど、知り合いが食べているのを見るとすごくお腹が減って来た。


…もしかして尾行がバレてる?

僕を煽る為に食事を…?


考えすぎか。

普通にお昼時だ。

勘繰って、姿を現したら元も子もない。


鋼のメンタルでご飯を我慢するのだ。


歩くルート的にまっすぐ図書館に向かっているらしい。

大きな建物がもう見えている。

ここにも受付兼、門番が居るらしく、花の紋章を見せている。

先の国を出る時に貰った物だ。

ピリルル個人が持っていた紋章は龍王族の物で物々し過ぎるから、教皇様がくれたのだ。


「すまんな、坊主。

その紋章では入れないのだ。

貴族からの推薦か、学園の生徒、もしくは花にプラスして何かつくほどの重い紋章が必要だ。


坊主が頑張って修行を続けて偉くなったら入れるからな。

頑張れよ!」


あ、ダメみたい。


鞄をゴソゴソやってるな…。

龍の威光を見せるのか?

僕にはあんなに神の子煽りしてくるくせに、自分はただの従者でござんすみたいな顔して横に居たくせに!


あ、ピリルルがこっちをチラッと見た気がする。


「その紋章は…神子様!

失礼致しました!


さぁ!

こちらへどうぞ!


いやぁ!来るかも知れないと聞いていたのですよ!

お待ちしておりました。

こんなにお若いのに、もう政治に巻き込まれた孤児をお救いになったとか!」


あぁ!

僕が預けてあった紋章だ!

勘違いされている!

…勘違いされてるよね、あれ。

多分僕の関係者の証明として出しただけだろうに。


あぁ、押しが強い!

流されて連れていかれそうだ。


ププ

焦ってるピリルルなんて初めて見るかも。


あ、こっちをはっきり見た。

バレてるのかな?

いや、はっきりバレてはないな。


気配を消すんだ!

ここにラルフくんは居ませんよ。


「皆に紹介しますからな!

さあ、さあ、その後自由に読めるように手続きしておきますので。

さあ!」


あはは。

僕だと思われたまま連れ去られて行ったよ。


…チャンスか?

面倒事を全てピリルルに押し付けるチャンスなのでは?

この後の楽しくも何ともないメーカーとの会食も、全部。


ひひひ。


それがいいや。

ごめんなピリルル。

いや、神の子ラルフ。

僕はこの街ではピリルルとして過ごすよ。


ご飯を食べて宿へ戻ろう。

宿でこの素晴らしい計画を練ろう。


ピリルルを言い負かして、自由を得よう。

疲れたんだ、前の街で何だかんだと偉い人に囲まれて。


楽しくなって来たな!

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