第154話 ラルフの前世の話をピリルルに

「大分やり残してきてる気がするよ。

大丈夫かな、色々。」


さーねぇ。

でももう時間をかけなきゃ解決はしないしね。


僕らはもうあの国に変に影響力があるし、僕がいる限り偉い人もいるままだからね。


退散退散。


「いや、ラルフが偉い人の対応を面倒に感じて逃げてきただけでしょ。」


そんなことないよ。


「あるでしょ。

そのまま本山に連行しようとしてるおじさん一杯いたし。」


それが不味いんだよ、ピリルル。

目立つのはもう仕方ないしいいんだけどさ、目的上ショートカットは出来ないんだよね。


「今更そんなに影響あるかな。

人ってよくわからないよ。」


あるかもしれないし、ないかもしれない。

だから、歩いていくしかないのさ。

僕のスタンスはやっぱり、やる事やってダメなら仕方ないけど、やらなかったら性格上確実に後悔するからね。


「ま、いいけどさ。

僕は旅も楽しんでいるよ。

空より景色も変わるしね。


やっぱラルフの前世とは景色が全然違う?」


うん。

もっと建物の多い場所だったからね。

地方都市だけど大きなところだったから。


…え?

話したっけ、そんな事。


「いや、ある程度推察しただけ。


異常な医療知識と、子供のトラブルへの豹変っぷり。


考えても繋がらないから、別の人生歩いたって言う方が納得いくから、試しに話題を放り込んでみただけだよ。」


わお。

やるじゃん。

前世って概念あるんだ。


「龍には当たり前にあるね。

溜まりから生まれる時、何も知らない訳じゃないから。

だからなんとなくそう思ったのかもしれない。」


あぁ、そっか。

エアリスも何度も殺されては生まれ変わったらしいけど、リナのこと覚えていたもんね。


「前に、いつか話すって言ってたからわざわざ探る気もないんだけどさ。

何にも変わらないし。」


いや、いいよ。

旅の慰みに僕の前の人生の話をしよう。

丁度夕方だ。


このまま火を焚いて、休む準備をしながらね。



どこから話そうかな。


「どんな子供だったの?」


ん?あぁ。

ほっといたら一つのことをずっとやってる子供だったらしいよ、1人で。

小さい頃は友達を作るのが正しくて、それ以外は間違ってると思い込んでたから、1人で色々やるのが性に合ってるのに、無理矢理友を作ったりしてた。


そのストレスか、あんまり明るい子供じゃなかったね。


「今もそんな感じだよ。

僕とはよく一緒にいるけど、立場を考えたら明らかに友人を作ったりしようとしてないからね。


僕らは2人とも1人で色々勝手にやってるけど、それが良いのかもね。」


うん。

そう思う。


そんなんだから、小学校って言ってもわからないか。


小さい子供を集めて勉強とかする所に行き始めたら大分息苦しくてさ。

みかねた親が野球ってスポーツのクラブに押し込んだんだよ。


野球ってスポーツはチームスポーツって言われているんだけど、割と個人技なんだよ。


だから今度は1人で延々と練習してたんだ。


「あ、今の剣術みたいだね。

朝晩1人で黙々とやってるから。」


そうそうそんな感じ。

んでね、前世には魔法なんて無かったから、怪我したら自然に治したり、薬で治すしか無かったんだ。


1人で途切れなく延々とやってると誰も止めないから怪我をして、そのスポーツは終わり。

出来なくなっちゃった。


別に悲しいとかなくてね。

やる事がなくなっちゃったなって思ったのをよく覚えているよ。


それで、腰と肩をおかしくしたから、別のスポーツをやるにも影響あるし、その気も起きなくてね。

親に別のところへ放り込まれる前に、勉強をするようになったんだ。

勉強してれば自分の世界を無理矢理広げられる必要もなかったから。

なんかそういう世界だったんだよ。

勉強出来れば安心、みたいなね。


変な事なんだけどさ。

合う合わないがあるのに。


でもまぁ、僕には合っててね。

なんせ、1人で黙々とやってていいし、世間的な評価は本人の資質と乖離して上がっていくからだれにも文句を言われない。


逃避に丁度良かったんだ。


結果的に、その世界の一つの国の中でトップクラスの学校へ入って、医者になった。


医者になりたかったというより、目標をちょっとずつ高くしていったら、勝手に医者になったと言った方がいいね。


信念があったとかそういうのでは全く無いんだよ。


医者って社会的地位が高くてさ、なんかそれだけで信頼されがちで収入も多かったんだけど、大人と話すのがとんでもなく面倒で、小児科っていう、子供専門の医者になったんだよ。


「うん?

子供専門?」


そう。

薬とか治療法とか、罹りやすい病気が違うから、はっきり分野で別になっていたんだ。


そんで、働き始めた病院が、割りかし重い病気の子供が多くて、担当が入院してくる子供って事が殆どでね。


そこで初めて知ったんだけど、子供が大病に罹ると、全く会いに来なくなる親って意外なほど多くてさ。


なんとなく可哀想だなって。


自分は1人になりたくて逃げ回った人生だったのに、おかしな話だけど、1人になりたく無い子供達といる事が増えていったんだ。


寂しがり屋な子供の病室で他愛のない話をしたり、なんかその時の流行りを一緒にやって時間を潰したりね。


でもやっぱり病院ってそういうところだからさ、仲良くなっても死んじゃうんだよ。


それでも続けててさ。


自分でも、なんで1人になりたかった奴が1人になりたくない奴をこんなに構っているのかって思う事もあったんだけどね。


今になると、どっちも本質的に変わらないんじゃないかなって思ってさ。


どっちも人との関わり方に問題が生じてるだけで。

だから余計感情移入したのか、自分の身体を完全に忘れてたから、その内限界を迎えて死んだんだと思う。


最期の方は正直よく覚えてないんだよね。

どっかで倒れて、それからなのかも知れないし、いきなり死んだのかもしれないし。


過労死するほどでは無かったと思うんだけど、そういうモードの自分には全く信頼置けないから分からないね。


「それで気づいたら今の人生?」


大体そんな感じ。

まぁ、死ななくなったり色々あるけどね。

そっちは僕のせいじゃないし。


「…そっか。

異常な医療知識の根源は分かったよ。

でもなんで子供だけそんなに庇護するんだろう。


今の話では昔は寂しい子供に同調してたんでしょ?

なんか、職業上では繋がっているけど、それ以外が繋がっていない気がするんだよね。

今は殆ど理不尽な目に遭ってる子供を助けるのは無差別だからさ。


元々の性格なのかな。」


確かにそうだ。

そこまで子供だからって助けてまわってはいなかった。


なんでだろう。

魔法でやれる事が増えたからだろうか。


「なんでだろうね。

それも成長なのかな。


自分のことなんて結局死んでも分からないんだから、考えても仕方ないかもしれないね。」



そうだね。


…やる事やってダメなら仕方ない。


…。

これもなんか思い出せる前の自分のスタンスと違う気がするな。

だって、身体がぶっ壊れようともやれるまでやるって感じでしょ。

今も死に近いとは思うけど。

神様は英雄の精神性って言ってたな。

前世の僕は英雄では無かったし、自分が生きれば子供が救えるとは少しはあった。


なんで死んだんだろう。

何かあったのだろうか。


モヤモヤはするけど、ピリルルの言う通り考えたって仕方ない。

何か忘れているのだろうけど、当然か。

昨日の夜ご飯だって覚えてないんだから、前世の感情なんか覚えてないね。


気の向くままに生きていくしかないな。

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