第152話 名探偵ピリルル
奏上は場所を移動して行う事になる。
良くある願いとしては貴族格を貰うなど書類が必要なものがあるし、玉座前と言うのも形式上大切な事らしい。
ただし今回、この間に入れる格の人間がこの国に集まりすぎているので、割と沢山の人が見ている。
まず国王様、あなたに聞きたいことが。
この国の戸籍も、名前も存在もない子供達の事なんですが、ご存知ですか?
「それは、孤児ということか?
孤児がいるのは知っているが…名前?
どういうことだ。」
…本当に知らないのか、しらばっくれるつもりなのかどっちだ?
孤児ではないのです。
出生の記録もない、害しても罪にならない。
そんな子供達がいます。
「それは本当のことか?
…いや、この場で嘘をつく理由はないな。
それで、その子らがどうした。」
身分と戸籍を与えて下さい。
それが今回の奏上です。
「この場で回答はしにくいな…。
初耳なのだ。
そなた、教会長は存じていたか?」
あ、こいつマジで知らないんだな。
教皇がいる場で爆弾をパスしやがった。
「存じています。
しかし、孤児と認識しておりましたよ、私は。」
でも現実そうなんだ。
生きているのに、いない事にされている。
友達になって、仲良くなって、いつか僕がジジイになって、ふと振り返った時にそいつらを思い出せないなんて悲しいだろ。
記録がないって、世界からそうされているんだぞ。
「はぁ、分かりました。
なるほどね。
お優しいですね、神子様は。
戸籍と身分ですね。
議題に挙げておきますよ。」
…あ?
「落ち着け。」
お父さんが何処にいるかわからないが、声だけ聞こえた。
「そうですよ、落ち着いてください。
そもそも、何でそんな子供が居るんです?
教会は孤児を引き取る義務があるでしょう。」
教会ってそうなってるのか、教皇が言うならそうなんだろう。
「それについては、分かりません。」
しれっと言うね。
人の全部が掛かっているのに。
「それについては僕が調べましたよ。」
危なかった。
お父さんのおかげだ。
まだ僕が怒るわけにはいかない。
ここからはピリルルの出番だ。
外でお願いした仕事の成果、僕の友達の優秀さを見せつけてからじゃないとね。
「君は?あぁ、龍の王子様、なるほど。
教えて頂いてもよろしいですか?」
頼むよ。
「記録もたいして残って居ませんでしたので、大変でしたよ。
まず、発生は剣闘士の褒美に女の人がいた事です。
最初は娼婦にお金を払って、だったので何の問題も有りませんでした。
しかし、ある時から変わります。
時の上級貴族が他国から拐った女を買いました。
愛玩としてね。
まぁ龍にはよくわかりませんが、当時としては別に犯罪でもなかったし、良くあった事らしいので、これに異議を唱えるつもりはありません。
が、その上級貴族が買った女の人が良くなかった。
他国の貴族で大々的に探されていたのです。
焦った上級貴族は隠蔽を企み、外と接触の少ない剣闘士に目をつけ、褒美としていらなくなった女を当てがい、事が終わったあと殺したようです。
この国の歴史には残っていませんが、その他国の貴族の歴史にはしっかり残って居ました。
違法に拐われた後、剣闘士に娼婦として売られて、剣闘士に殺されたさらしい、と。
それからですね。
不要になった表に出せない女の人を剣闘士に貸し出す記録を残して、放逐されるようになったのは。
必ずしも殺されては居ませんが、記録として剣闘士へ当てがわれたところまでしかありません。
その後の記録が一切ないんです。
戸籍も含めてね。
当然いつかはその女性にも子供が出来ますが、貸し出した女の記録はないし、戸籍もなくなっているので、彼らが生まれた時にも当然記録に残らない。
政治的に捨てられた女から生まれた、世界から捨てられた子供、という訳です。」
嫌な話だ。
「そんな事実はない!
きちんと入場記録は残っているのだ。
その後も追う事はできる!」
「闘技場の記録は保管期間が短いんですよ。
丁度その頃からね。
他にも金銭の動きや、褒賞で使われたらしい宝石類、国から補助が出て行われる、神職者の治療行為の金銭授受の記録も探すのが大変でしたね。
でもまぁ、闘技場に残ってなくても、誘拐して来た組織とか治療をした神職者とか、いくらでも記録は出てくるし、でも一番笑ったのは宝石ですね。
過去一度も剣闘士が望んでいないので褒賞になっていないのに、何度も何度も買い足されているんですよ。
あ、これは宝石屋の記録がありました。
と、こんな風に横領脱税、殺人、強姦、などなど、まぁ色んなことのゴミ捨て場として闘技場が使われて来たらしくて。」
はー。
国を挙げてのロンダリング施設になってたんだね。
まぁ僕もその対象となって居たんだけど。
「そう。
僕の友達、ラルフもその対象となりました。
闘技大会中に殺されれば平和にこの世から退出させられますからね。」
「それはない!
神子を害すなど、ない!」
「俺が証人だ。
指示書も持っている。」
え?
あ、ランド…。
「あー!
俺もあるぜ!
知り合いだったから勝負には関係ないけど呼び出された経緯が、ラルフを倒す依頼だったわ!」
そういえばペリンもそうだ。
ペリンの手紙には闘技場の印と教会の印が付いている。
そしてランドとペリンの手紙の筆跡がかなり似ている。
「と、いう訳です。
教皇。
なので、この場で戸籍と身分を求めても無駄な気がするんですよ。
その子らが殺されても記録は残らないし、あの人達からしたら万が一母親から何か引き継いでいたら大問題ですからね。」
そしてもう一つ、政治システムとして誰よりも不幸な身分を産めば、上への不満が起きにくかったのもあると思うよ。
「流石ラルフ。
それもあるね。」
という訳ですのでこの場で決めて頂けないなら別の望みにしようかな。
「何だい?」
あの子らを全員僕の養子にする。
歳はあんまり変わらないけど、それは何とかしてよ。
超偉いんでしょ?
会場がざわつく。
考えてなかったんだろうな。
でも僕は着地点として最初から考えて居たことだ。
偉い人を巻き込んだのはこの為だけなのだ。
しかし、ピリルルやるねぇ。
本当は証拠なんて僕の暗殺と宝石屋と他国の貴族の記録くらいしかないのに、盛りに盛って大罪に仕立て上げちゃった。
ま、その盛った陳述もバレそうならなかった事にしたら良いよ。
この国ではそれが許されるらしいからね。
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