第149話 勝ち目

「やるなぁボン。

心の強さは知っていたが、剣でもその歳の奴を世界中から集めてもトップなんじゃないか?


でも流石に年季が違う。

それじゃ勝てんぞ?

まだ何があるんだろ?」


はっ。


口ではそう言うが欠片も舐めてかかってくれない。


まず一つ目のアドバンテージを試そうか。

はっきり俺の方が魔力が多い。


かと言って単純な攻撃は絶対に斬られるか避けられる。

隠してジワジワとデバフをかけて行こう。

ジジイにしてやる。


もう一つ、こっちには同等の剣がもう一本ある。

獣剣リオンだ。


なんとなくエアリス素材は良くない気がする。

気持ちの問題なのか、いつもより元気がない感じだ。

旦那に刃は立てたくないって感じなのかな。


まず知られてないだろうアドバンテージを使いたいな。


完全にエアリスの剣と同じ見た目をしたリオンで斬り込む。

しかし先程と同様にあっさりうけられたので、やられたフリをして背後に剣を投げ込んだ。


すぐに距離を取るが、ペリンは当然追撃して来て、斬りかかって来る。


…残念!

それは無魔法で作った、幻だ。


そしてくらえ。

その剣は戻って来るぞ。


「うお!

あっぶな!


なんだその剣!

あっぶねー!」


なんだそのゆるいリアクション。

…やっばいな。

そのぐらい差があるんだろうな。


でも少しだけ傷をつけられたな。

いやーワンチャン腕とか落ちてくれないかなって思ったんだけど簡単に避けられたわ。


でも行くしかない。

カウンタータイプだと思っていたが、ペリンの攻めは隙がなさ過ぎる。

削られるし、返せないし、受け損なったらそこで終わりだ。


攻め続けろ。

攻めは苦手なんだけど、やるしかない。

行け!


受けられ、流され、斬られて、斬り返す。

受けられ、流され、斬られて、斬り返す。


完全にポイント負けだけど、現実的にこれしか出来る事がない。


傷が少しずつ増えていく。


実直に鍛え続けた男の強さに、完全に負けている。

当たり前だ。

武器も経験も上の相手なんだから。


受けられ、流され、斬られて、斬り返す。

受けられ、流され、斬られて、斬り返す。


出血が増え、頭が回らなくなっている。

そんな様子はとっくに理解しているだろうペリンは、それでも戦い方は変えない。


ようやく、ペリンに死魔法が効いてきたようで、初めて会った時くらいの年齢に見える。


…ダメだ。

初老の身体でとんでもなく動けていた男だ。

まだ全然届かない。

イタズラも不発だ。


やっぱ武器だけで勝ってたようなもんなんだな、俺は。


…獣剣リオン。

お前、武器を食えるんだよな。

ただのおやつか?

強くなるのか?


さっぱりわからない。

まぁもうジリ貧だし、逆転の手もなーんもない。

ほら、食え。

エアリスの、龍の武器だぞ。



神獣の剣が光る。


おぉ?

どうした。

お前、そういう武器だったのか。

なんだよ。


強くなったのか?


ははっ。

試すことが新しく出来ただけで嬉しいな。


あ?なんだ?

ちょっと喜んでるような気がするな。

よしよし。

手伝ってくれよ、リオン。


「まだなんかやんのか?

ボロボロでも諦めないんだよな、お前。


前もエアリスの時に落ちてた剣をめちゃくちゃに浴びても続けたもんな。

いいぜ、俺は。

楽しいよ、お前とやんのは。

工夫があるし、才能も感じるからな。」


はっ。

せめて一泡吹かせてやるよ。

行くぞ。


剣が触れ合う。

さっきまでの押されてる感じはない。


不思議な感じだ。

剣の性能が如実に出るんだね。

この世界の剣は。

1を100にはしてくれないけど、正しく振ると100を110にはしてくれる感じだ。


打ち合いでは武器は食えないのか、お前。

そういえば、爆弾食わせたよな。

もしかして爆発出来るのか?


あ、一回だけ?


そう。

まぁ、爆弾って一回爆発したら終わりだもんな。

爆発してお前は大丈夫なのかよ。

大丈夫?

なら思いっきりいけ!

次カチあったらいけ。


デバフは大した効果を発揮しなかったけど、やっぱりアドバンテージのある魔力勝負だ。


ペリンより俺の方が早く回復出来るはずだ。


お互いの手が弾け飛ぶ。


大爆発だが、2人とも魔力がある程度高いので死にはしない。


それでも手は無くなる。

それぐらいの爆発だ。


さ、治せ治せ治せ治せ。

これを逃すと勝ち目が無くなるぞ。


ペリンより早く剣を掴め!


右手の人差し指と親指が治った時点で走り出す。

痛すぎて気絶しそうだが、剣は掴める。

来い!リオン!

振るほどの力は込められない。

それでも持ち主のいない剣は食えるだろ?


行け、間に合え。


あと少し、というところでペリンが剣を振って来た。

回復したのか?

違うようだ。

回復を諦めて、脚で跳ね上げた剣を肘で挟んで無理矢理振っているんだ。


良いよ。

左手は今は要らない。


剣を左手で受け、骨で巻き取る。


ペリンから剣を引き抜くのと、腕の切断が同時だった。


血を失いすぎてるから死ぬかもしれない。


でもそれは、俺にはデメリットじゃないんだよ。

さぁ、落ちた剣を食え。

お前が勝たせてくれよ、獣剣リオン。


エアリスの剣が砕け、リオンが光る。

クソ、お前は凄いのに、俺が凄くないわ。

意識が…。


俺は愛魔法でリオンと自分を繋げた。

意識があり、懐いてくれているなら、バフが掛かるはずだ。


平気な顔をしろ。

ペリンを見下せ。


武器を奪った。

俺は余裕だ。

お前の負けだ、ペリン。


「あぁ、嫁さんの剣を折られた。

凄いなラルフ。


俺の、負けだ。」


審判の勝ち名乗りが遠くで聞こえる。



「さ、今回は本当に時間がありませんよ。」


あ!死んだ?

やっぱりか。


当然だよね。


「見てたわよラルフちゃん。

何で勝った方が凄惨な姿なのよ。」


ははっ。

どうしても勝ちたかったんだよ。

それこそ死んでもね。


今回は仲間も知らない偉い人も巻き込みまくった。

勝てないからって、ペリンに全部任せるなんてダメでしょ。


「さ、とっとと戻りますよ。

死ぬほど痛いけどギリギリ生きてる程度まで戻してあげますが、回復は自分でやって下さいね。

血は戻してあげますから。


…これでも怒っているんですよ。

自分の命を何だと思っているんですか。


ラルフ、生き返るから無茶をして良いわけじゃないんだ。

分かっているだろ?

死ぬ経験は残っているんだ。

記憶に残らないほど一瞬ならまだ良い。


今回は捨て身すぎるだろ、心が壊れるぞ。」


おい、それが素なのか?

めちゃくちゃ痛かったけど、俺はそういうの大丈夫なんだよ。


死に慣れたからじゃない。

元々そういう人間なんだ。

理由があれば受け入れちゃうんだよ。

前世の死因もそんな感じだろ?


ごめんな、心配させて。

神様と前世から友達なら死ぬ前に止めてくれたんだろうな。


「はぁ。

いいです。

分かっていたことだし、だからこそ生まれ変わったとも言えますからね。


超心配しましたよ。

心配通り越して怒りすら沸いてしまいました。


今回の能力は体力です。

ないとすぐ死ぬだけなので。

類似能力は沢山あるので、これからも凄惨に衆目に晒されながら死ぬと良いですよ。」


…結構怒ってるね、神様。

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