第145話 ワクチン
「俺を派遣したのは、この国の教会のトップだ。」
あらそう。
素直に言うのね。
「どうせ戻っても死ぬからな。
別にプライド持ってこんな仕事をしてるわけじゃないって。
ま、完璧にやられた敬意を払ってってやつさ。
俺の想定としちゃあ、戦って死ぬんだろうなって感じだったが、戦闘開始すらままならないとは思わなかったよ。」
ごめんなウチの奴らったら。
人間辞めてるとかじゃなくて、ほぼ人間じゃないから。
姉ですら普通に産まれてないからね。
俺だけよ。
まともなのは。
「ははっ。
なんだそれ。
ま、いい。
あんた、狙われてるぜ?
教会も当然一枚岩じゃないからな。
あんたに探られたら困るやつなんて沢山いるんだろうなぁ。
この国、あんたから見てどうだった?
腐ってたろ。
腐ってる方が生きやすいやつも居るんだよ。
バカな話だがな。
透明な子供を作って国民より明確な下の身分を作って、不満を抑えたりしてよ。
闘技場のアガリを剣闘士じゃなく、国が持っていったりとまぁ、歪なんだよ。
そもそも変だろ?
剣闘士の賞品に女がいること自体。
あれの建前は、自ら望んで剣闘士に身体を捧げて金銭を得る仕事ってことになってる。
でも実態は、王族か貴族か、神職のエラい奴らが拐ったり、手篭めにして面倒になったり、買ってきたりした女の末路だ。
そりゃあ美しいはずさ。
エラいやつに献上された高級品だからな。
つまり、闘技場自体がカネと犯罪を隠すのに適してるんだ。」
それはわかってる。
ギャンブルだしね。
つまり国と教会がグルになって自浄作用が失った国に、人助けをして名前を売った神子とやらが来て、焦ったわけだ。
勝手に世直しの旅だと思ったんだろうな。
平民が気づくのが怖いんだろ。
そいつら。
自分たちが泥水を作って、自分たちだけ住みやすい池にしているのがバレるのが怖いんだろ。
なるほどね。
納得したわ。
最初は綺麗なところだけを見せて満足させようとしていた。
宿に人を近寄らせないようにしてまでな。
会うやつを管理したかったんだ。
一度見失ってからはアンタみたいな暗殺者を送り込んだり、剣闘士の対戦相手を強い奴にして死んでくれないかなって思っていたわけだね。
実は一番気になっていたのは、それじゃないんだよな。
俺の信者が追ってきているっていうのは、ピリルルに聞いて知っていた。
でもこの国には来ていない。
見失って探し回っているはずなのに、だ。
大きい街なんて普通、最初に探すだろ。
つまり神子が来ていることに緘口令が敷かれているわけだね。
この国で死なれちゃ困るけど、生きて出て行かれても困る存在になった訳だから、当然知らぬ存ぜぬで誤魔化したんだろうなぁ。
「あぁ、そういえばアンタが死んだら大変な事になるよな。
隠し通せるもんなのかね。
俺にゃわからないけどよ。」
うーん。
どうなんだろうね。
絶対探されるから無理だと思うんだけど、まぁ他に道はなかったしな。
ところで、アンタはピリルルの存在を知ってたなら、俺が何を託したか知ってるか?
「あ?
聞いてるよ。
あれだろ?
金が一枚と何かの包みと手紙。」
そう。
手紙は俺のお父さんへ宛てた、金の無心だ。
それはどうでもいい。
もう一つの包みは、俺の紋章だ。
「紋章?
個人を証明するあれか?」
そう。
あれって中に封蝋印が入っててさ、手紙に押して本人証明したりするんだよ。
「つまり?」
つまり、俺の印が入った手紙がもうばら撒かれてるって訳。
闘技場の街で剣闘士をやってますってな。
時間差で配ってるから、丁度チャンピオン大会の頃に、俺の信者と協会関係者が押し寄せるぞ?
「だっはっは。
なんだよ。
もう終わってんのか。
詰んでんだな?
アイツらは。」
そゆこと。
「じゃあ後はやってくる事は一つだな。」
そう。
もうそれしか手がない。
チャンピオン大会で正々堂々と戦った結果殺してしまう、だ。
それで告発する事なく俺を消せたら万々歳って訳だね。
「超強いやつを呼びそうだな。
ほら、噂の伝説のチャンピオンとか。」
そうだねぇ。
でももう、死ななけりゃ勝ちって状況だからさ、負けようがないのよ。
「ははは。
何だそれ。
ま、いいや。
俺は消える。
お前らは俺を殺す気はないんだろ?
ここにいたって殺されるだけだからな。」
あ、待てよ。
これ、必要だろ?
「何だこれ。
薬か?」
そう。
小児用のな。
例の魔力が出過ぎるやつの薬。
空調は自分で買えよ。
「…なんで。」
いや、小児性魔力過多症なんて医者から直接聞かないと知らない病名だろ。
入れ知恵の知識じゃない。
子供にやんなよ。
人質なんだろ?
助かったらいいな。
「…。
すまない。」
馬鹿か、お前に言ったぞ、俺は。
子供は自分の手で育てられるならそうしろ馬鹿が。
ってな。
最初に会った時だ。
上手く逃げろよ。
最悪行く所なかったら王国に行ってジェマって人を頼れ。
ウチのお父さんは懐が深いからな。
「ああ。
…ありがとうございます、神子様。
いや…。
…ラルフ、ありがとう。
いつか、また。」
おー。
元気でな。
またな。
「良かったの?
ラルフ。」
うん。
あれでよかったと思うんだけど、自信はないよね。
いつもそうだよ。
やる事やったらあとは仕方ないんだ。
さて…この国の誰がかは知らないが、薬の独占もやってる訳だ。
はいはいはいはい。
なら良いよ。
俺が薬になってやるよ。
この国の病気のな。
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