第139話 5戦目

会場に入ると、正面の客席にピリルルが見えた。

隣にはティナとリリーディアが居る。


ピリルルがティナを連れて来て、リリーディアがついて来ていない訳ないよな。


そっちに向かって小さく手を振ると、ピリルルが人差し指と親指で丸を描き、勝ってね、と口だけ動かした。


そうか、賭け始めたのか。

今回からマジで勝たないといけないね。

倍率は一律2.0倍らしいので、勝てば倍になって返ってくる。


今回いくら賭けたのさ。

…小さな声で呟くと、ピリルルが3本指を立てた。


なるほど?

金貨3枚ね。

うへー300万円か。


超がんばろう。


「さぁ!お待たせいたしました!

新進気鋭の剣闘士!


美しい容姿と立ち振る舞い。


今期初参加、4戦目で既に4勝全勝!

ダークホースの香りがプンプンするぜ!


剣闘士、ラルフだ!」


びっくりした!

今回は何紹介アナウンスがあるのね。


家族と友達が来た途端に…。

恥ずかしいって。


「対するは!


相手は実力を出しきれずに負けていく!


巧みな剣術でじわじわ相手を追い詰めていくぞ!


前回シーズン5位!

今シーズン成績は4勝1敗だ!

今期も上位を狙えるぞ!


剣闘士、キャオ!」


キャオさんね。はいはい。

あいつだな?毒を入れた奴。


多分きっと、そうだと思う。

服が黒いしダボっとしてるしな。

正義は勝つ!




いやー、普通に強かったキャオさん。

ダボっとした服は普通に幻惑されたし、手数が多くて厄介だった。

服の中には武器が沢山仕込まれていたらしく、知らない攻撃を受けるのは難しいね。


しっかし武器の素材差がエゲツないなぁ、我ながら。

剣戟の中で10センチ剣を伸ばしたり出来るだけでもズルいのに、一合打ち合うたびに一つずつ武器を破壊していく。


最初は毒入れた相手の可能性があるので、剣の刃を受けないようにして、口の含み針とか警戒していたが、基本的に両手に武器を持ちそれで攻撃して来ていた。


武器を5本破壊した頃にやっと、この人はトリッキーなだけで普通に強い剣士なのでは?と思ったが、一応で刃を警戒して触れないように破壊した。


辺りに14本の武器がバラバラになっている。

そうすると彼は両手をあげて降参し、こちらと握手をし、フードを脱ぐと爽やかに笑った。


「いやぁ!負けた。

凄いな、武器もだが完全に見切られていた。


また武器を集め直して挑むとしよう。

コレクションの中でも指折りが折られてしまったのでな!


では、今後も健闘を祈る!」


と言い、去っていった。


…なるほどなるほど。


武器コレクターでそれを使いこなすほど真摯に練習して来たやつの武器をポキポキ折っていたのか。


勝手に心の中で冤罪を掛けて。

やらなくても良い程丁寧にポキポキと。


それでも心が折れない程の剣闘士の武器をポキポキポキポキ。


落ちている武器を見ると、明らかに年代物や何なのか素材の推定が出来ない武器が沢山落ちている。

それも大切に磨かれた様子も見えるのだ。


俺だったら絶対に泣いていた。

前世の俺のコレクション、ヴィンテージ薬瓶とか割られたら相手を激励なんて出来ない…。


申し訳なくなってきた。

全部でいくらするんだろう…。


俺はバタバタと愛想を振り撒いてから会場を出ると、急いでランドを探してキャオの居る棟へ案内して貰った。


剣奴は4ブロックに別れて生活しており、同ブロック内で戦う事はないのだ。

八百長を警戒しているんだろうね。


キョロキョロ探していると、キャオの方から声を掛けてくれた。


「どうした?

2人して。

誰を探しているんだ?


あまり他の棟へ来ない方が良いぞ。

基本的に敵だと思ってる奴が多いからな。

俺の個室へ来いよ。

危ないから。」


なんて良い人だ!

目が赤いのに!

絶対少し泣いたのに!


「まあ、座れよ。」


おぉ…やっぱり剣が沢山あるな。

壁一面飾られた剣だ。


なんか飾り方にも拘りを感じるなぁ。

明らかにお気に入りを飾る辺りが空なのが凄い心に来るけど。


「ラルフ、あんま気にすんなよ。

道具は壊れるもんなんだから。

強い奴と戦って折られたなら俺が悪い。

悔いはないよ。」


…こんなに武器が好きって事は、凄い鍛冶屋とか知ってる?


「え?

ああ、まぁな。

いや、お前の武器よりスゲーのは見た事ないけどな。

何で出来てんだそれ。」


これ?龍のやつ。


「神話の武器じゃねぇか。

ま、扱うのも技術だからな。

羨ましいけど、負けたのには納得するよ。


んで、鍛冶屋か?

この国に有数の鍛冶屋がいるぞ?


剣闘士が集まるし、世界一デカい大会開かれるからな。


紹介して欲しけりゃ聞いてみるけど。」


いや、剣をさ、折っちゃったじゃん?

悪いなって思って。


「いや、だから別に…。

お前、これ竜か?


しかも何十年とかじゃないだろ。」


処分に困ってるんだよ、この鱗。

持って来たはいいけど、値段なかなか付かなくて。

一枚預けてあるんだけど、いつになるやら。


だからさ、これを素材に剣を作ってみない?

コレクターの逸品、信用するからさ。


2枚はキャオの武器用に、1枚は鍛冶屋の工賃。

んで、俺に二振りの剣を作って欲しいんだよね。


「いや貰えねえって。

お前も武器要らないだろ。」


依頼するんだからタダで頼むわけないだろ。

あんたの武器壊しちゃったし、報酬込みだ。


「ダメだって。

せめて一枚はランドに渡せって。」


ランドは命懸けで協力してもらうんだ。

これをやるよ。


「神子さま…これは?」


獣神の腕輪だ。

魔力を通すと剣になる。


「おぉ…。」


それは僕の持ち物で一番強いよ。

龍より強いかもしれない。

使ってよ。


「こっちも神話クラスじゃねぇか。

わかったよ。

その鱗は頂く。


だが俺のプライドに掛けて鍛冶屋に最高の剣を打たせる。」


最高じゃん。

じゃあお願いするよ。


あ、ちなみにキャオの剣は刀にしたら?

合うと思うよ。

居合。

カッコいいし。


「何だそれ?」


よしよし、近い鞘付きの片刃剣が壁にあるね。

教えてあげよう。

あ、ランドは先に帰れよ。


対戦の可能性あんだから。


「はは。

分かりましたよ。

対戦を楽しみにしておきましょう。」


指導の能力の見せ所だな。

笑い方も先人に倣うかな。

シャシャシャシャシャ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る