第134話 ここにいる子供

朝方、宿の外から怒号が聞こえる。


昨日ピリルルが言っていた通りなら、兵士がここを守っているので安全なはずだ。


耳を澄ますと、大きな声を出しているのは兵士の方で、もう片方は何かお願いをするような声だ。

最初は女の人かと思ったが違うな。

子供か。


見に行こう。

僕が居るせいであの子の普段の生活に支障をきたしているのかも知れないからね。

あんなに怒る事ないじゃない。


外に出るとやはり若い兵士に子供が怒られている。

服装も綺麗とは言い難い子供を、兵士は遠くへやりたいようだが、その子はこの宿を商売の場としていたらしくて、いつもこの辺で仕事をしているのになんでって話のようだ。


「チビ達に飯をやんなきゃならねーんだ!

頼むよ。

別に俺らは悪さしてないだろ!


あんた達だって知ってるじゃないか…。」


「分かってるって。

わりーけどさ、俺らもお前らが悪い事をして生計を立てていないのは知っているが、ダメなんだよ。

超偉い人がこんなとこ泊まってて上がピリついてんだ。

なるべく早く高級宿に移ってもらえないか話すから、今日だけは我慢してくんないかな。


俺も直訴できる立場じゃないけどさ、隊長に頼んでみるから。」


あちゃー。

本当にごめんね。


僕らの金銭感覚がおかしくなってたばっかりに。

いやぁ、学んだよ。

棲み分けって必要なんだね。

観光だとか娯楽で好き勝手するもんじゃないわ。


「あ…!」


あ。

見つかっちゃた。

ごめんね。

僕らが邪魔だね。


「申し訳ありません神子様。

コイツらは、悪気がある訳じゃ無くて、あの。

いい奴らなんですが、あーっと…。」


聞いてたから分かるよ。

何も悪い気はしてないよ。

こちらこそごめんね。


ところで君は宿で何を売ってるの?


「あ、オレ?

ここらで毎朝何をして欲しいか聞いて回って、仲間に伝えて回るのが朝の仕事。


観光がしたかったり、闘技場を見たかったりしたければ詳しいやつを呼ぶし。


ボタンが取れたとか、靴が壊れたとかで直して欲しいならは別の上手いやつがやるし、あんまこの兵士のあんちゃんがいるところじゃ言いにくいけど、女の人が欲しいなら別のやつを呼んだりする。」


めちゃくちゃ真っ当じゃん。

いや、アングラの案内もするんだろうからグレーだけど、ニーズに応えただけだ。


じゃあ僕らも闘技場の案内頼もうかな。


「いやいやいやいや。

不味いんすよ。

え?

神子ってこんな感じなの?

もっと神父とかみたいな偉そうな感じかと思ってたっすね、俺は。


いや、でも不味いっす。

ほら、コイツらちゃんとやってるけど、貴族の連中からみたら汚いってあんま良く思われてないんだから、アンタが連れて回ったら下手したらコイツらの立場が悪化するって。」


僕がいる間はいいけど、居なくなってからってことね…。


「どうしたのラルフ。

早いね。


ん?

なんかあった?」


いや、僕らが考えなしに泊まるとこ勝手に決めたから、困ってる人が出て来ちゃってさ。

なら僕らが雇おうかと思ったんだけど、服装とか身分でそうもいかないんだって。


「僕らがいる間はいいけど、ってことね。

服は僕らが買ってあげたら?

別に今すぐお金が必要な訳じゃないし、バイトする予定だったんだから。

何処いくにしても案内があった方が早いよ。


それで、ラルフがきちんと雇った事を紙に残していけばいいよ。

それなら、服装も立場も問題ないね。」


さすがピリルル。


「ありがとな、ゼロよりゃ全然いいわ。

サービスするように言っとくから弾んでくれよ。


じゃあ、呼んでくるから。」


ん?

キミが案内してくれるんじゃないの?


「あ、いや、コイツは…。


すいません、俺が言える事じゃないんですが、この国で俺は一番コイツらがこんな存在になってるのが嫌いなんですよ。

だから出来れば使ってやって欲しいけど…。」


「いいって。

気にすんなって。

孤児のやつを呼んでくるし、ちゃんと分け前も貰えっから。」


この子は孤児じゃないの?

キミが案内してくれたらいいじゃない。


「…コイツらは厳密には存在しない子供です。

あの悪趣味な闘技場の剣闘士のガキで、勝者にあてがわれた女の子供なんすよ。


だから父親は誕生すら知らない。

母親は…どう思ってんすかね。

俺には分からねーです。」


…ふーん。


「そ。

だからオレらが表に出るのはやべーんだ。

殺されそうになっても誰も助けてくれない。

やっちゃっても罪にならないからな。


このあんちゃんみたいに内緒で助けてくれる人も居るけど、さ。


だから、他所からきた偉い人ならあんまり関わらない方がいいぜ。

嫌な気持ちになるだろ?」


…もうなってるよ。


ピリルル。

この金貨と鱗任せるから増やして。


念の為お父さんにお金を送るように手紙も出しとくし。


「おっけー。

ラルフはどうすんの?」


剣闘士になるよ。

まずはこの子らの父親に話を聞いてから暴れるかどうするか決める。


「じゃあ勝ってね。

賭けるから。

どうせギャンブルでしょ?

勝てるならそれが一番手っ取り早い。」


おっけー。


「いや、子供は出れねーって!

オレらはいいから大人しくしといた方がいいよ。

あぶねーんだから。

毎年何人も死んでるんだぜ?」


はぁ、子供は出れないってね。

じゃあ死魔法で大人になりますよ。


はい、解決。

連れてけ。

あ、お前の名前は?


「名前なんてねーよ。

髪が赤いから赤髪って呼ばれてるよ。」


クリムとレッドどっちがいい?


「あ?なんだそれ。」


お前の名前だ。

道中決めとけよ。


必要になるようにしてやるから。

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