第133話 神の子と王族の金銭感覚

無事入れて良かったね。


「あれを無事と呼ぶならそうだね。

騒ぎを起こさないって約束したけど大丈夫なの?」


いや、望んで騒ぎを起こした事なんてないし、今まで人を巻き込んだ事なんで一度もないよ。


「…。

とりあえず宿を取るんだっけ。」


うん。

ピリルルには悪いけど、ショボい宿しか取れないと思うんだよね。

お金が無くて。


「それは構わないよ。

元々僕らにはこの国のこの街での信用がないんだから、高級宿はお金があっても借りられなかったと思うよ。」


そうか、そういうものなのね。


じゃあ治安の悪そうな方へ歩いて行こうか。


「…まぁ仕方ないね。

大丈夫そうだし、いいんじゃないかな。」


僕らは遠目に屋根がボロそうな地域へと向けて歩き出した。

間に屋台が立ち並び、美味しそうな匂いがしているけれど、具体的な宿の金額が分からないので、今買う訳にはいかない。


やはり海に近いので魚が多いようだ。

釣りなんかも出来るならやってみたいな。

気のいいおっちゃんが船に乗せてくれないかな。


スラムっぽいところに入る前に、市場の辺りで宿を見つけた。

まずここの値段を聞いて、高すぎてダメそうなら更に奥へ行こうかな。


「ここはまだダメじゃない?

人化を覚えた記念に家族で宿へ行ったけど、確か一泊金貨2枚くらいしてたよ。」


そうかぁ。

宿は高いなぁ。


じゃあゴリゴリ治安の悪そうな方へ行こうか。


「あ、ちょっと待って。

そこの小道入って。


…。

うん。

もういいよ。」


なになに?

なんかあった?


「いや、追われてるから先に行って貰ったんだ。」


うっそー!

怖いね。

物取りとかかな。

やっぱこの辺治安悪いんだ。


「いや…。

…。

そうだね。

でも多分もう大丈夫だと思うよ。

大急ぎで片付けてくれると思うから。」


そう?

良く分からないけど、騒ぎにならなさそうなら良かったよ。


僕らは更に奥へ行く。

本当に意外となんにも起こらないもんだ。


でも何処からか視線を感じるね。

やっぱり子供二人でこういうところに居るのは珍しいのかな。


あ、あれ宿じゃない?

値段聞いてみようよ。


こんにちは!

お姉さん、ここは一泊いくらでしょうか。


「あら、こんにちは。

二人?

ここは一人5枚よ。」


そうかぁ。

金貨5枚はないんだよね。

諦めるよ。


「金貨?

あはは、いやだね。

銅貨5枚よ。

この辺では高い方だけど、料理もつくし毎日部屋の掃除もするから、サービスには自信あるよ。」


…銅貨ってなんだ。

そういえば今まで買い物をしたことが無かった。


その辺歩いてたら誰かしら飴とかりんごとかくれるし。


漠然と、銀貨が1000円くらい、金貨が1万円くらいだと思い込んでた。


とりあえず銀貨1枚を渡しておこう。


「はいよ。

丁度一泊分だね。

連泊するなら毎回先払いしておくれ。


これ、鍵だから。

2階の一番奥の部屋だよ。」


ありがとうございます。


とりあえず銅貨10枚で銀貨なんだね。

また一つ賢くなってしまった。


じゃあ金貨一枚で銀貨10枚かな?

ピリルル知ってる?


「いや、銀貨100枚で金貨一枚だよ。」


え?

じゃあここ100泊出来るじゃん。

もしかしてお金の価値を完全に間違えてる?


部屋に入ってピリルルに確認してみると、そもそも銅貨が一番低い貨幣ですら無かった。


青、穴鉄、鉄、銅、銀、金の順で高くなり、りんご一個が穴鉄一つ。

大体50円くらいだ。

青貨が5枚で穴鉄らしいから多分そうだ。


じゃあ銀貨って1万円くらいなのか。


…じゃあ僕の所持金100万くらいあるじゃない。


「そうだね。

僕もあんまりお金に疎くて分からなかったけど、考えてみたら二人とも国有数に裕福な育ちだし、神の子と王の子で自分で買い物しなくても平気だから、金銭感覚おかしい可能性が高いね。


家族で泊まった宿が一泊金貨2枚を認識すると眩暈がして来た。

5泊もしたんだよ。」


1000万円!

さすが王族。


ティナが商会の月の利益が金貨20枚くらいで、まだまだね!

って言ってたのを聞いて、20万円くらいの利益なのか、子供のくせにやるじゃんって漠然と思っていたけれど、あれ2000万円か…。

だったら僕とアンヌに還元してくれてもいいじゃないか。


今回持って来た金貨一枚と銀貨8枚は、僕のお小遣いが8ヶ月分と、毛生え薬を1本売った利益の半分だ。


始めの頃はお小遣いが無かったが、あまりに何も欲しがらないので少し前から月に銀貨2枚を貰うようになったのだ。


薬は実験台ブランドさんと、そこから派生してお願いされたエリズさんからはお金を貰っていないから、お父さんが誰かに売った一本の利益の半分。

半分はお家で使って欲しいと言ってルーベンスさんに渡したのだ。


一本200万円もするの…毛生え薬ことエリフサー。

超高級薬ならこんなふざけた名前にするべきじゃ無かった。

家に好きに売ってねって15本置いて来たんだけど…。

あのお父さんが利益を僕に言わずに使う訳ないので、おそらく今頃家計にも入れずに全額置いてあるだろう。


「これ、旅の最後まで働く必要ないんじゃない?


そうかも。

少なくとも、明日一番最初にする事は決まったよ。


両替だ。


100万のお釣りなんて絶対用意されていないし、大きい街にいるうちに細かくしておかないと、お金があるのに使えない状態になりそうだ。


急に泥棒とか怖くなって来た。

この宿の治安、大丈夫かな。


「この宿は分からないけど、ラルフのいくところに先回りして兵士が人払いしてるから、安全だとは思うよ。」


なにそれ。


「この国に来てからずーっとそんな感じだけど。」


なんか恥ずかしくなってきたな…。


「王国でもそんなに遠くない様子だったけど?」


…早めに寝ます。

そうして早く大人になるのだ。

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