第132話 平和に入国

「それで…神子様は何故この街へいらしたのですか…?」


10分くらい待ったあとに肩で息をしたお爺さんが入ってきた。

どこかから走って来たのだろう、可哀想に。


街に来た目的か。


まず、旅の途中であること。

ラルフィード様が歩いた残りを歩いて、教会の本山まで行くという修行の旅だ。

建前は。


副目標に、遺跡も見たいし、自分の目で各地を見て回りたいこと。


この街でも目的は、金策と観光だ。


ほぼ無一文で出発したので、次の街までの食糧などを手に入れたい。

僕の能力と照らし合わせればこの街には手伝える仕事があると思ったのだ。

なんせこの街にはこの世界で一番大きい闘技場があり、毎日誰かが怪我をしているのだから。


医者のバイトだね。

あとは道中手に入れた素材を薬にして販売しようと思っていた。


培養中のカビもある。

髪の薬も作れるってことだ。


竜の鱗で今日は凌ごうと思っていたけど、相場が分からないからなぁ。

本体はアレだけど、見た目は綺麗な鱗だから少しはお金になると思うんだけど。


「はぁ。

竜ですか。

拝見させて頂いても宜しいですか?

丁度商人も来ておりまして。」


どうぞ。


僕はポケットの左右から5枚ずつ鱗を出した。

大きさで言うと縦15センチ、横センチほどで丁度掌サイズだ。

軽いけどすっごい硬いんだよねこれ。


後から入室して来たスポーツマンの様な体格の人が商人の様だ。


「とんでもない魔力ですね…これ。

20年や30年物ではないでしょう。

一体幾年を重ねた竜なのか想像もつきません。


ほら、ここ、見てください。

通常の竜の鱗には木の年輪の様に年ごとに線が入るのですが、あまりに細か過ぎて線がない様に見えるほどです。」


そうなんだね。

800年って言ってたよね。

たしか。


あ、でも3分の1は人だったし、最初から竜では無いからせいぜい250年物じゃない?


「250…。

すいません。

私の一存で価格を決められませんね。

証書を出しますので、一枚預けて頂けませんか?

上の者に聞いてみますので。」


そうなんだ。

古いもんなー。

残念だな…。

預けるのは構いませんよ。

ポッケに入れてても邪魔だし。

硬いし。


残りの手持ちのお金は金貨1枚に銀貨8枚だ。

場末の安宿なら二人でもなんとかなると思う。


とりあえず入国は大丈夫?


「それはもちろん大丈夫です。」


やったー!

とりあえず宿を見に行こうかピリルル。


「いや…ラルフ。

なにも上手くいってないよ。

僕も世間知らずな方だと思うけど、こんなに困った大人初めて見たよ。


なんか、そのバカみたいな感じやめてよ。」


あ、ダメ?

無知のまま背後の権力で乗り切ろうと思ったんだけど。


ごめんなさいね。


本当に観光なんですよ。

旅の途中なんです。

良くいる旅人で、ただ世間知らずな為に無駄に紋章をひけらかしてしまっただけで…。

なのでこの国の人に迷惑を掛けるつもりもないし、無茶をするつもりも無いので、放っておいてくれると。


紋章も見なかった事にしてくれていいです。


何があっても自己責任で結構ですので、ただの修行中の神職として扱って下さい。


「えぇ…とりあえず分かりました。

しかし、国としては難しいです。

貴方に何かあると外交的にまずいので。」


なるべく目立たない様にしますよ。

なんか僕を探している人達もいるようですが、知らないで通してしまって良いです。


本当、大人しくしているので。


「お願いしますよ。

本当に。」


ラルフはいい顔で頷いているが、ピリルルは無理だろうなぁと思っていた。


龍の鋭い五感には外の大慌てがまだ聞こえているし、別に鋭くない第六感がなくてもなんかに巻き込まれている友人が見えるのだ。

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