第130話 青
名前を聞かないまま去って、この出来事を無かったことにする。
そんな計画が消えてしまった。
ここまで避けに避けて来たのに。
「リナリーンよ。
私の名前。
最高の経験をありがとう。」
は?
リナリーンだって?
そんな多くいる名前じゃないでしょ。
もしかして魔女の村出身の人?
「魔女の村?
なにそれ。
…北の方にある女だけの村?
違うの。
確かに北の方から来たけど、別に男の子もいたの。」
あ、そうなの。
なら関係ないか。
龍を祀ってた所なんだけど。
「あ、ならそうかも。
出身というか、私が作った村だから。
800年くらい前かな。」
リナリーンって世襲制だったんだ…。
「なんで女の人が空を飛べなくなったの?」
あー。
伝承があったね。
空の民の男と地の民の女に別れていたけれど、ある時から地の民が飛べなくなって女しかいない村が残ったって。
「あー。
まぁ色々あったの。
飛べなくなった理由は、龍が発生したせいだけどね。
まあ、風の溜まりを利用してたからいつかは発生すると思ってたけど、トドメの発生原因は私かな。
信心深い子供が龍を祀るって言い出して、外に男を調達に行く様になった頃に、私は外に出たからそこ辺り迄しか知らないの。
発生した龍がメスだったし、居なくなれば風も治るかと思って何回も殺したんだけどダメだったのよね。
幼い龍だったから簡単だったんだけど、いつからか呪われてこうなっちゃって。」
…龍の呪いだったんだ。
その龍ってエアリスだよね…。
「あぁ…。
幼龍を殺しても願いは叶えられないし、度が過ぎると呪いに掛かると言われているね。
でも、トドメってなにしたの?」
たしかに。
簡単に生まれるものじゃないでしょ。
龍なんて。
「となりの国から小さな男の子の孤児を拾ってきて、最強の旦那さん育成計画を立ててたらなんかたくさんの兵士に襲われちゃったから、溜まりに誘い込んで一網打尽にしたの。
溜まりに命を捧げ過ぎたのよね。」
詳しい事はわからないけど、これだけはわかる。
リナリーンはリナリーンだ。
現リナリーンと明確な血の繋がりを感じる。
家に帰ってきた時に読ませて貰った現リナリーンからの手紙と言うことが酷似している。
「それ本当に孤児だったの?」
「本当。
だって一人で歩いてたんだもの。
村で男が一人で歩いていたら、誰に取られるか分からないんだから。」
おぉ…。
絶対孤児じゃなかったな…。
しかも手を出しちゃいけない身分だったんだろう。
そういえば僕、よく無事だったな。
最初にリナリーンの側近にモテ方をレクチャーしたから、別の利用価値がうまれたんだろうか、いや僕の知らないうちにリナリーンが分からせて回ったのだろう。
そっちの方がしっくり来る。
あんまり考えたくないや。
しかしややこしいなぁ。
リナリーンって名前が二人いるとさ。
「じゃあ私のことはリーンお姉さんって呼んで欲しい。
あ、リナ姉も捨てがたい!
単におねーちゃんでもいいし、迷うね!
どれがいい?
ラルフくんとピーちゃんで決めてくれていいよ?」
うっ…!
ちょっとだけスキンシップしただけなのに、ピリルルの呼び名がランクアップしてる。
関わっちゃいけない。
もう用はないし逃げよう。
ヤイシャ、色々ありがとう。
本当に会えて嬉しかったよ。
僕らが出発して1時間くらいソレを捕まえて貰ってもいい?
「構わんぞ。」
良かった!
ありがとう。
ピリルル、龍になって!
逃げよう。
僕を乗せてくれ!
「任せて!」
どこに行くかは口にしないでとりあえず距離を離そう!
じゃあね、ヤイシャ。
ごめんねバタバタして。
「待ってー!」
待たない。
初代はリナリーンの800年煮込みだ。
味が濃くなって危険も増していることを理解した。
逃げるのだ。
ここには捧げる勇者は居ないのだから。
ピーちゃんも僕も勇者ではない。
やっぱりペリンは凄いやつだ。
空に飛び立った後、ピリルルが低い声で言った。
「次ピーちゃんって呼んだら、あの女を探し出して、そこに置き去りにするからね。」
すいません。
ごめんなさい。
もうしません。
真っ青な空の上で、僕は青い顔でその事を想像して、ブルーな気持ちになった。
濃い青紫色の龍の背中で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます