転々転生

第129話 神獣の復活

結局欲望の形は、姉を背もたれにして本を読みながら撫でられる少年。

という形で落ち着いた。

ピリルルは

「なんだ、別に変な事じゃないじゃん」

と言っていたが、お宅の姉も相当なので、他所で言わない方がいいと思いますよ。

実際は愛属性魔法をお姉さんに掛けて、ピリルルがお姉さんに寄りかかったところで精神が限界を迎え、進捗率30%くらいで気絶してしまった。

最後のセリフは

「ありがとう！」

だった。

お姉さんの愛属性魔法の魔力バフはとんでもない効力を発揮して、無事呪いを弾いた。

ペリンに使った時よりも高い効果を発揮した事を考えると戦慄する。

莫大な魔力が放たれた結果副産物もあった。

僕のポッケの中のヤイシャの石が光り、ヤイシャが復活したのだった。

こんなヘンテコな場面で起こしてしまって本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。

僕と龍と神獣とでお姉さんの目覚めをとりあえず待つことになった。

「そうか、我は負けたのだなぁ。

強くなったな、ラルフ。

神格を得てからは傷一つ負った事がなかったのに。」

いや、環境がよかったよ。

魔力の空白地帯が無ければ、一泡吹かせる事が出来ても、その後何も出来なかったと思うよ。

ヤイシャを追い詰める攻撃なんて持ってないもの。

「ラルフが勝ったの？

ヤイシャさんって神獣でしょ？

パパとかママでも絶対勝てる訳じゃないと思うよ？」

あ、そんなに強いのね。

でも、ヤイシャも僕を試そうとしてたから、最初から全開で来られたら絶対勝てなかったよ。

「ふむ。

確かにそうした。

龍王の子よ、しかしだな、我はラルフをナメていた訳ではなく、獣のルールみたいなものなのだ。

挑戦を受けるものは相手の手を一通り受ける。

それを返してこその強者たがらな。」

それは大変だね。

確かにヤイシャは守りもすっごい上手かったもんなぁ。

「いや、受けてくれるって言ったって、普通どうにもならないよ。

僕が挑戦しても、まず勝てない。

でもそうか。

ラルフと僕が何もないところでただ戦うだけなら、僕が勝つだろうしね。

でもねーちゃんには絶対に僕は勝てないし、強いっていうのにも色々あるって最近思っているよ。」

そうね。

喧嘩に勝てなくたって自分のやりたい事を押し通せるなら、強いと言っていいからね。

口が上手いとか、財力とか、何かで感動させて賛同させるとか、方法は無限にあるもの。

「なら僕はたくさん考えて争い自体起こらない様にしたいな。」

それが一番難しいもんなぁ。

「しかし、負けたか。

よし、ラルフ。

神獣の報酬をやろうか。

右手が空いているからな。

我の牙と爪をやろう。」

ヤイシャの牙と爪が取れ目の前でくるくると混ざり、浮いている。

僕はそれを右手で受け取ると、腕に絡まり腕輪になった。

「それも自由に形を変えられるぞ。

我の素材は汝に懐く。

例えば投げて手元から離れても、すぐ腕に帰ってくるのだ。

上手く使ってくれると嬉しい。」

うん。

ありがとう。

嬉しいよ。

「そうだ。

カカシャの集落には我が話しておかなければならない事があるが、汝にも関係あるからな。

先に話しておこう。

集落の長は人間はなれぬのだ。

正確に言うと、過去に鉄と植物の争いがあってな、鉄の者は長にはなれないしきたりなのだ。

振り回してすまないな。」

そうか。

じゃあ無理して戻る必要もないか。

あ、待てよ。

そうだった。

ピリルル、遺跡はどうする？

見に行く？

「いや、それがね。

もう少し人化が上手くならないと探索すら出来ないと思う。

完全に魔力を散らしちゃうなら入った瞬間僕は消し飛ぶよ。

龍も簡単には死なないから、死までは行かないだろうけど、探索どころじゃないね。

神獣でも魔力維持できないなんて異常だ。

もっと人化が上手くなって定着したら見られる可能性があるけど…。

実際は分からないね。

希望を込めてってところ。」

そっか。

なら余計に森へ戻る理由が無くなった。

この泉は結構森の端だから、戻るならもう一回森へ入り直さなきゃいけないし。

じゃあ僕からも伝言をお願い出来る？

長にはなれないけど、友達にはなれるから、困ったら言ってって伝えてよ。

「あぁ、わかった。

必ず伝えておこう。」

よし、それじゃあ行こうか。

「いや、待ってくれ。

コレを置いていくな。」

あっ。

バレた。

自然に置いていこうと思ったのに。

正直出来ることはもうないし、今なら名前を教えてもらってないから、ギリギリ他人だと思うんだけど。