第128話 ごめんねピリルル

「じゃあ頑張って耐えてね。」


結局背中を触ることになった。


最初は手を握って診察しようとしていたのだけれど、触られている感触、目で見える映像に耐えられないとの事なので、背中になった。


ピリルルはもうなんか慣れて来たみたいで普通に接している。


これが全然受け入れられないなら、もっと受け入れられない存在が家族にいるから順応がはやい。


診察してみた結果としては、変なところはある。

でも変身の仕組みが分かってないので確定的ではない。


そういえばピリルルも変身できる様なもんだよね。

一回見せてくれない?

出来れば診察をしたままやってくれると理解しやすいんだけど。


「いいよ。

でもこれ結構疲れるんだよ。

魔力の消費が激しいんだよね。」


ピリルルの手に触れて診察を発動する。

さ、どうぞ。


あ、お姉さんはあんまり見ないで。

気が散るから。


はえー。

なるほど。

一度完全に魔力になってから再構築されるのね。


魔力ってそんなに万能素材みたいなもんなのね。

通りで魔法の治療で綺麗に治る訳だ。

身体の部品を代替しているわけだ。


ありがとう、ピリルル。

一応戻る時も見せてね。


うん。

見立て通りの魔力の動き。


足りない成分は魔力で置き換わって、いらない成分はどっかに消えていってる。


呪いは始動パーツの魔力と、性質を誘導するパーツがあるはずだ。

ピリルルは自分でそれを操作して一つの現象として再現している。

例えばサンドラさんの場合は髭が伸びるだけだから始動だけ良かったんだと思うけど、ここまでガラッと何もかも変える場合は操作がいるはずだ。


もっと複雑かもしれないが、竜化を防ぐだけなら、呪いを始動させる何かを外せば良いんだな。


「ラルフ、やれそう?」


まずは検証してみないと。

間違えて始動を残して他の呪いを外してしまった場合、どうなるのかが分からない。

確実に始動から消さなきゃいけない。


まずこの人についてる違和感。

皮膚一枚下、全身にあるお姉さんと別の魔力。

これは確実に違和感だ。

あとは目の奥にもあるし、目に近いから分かりにくいけど眉間の奥にもある。

あとは…お腹と尾てい骨あたりにもあると思う。


どれがそうだか分からんね。

ヒントもないし、間違えられないし。

ピリルルはどう思う?


「うん。

その想定でいいと思う。

よくそんなに細かく調べられたね。

すごいよラルフ。


…うーん。

普通に考えたら脳に近い眉間の奥か、身体の中心に近いお腹の魔力から変化を始めるのがセオリーだと思うんだけど…。


もし僕が呪う側だとしたら、そのどちらかに罠を張ると思う。


例えば2度と呪いが解けない様にするとかね。」


僕もそう思うよ。


もう一つ案があるんだけど、気が進まないんだよねぇ。

一応前提を詰めておこう。


例えばピリルルがこのお姉さんに呪いをかけられたとするじゃん?

そうしたら発動するもんなの?


「しない、と思う。

僕の方が圧倒的に魔力の器がおっきいから、効果を発揮できずに消えると思う。

いや、確実に消える。」


なるほどね。


この呪いの力の強さは大体このお姉さんの3倍程度なのだ。

いや、よく探るとこのお姉さん自体相当高い魔力だと思うから、それの3倍ってとんでもないんだけどさ。


掛けた側は人外と言っていいと思う。


でも3倍くらいならどうにかなる魔法を持っているんだよね…。

気が進まないけど。


どうしよう。


僕は診察で様子も見なきゃいけないし、ピリルルにお願いするしかないんだよなぁ。


このお姉さんの感じなら3倍くらい余裕で超えると思う。


本当にごめんね。

ピリルル。

お願いしていい?


「ん?何を?」


お姉さん、女の子座りして貰っていい?

あ、そうそう足をぺたんってね。


じゃあピリルル。

膝枕して貰って。


「はっ?」


「ラルフくん!

それは…。

最高です。

死ぬかもしれない。」


真顔で言わないで。


「ちょっと、全然意味が分からないよ…。」


馬鹿馬鹿しいから説明したくなかったんだけどダメ?

ダメか。


愛属性魔法っていう、感情で能力にバフを掛ける魔法があるんだけど、それを掛けてお姉さんの能力を大幅に上げたまま気絶して貰えば呪いを弾くんじゃないかと思ってさ。


「それでなんで膝枕なのさ…。」


感情のままに強くなる魔法だからお姉さんの気持ちが上がるかなって…。


「いや、上がらないでしょそんな事で。」


「上がる!

上がるよ!

超盛り上がる!


あ、でも後ろから抱きしめてくれてもいいな!

お腹に抱きついてくれるのも捨てがたいし…!


ダメじゃん!

後ろから抱きしめられるのは最高だけど自分で触れないじゃん!

髪の毛とか触りたいのに!


ラルフくん、膝枕はなかなか良いチョイスだと思うよ。

設置面が多いのに、目が合うし自分で触れるしね。

なかなかやるじゃない!


でもでも!

冷たくされるのもそれはそれでね!ね?」


欲望爆発させて来たな…。

いや、でも今回はその爆発が治療に必要だから…。


「この人を世の中に解き放って大丈夫なの?」


…超迷う。

でもまぁ、治してから考えよう。

逆に竜のまま欲望を爆発された方が危険だと考えよう。

今までよく我慢して来たなと考えよう。


「じゃあラルフがやんなよ…。」


僕は仕事があるから、ごめん。

本当にごめんね。

やる事が山積みで。

もう一つも手が回らない。


「あ!

ピリルルくんがラルフくんを後ろから抱きしめてるのとかも最高かも!

それを更に後ろから私が…。」


もう一つも手が回らないから。

二人で完結出来るやつにして。

もう一つも手が回らないんだから。

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